メッセージ
夜ご飯を食べ終えて部屋に帰ってくると、酔っ払ったカトラさんがベッドに倒れ込んで眠ってしまった。
やれやれ、と言いたげなリリーと顔を見合わせる。
まあカトラさんのことだから少ししたらスッと起き上がってシャワーを浴びて、しっかりと着替えてからまた眠りにつくはずだ。
だから彼女のことはそっとしておくことにして……。
駆け寄ってきたレイに僕は屈みながら謝罪した。
「遅くなってごめん。代わりと言ってはなんだけど、今日はデザートに果物もつけるからさ」
食事会が楽しくて、思っていたよりも戻るのが遅くなってしまった。
もう長い付き合いだから微妙にレイの機嫌が悪いのがわかる。
「だからほら、そう怒らないでよ」
アイテムボックスから取り出したレイ用の皿に、焼きたて状態のカットステーキを乗せる。
続けて出した果物を手に持って見せると、ツンとしていた表情が心なしか柔らかくなった。
良かった。
許してくれたみたいだ。
レイが食事する姿を見ていると、リリーが自分の荷物を置いている方に行ってポケットから鍵を取り出し、それを使って箱を開いた。
中からマジックブックを取ってくると、ソファーに座る。
「あ。トウヤ、パパたちから返事きてた」
「おー本当だ! 僕も見ていいの?」
「うん、ほら」
中を開いて見せてくれているので尋ねると、彼女は本をそのまま前にある机に置いた。
僕もソファーの隣に座り、読ませてもらうことにする。
リリーが迷宮都市ダンジョールに着いたことを報告した文章の下に、ジャックさんたちのメッセージが増えている。
無事を喜び、街を楽しんでといったことが書かれていた。
大体はいつもの定期報告と同じ感じだ。
当然ジャックさんの親バカ具合も。
しかし最後に、今まではなかった頼み事が添えられていた。
「『ノルーシャの状況を知ることができたら、この本で報告してほしい』って書いてるね」
「うん。探さないと、しっかり……また忘れないうちに」
「あっ。やっぱり忘れちゃって──」
「このマジックブック、パパたちのお仕事にも使えるタイミングだから。ついでにわたしが連絡係になるってことだと思う。だから、トウヤもノルーシャ探すの手伝って」
ノルーシャさんのことを忘れていたと白状してしまったので、僕が触れようとするとリリーは「やばっ」といった様子で目を逸らした。
真顔のままだけど、普段よりも少しだけ早口でお願いされる。
「もちろん、それはいいけど……。この街も結構広いし、なるべく早く見つけられるよう積極的に探さないとね。明日はダンジョンにも行くし、明後日から時間を見つけたら探しに出たりして。道中でばったり会えたりしたら楽なんだけどね」
ステーキを食べ終えたレイに果物をあげながら言うと、リリーはこくりと頷いた。
この世界では離れた土地に一瞬でメッセージを送る技術が一般的でないようだからなぁ。
この稀少なマジックブックで、ノルーシャさんの仕事の状況をいち早く知って指示を出したいジャックさんの気持ちもわかる。
僕たちがダンジョールを訪れる時にノルーシャさんを送り出したのも、その狙いがあったんだろうか?
僕とリリーはしばらく話し、それからそれぞれ順番に下の階にあるシャワールームに行って体を洗ってきた。
僕が部屋に戻った頃に予想通りカトラさんも目を覚ましたので、シャワーに送り出す。
一時間くらい後。
三人ともパジャマに着替え終え、僕たちはふかふかなベッドに深く身を沈めながら眠ることにした。
雪が降っているから音が遮断され、宿の外からは何も音が聞こえない。
暖かくて、静かで、布団も気持ちがいい。
「おやすみ」
そう言い合って、カトラさんが灯りを消してくれる。
僕は布団に潜り込んできたレイを横に目を閉じた。
食事の前に少し寝ただけでは疲れは取れていなかったらしい。
枕に体を預けると、すぐに夢の世界に入っていった。




