晩ご飯
テーブルは別だけど隣の壁際の席にいるジャスミンさんが、ローレンスさんのことを教えてくれる。
「外の街から来てのーんびりと毎日を過ごしていてね。いろいろと歩き回ったりしてるみたい。まあ悪い人じゃないから仲良くなれると思うよ」
「そうですね。今の一瞬だけでも、優しい方だって伝わりました」
肩の力が抜けていると言うのかな。
変に自分自身を偽っていない気がする。
それこそ子供の姿の僕に対しても、この場にいる誰にだって一人の人間として向かい合っているような。
この世界でまとまった休暇を取れて長い間宿に泊まり続けられるってことは、ジャックさんのようなお金持ちなんだろう。
「はーい、お待たせ。こっちの席とそっちの席、一皿ずつでいいかい?」
そうこうしていると、厨房からダイン爺と手分けして女将さんが料理を運んできてくれた。
女将さんはみんなから「ムル婆」とか「お母さん」と呼ばれている。
僕たちのテーブルにも料理が並べられるので驚いていると、モクルさんが言った。
「先に注文しておいたんだけど、良かったかな? 今日くらいは再会を祝して、僕らに奢らせてもらえると嬉しいんだけど……」
「まあ、いいの?」
カトラさんは嬉しそうだ。
「うん。僕たちがここの料理を進めたんだからね。今日はたくさん頼んだから好きなだけ食べて。もちろん『こっち』の方もね」
モクルさんがジョッキをグイッと呷るジャスチャーをする。
「ありがとう、嬉しいわ!」
お酒好きのカトラさんは待っていましたとばかりに喜んでいる。
移動中は呑むのを我慢してるみたいだったからなぁ。
ダンジョールに辿り着いてお酒が呑めるのを心待ちにしていたのかもしれない。
「この街はエールの他に蜂蜜酒も人気でね。トウヤくんとリリーちゃんには蜂蜜サイダーを……あ、ちょうどきた」
モクルさんが話している間に、料理とあわせて大きなジョッキが運ばれてきた。
「お酒が呑めない僕の分と一緒に頼んでおいたから、ぜひ飲んでみて。蜂蜜を魔道具で作られた炭酸水で割って、甘酸っぱい柑橘を絞ってるんだ。他の店にもあるけど、ここのが一番だよ」
「へぇー! 美味しそうですね、ありがとうございます!」
ジョッキの中を覗いてみると、薄らと黄色がかったサイダーがシュワシュワと弾けていた。
テーブルに置かれていく料理は、鳥をジャガイモや芽キャベツとオーブン焼きにしローズマリー風のハーブを載せたものや、クリームシチューが入ったポットパイなど豪華だ。
「それでは、乾杯!」
料理が揃い、サムさんの合図で全員がジョッキを合わせる。
楽しそうに勢いよくジョッキをぶつける姿に、みんな冒険者なんだなぁと今更ながら当たり前のことを思う。
蜂蜜サイダーは甘いけれど後を引くようなクドさがなく、この暖かい食堂でもさっぱりと飲むことができた。
料理もたしかにグランさんの料理に負けず劣らず、クオリティが高くかなり美味しい。
暖かい空間でみんなで食事を共にしていると、一層ぽかぽかと幸せを感じた。
ローレンスさんも加わり、話は盛り上がっていく。
宿の主人であるダインさんやムルさんも含め、この宿に泊まるみんなは距離感が近くて、どこか家族のような印象を受ける。
暗くなった外に降る雪を、窓から漏れ出した暖かな光が照らす。
この夜の食事会は、お腹いっぱいになるまで続いた。
来週の『1月12日頃』に現在投稿しているダンジョール編の後、『神都編』を収録した書籍4巻が発売します。
あ、あと本作のコミカライズも時を同じくして開始します。
よーうやく皆さんに報告できました!
詳細はまた後日。




