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お誘い

 もう少しだけ大きな木の下で雨が止むのを待つ。


 カトラさんたちが再会を喜んだりしながら、三十分くらい話しただろうか。


 聞いたところによると、サムさんたちは現在ダンジョールを拠点に生活しているらしい。


「今回は気分転換も兼ねて、ちょっとした遠征に行ってたんだ」


 今はその帰りだったと、サムさんが教えてくれた。


 ちなみに一時期グランさんの顔を見にフストに滞在していたので、その時に子供時代のカトラさんとは会ったらしい。


 それからしばらくして、彼女が冒険者として活動していた際、短期間だけダンジョールを訪れたことがあったそうだ。


 その時はまだゴーヴァルさんとジャスミンさんが加入する前で、カトラさんは同じ二人パーティということで色々と指南を受けたりもしたんだとか。


「なるほどね。つまりカトラちゃんたちは、トウヤくんの旅に同行してるってわけか」


 続けてカトラさんが僕たちについても話すと、モクルさんが朗らかに頷いた。


「楽しそうだね。トウヤくんとリリーちゃんも魔法に長けてるなら、心強いだろうし」


「二人も魔法が使えるんだね!」


 パーティで魔法使いを担当しているというジャスミンさんが僕とリリーに話しかけてくる。


「どうどう? 魔法は好き? 私が使える便利なオリジナル魔法、教えようか? 便利だよっ」


「やめんか、ジャスミン。ほれ、坊主たちが困っとるじゃろが」


「えーなんでよ。これでも私、魔法は結構得意な方なんだから悪い話でもないと思うんだけどっ」


 ゴーヴァルさんに注意され、ジャスミンさんはつまらなさそうに口をへの字にする。


 かなりの魔法好きのようだ。


「あ、いえそんな。教えていただけるなら、ぜひいいですか?」


 思うように新たな魔法に触れられない日々が続いていた。


 ダンジョールでは観光なんかと平行して色々と頑張りたいところだ。


 まずはもちろん冒険。


 それと魔法の勉強に、短剣の訓練もだ。


 だから手を小さく挙げながら僕が言ってみると、ジャスミンさんの顔がぱぁっと明るくなった。


「いいねっ。いいよ、トウヤ! 君には素質……魔法への好奇心が感じられる。経験則として、そういう子は伸びるんだよねぇ……」


 ちらっ、ちらっ。


 言いながら横目でリリー、そしてカトラさんを見るジャスミンさん。


「本当に便利なオリジナル魔法なんだけどなぁ。今だけ、特別に限定で教えてあげようかと思ったんだけど……」


 独り言のように言いながら、声が大きくてわざとらしい。


 面白い人だなと僕が思っていると、アピールに負けたリリーが小さく手を挙げた。


「わたしも、気になる」


「うんっ。いいよいいよ」


 ジャスミンさんは嬉しそうに笑いながら、最後にカトラさんを見た。


 一人残され、カトラさんもそーっと僅かに頭を下げる。


「じゃ、じゃあ……せっかくですし、私もいいですか?」


「よしっ、任せたまえ! 伝授してあげるからね、若人よ」


「ジャスミン、その前にだ」


 張り切った様子の彼女だったが、空を見上げていたサムさんが口を挟む。


「雨も止みそうだし、道の状態も悪くない。今のうちに先に進むもう。あと少しだけ行けば、この時季だと雨の心配もなくなるだろ?」


 たしかに、いつの間にか弱くなっていた雨も止んできたようだ。


 でも、あと少し行けば雨の心配がなくなるって、どういうことなんだろう。


「もう、せっかくいいところだったのに~」


「まあまあ」


 立ち上がりつつも残念がるジャスミンさんを、モクルさんが宥める。


「また今度、ゆっくりと教えてあげればいいんじゃないかな。カトラちゃんたちもダンジョールに来るわけだし」


「……う~ん」


 唸るジャスミンさんを横目に、自身のだという大剣を担ぎながらモクルさんは続けた。


「そうだ、カトラちゃんたちも僕たちがお世話になってる宿に来てみたらどうかな。もちろん、まだ宿に当たりをつけてなかったらって話だけどね。積もる話はまだまだあることだし」


「宿か……そうねぇ」


 カトラさんが、僕とリリーの様子を窺ってくる。


「S級パーティのみなさんが泊まってる宿ですよ……? 僕たち、今はもうあんまり余裕がないですけど」


 僕たちも移動再開のため腰を上げながら、小声で言ってみる。


 道中で見かけた薬草を途中の街で売ったりはしたけど、正直あまり豪華な宿に泊まる余裕はない。


 世知辛い話だけど、こればっかりはなぁ。


 僕が諦めかけていると、サムさんがにやりと笑った。


「いや。俺たちが世話になってる宿は、ダンジョールの中でも穴場でな。別に高級宿ってわけでもないんだが、かなりオススメだぞ」


「ほんとほんと。私たちは街を出てる間も部屋を借りっぱなしにするくらい、もう住んでるって感じだからね。きっとみんな分の部屋も空いてるだろうし、どうっ、どうかな?」


 ジャスミンさんがキラキラとした目を向けてくる。


 ぜひとも一緒の宿に、という熱烈な誘いだ。


 にしても不在の間も部屋を借りてるってことは、言葉通り本当にその宿に住んでいるのだろう。


 S級とまでなると、やっぱり受けられる依頼の単価とかも違うのだろうか。


 かなり稼げてないと、いくら手頃な宿でもホテル暮らしみたいなものだから毎月結構なお金がかかると思うし。


「……料理は?」


「美っ味しいよ~!」


 リリーの質問に、食い気味にジャスミンさんが答える。


 それが満足いくものだったのだろう。


 リリーは一つ頷くと、僕たちを見て言った。


「トウヤ、カトラちゃん。宿、決定」


 ……いや、グーって親指を立てられてもね。


 ただ、料理が美味しくて本当に高級じゃなく穴場ってことなら、たしかに悪くはないのかもしれない。


 まあ実際のところ、雰囲気をこの目で確かめてからにはなるけど。


 ひとまず今はこちらも素早く親指を立てて返しておく。


 よくわからないし、なんとなく勢いで。


 隣のカトラさんも同時に僕と同じようにしているのを見て、ジャスミンさんが「やりぃ~」と拳を握る。


「と、とりあえず、今は雨も止んだし出発ししようか」


 そんなカオスな状況に、モクルさんが苦笑いを浮かべて言った。


 と、いうわけで。


 まだ雲は重めで空は暗い。


 しかし、僕たちはレイを無力化してから馬車に乗り込み、ダンジョールへの最後の少しを移動することになったのだった。


お読みいただきありがとうございます!

気づけばもう、大晦日ですね。皆様いかがお過ごしでしょうか?


今年はあっという間だったような……長かったような。

そのうち、なろうでの更新をどれだけサボってしまったか……申し訳ない&情けない気持ちでいっぱいです。


書籍4巻の発売は1月12日ごろ、年が明けたと思ったらすぐですね。

町も年越しムードでいっぱいですので、ぜひ電子やアマゾンなどで温かい部屋の中から書籍版の購入、予約等をしていただけると幸いです。

以上、2024年最後の宣伝でした(笑)。


では、良いお年を。

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