S級パーティ
来たのは、長髭を蓄えた背の低い男性と金髪のすらりとした女性。
外見的な特徴からするとドワーフとエルフの方だろう。
「ゴーヴァルじゃ、よろしくのう」
「可っ愛らしい子たち。私はジャスミンよ、よろしくね」
筋肉質なドワーフのゴーヴァルさんは、大斧を背負っている。
一方で耳の先が尖っており、かなり美形なエルフのジャスミンさんは魔法使いっぽい三角帽にローブ、木製の長杖といったスタイルだ。
彼らはパーティなんだろう。
種族的にも全員が全員異なっているという集団と出会ったのは、この世界に来て初めてのことだった。
僕とリリーが挨拶を返していると、カトラさんも「はじめまして」と言っている。
やっぱり、知り合いなのはサムさんとモクルさんだけだったみたいだ。
それじゃあ、彼らとは一体どこで?
僕が疑問に思っていると、ドワーフのゴーヴァルさんが腕を組んでサムさんを見上げた。
「して、どういう関係なんじゃ。こちらの嬢ちゃんとは」
「ほら、何度か話したことがあるだろ。ゴーヴァルとジャスミンに出会う前のパーティのことを」
「ぬ? そりゃあ、つまり……」
眉根を寄せたゴーヴァスさんがちらりと横を見る。
その視線を受け、代わりに続きを言ったのはジャスミンさんだった。
「もしかして、私たちの前に『飛竜』にいた、もう一人のメンバーのことっ?」
「そうだ」
サムさんが頷くと、ジャスミンさんは目を輝かせ両手を胸の前で合わせた。
「ドラゴンの首をスパッと断ったっていう大斧使い、『伐採』ね!」
まるで伝説を語るような口調で話しながら、飛び跳ねている。
整理するとサムさんたちのパーティ名が『飛竜』で、ジャスミンさんたちが加入する前はサムさんとモクルさん、そして『伐採』という二つ名? があるもう一人で組んでいたということらしい。
その人がカトラさんとどんな関係があるのだろう
「ああ。彼女――カトラは、その『伐採』の娘なんだ」
続きを待っていると、サムさんが嬉しそうに目尻を下げながら告げた。
「え、うっそー!?」
「えっ」
大げさな動きで驚くジャスミンさんと、僕の声が重なる。
一方で話の流れから大体の予想がついていたのか、ゴーヴァルさんは「やっぱりか」といった感じで落ち着いてる。
リリーも口には出さなかったけど、かなりびっくりしたらしい。
「……本当?」
隣でカトラさんにそう尋ねている。
「ええ、実はね。リリーちゃんは聞いたことなかったかしら、お父さんの冒険者時代のこと」
「うん。すごかったってことだけ」
秘密を打ち明けるかのように、カトラさんは口角を上げる。
なるほど……。
「じゃあ、おふたりはグランさんのお仲間だったんですね」
昔、亡くなるまではカトラさんの実の親も冒険者をしていたって聞いている。
だからお父さんと言っても実の親なのか、それとも……。
そう思っていたけど、この様子だと育ての親であるグランさんのことだったみたいだ。
グランさん、『伐採』とか呼ばれてたんだ。
ドラゴンの首を断ったみたいだし。
あまりの逸話っぷりに、ドラゴンを倒し豪快に笑うグランさんの姿が脳裏に浮かび、遠い目をしてしまう。
……ん?
そういえば、そんな逸話を残しているグランさんと仲間だったってことは。
「えっ、グランさんってたしかSランク冒険者だったって前に言ってませんでしたっけ?」
カトラさんから聞いた話では、グランさんは現役時代、冒険者におけるトップの等級であるSランクだったらしい。
じゃ、じゃあ。
「そうね」
カトラさんが頷くのを見て、そのままサムさんたちの顔を見る。
「みなさんも……」
あまりジロジロ見すぎてしまったか。
苦笑いを浮かべながら、サムさんは首にかけてある紐を引っ張って、ギルド章を胸当ての外に出した。
「なんとか今もSランクでやってるな。四人ともランクはSだ」
薄らと紫色の光を放つ、黒い金属が付けられたギルド章。
凄い。
間違いなく、今まで見た中で一番強い冒険者たちだ。
気圧されるような威圧感がまったくないから気付かなかったが、これも実力ゆえなのか。
「S級パーティ、初めて会った」
これには、リリーモほえーっと感動を露わに口を丸くしている。
僕たちが思わずキラキラとした目で『飛竜』の面々を見ていると、モクルさんが照れくさそうに頬を掻いた。
「ま、まあ僕たちは、もう年だからね。体力も昔ほどはないし、技術で何とかやってるって感じさ」
「ちょっと! 年って何よ。私はまだまだ若いんだけどっ!?」
ジャスミンさんが憤慨してツッコんでいる。
たしかに、平均年齢が高めのパーティなのにジャスミンさんだけは若々しい印象を受ける。
長寿だというエルフだから人間と同じように外見から推測はできないけど、実際は何歳くらいなんだろう?
気になったけど、一斉に顔を逸らすパーティメンバーの三人を見て、訊くのはやめておくことにした。
うん、女性に年齢を尋ねたりするものじゃない。