新たな称号
深夜。
明日が出発だからだろう。
旅の一区切りを前に、眠ると僕は白い空間の中に呼び出された。
「二週間と短かったですが、僕の滞在中に下界の食べ物を満足していただけましたか……?」
「ハッ、愚問だ──ッ。笑止千万!! 今まで天界から見ることしかできなかった食材の数々を堪能できた! 感謝するぞッ」
机を囲んで座っているのは僕とネメステッド様、それとレンティア様の三人。
こうして言っていただけると嬉しいな。
直々にお願いされたクラクを始め、後半で怒涛の勢いで貢物を送った甲斐があったというものだ。
「いやぁ~、ネメシリアは旨いものが盛り沢山だったね。アタシも満足だよ」
レンティア様もお腹をポンっと叩くジェスチャーをして、幸せそうに笑ってくれている。
ここ数日で仕事の方もまたエンジンをかけ始めたらしい。
だけどこれまでの日々があってか、まだ肌の調子も良く元気そうだ。
「喜んでいただけて僕も嬉しいです。あっ、そういえば……ネメステッド様が僕の観察をされるのは、今日で最後になるんでしたっけ?」
「そうだね。アンタが自分が注目しているネメシリアに滞在している間、貢物を貰うついでに観察するって話だったからね。ただ……」
「ただ?」
「当初はそういう話だったんだが、まあねえ。ネメステッド、ここから先は自分で言ったらどうだい?」
レンティア様に促され、目を逸らしてソワソワしていたネメステッド様が口を開く。
「その……あれだッ。我もまだ、付き合ってやろう」
「は、はぁ。それは、えーっと、つまり……」
初めて会った時と比べると、ネメステッド様も随分と目を合わせてくれるようになった。
それは嬉しいが、まだ気兼ねなく言葉を交わせるレベルまで心を開いてくれてるわけでもない気がする。
上手く一発で真意を読み取れないことも多いし。
「ネメシリアを出た後も引き続き見守ってくださる、ってことですかね?」
念のためレンティア様に確認しておく。
相変わらず通訳みたいにしてしまって申し訳ない。
「まあ、そういうことらしいね」
ジト目で僕たちを見てくるレンティア様は、そう言ってから溜息をついた。
「はぁ、まったくネメステッドは。貢物が手に入るだけでなく、トウヤたちの生活する様子を見ていたら案外楽しかったみたいでね。時々にはなるが、これからもアタシの観察に混ぜてほしいそうだ」
「なるほど。ではネメシリアを発っても、またネメステッド様ともお会いできそうですね」
「ああ。……そうだ、起きたら一応ステータスを確認しておいてくれ。ネメステッドが今後もアンタの居場所をアタシ抜きでわかるよう、称号が増えてるはずだからさ」
「称号……ですか? わかりました」
レンティア様の使徒であることが記載されてるのと同じ感じだろうか。
よくわからないが、とりあえず頷いておく。
「クックック。小さな祝福、されど運命は確かに変わった──ッ」
「……?」
ネメステッド様の笑い声が響く。
僕とレンティア様が様子を見守っていると、次第に自身で色々と考え始めてしまったのか。
ネメステッド様の声は段々と小さくなり、フェードアウトしていった。
その後もしばらく会話を楽しんでから、レンティア様たちとは別れることになった。
目を覚ましてから薄暗い部屋の中、忘れないうちにベッドの上でステータスを確認しておく。
「ステータスオープン」
カトラさんやリリーだけでなく、レイもまだ眠っている。
小声で呟くと、ウィンドウが現れた。
【 名 前 】 トウヤ・マチミ
【 年 齢 】 10
【 種 族 】 ヒューマン
【 レベル 】 4
【 攻 撃 】 3200
【 耐 久 】 3200
【 俊 敏 】 3200
【 知 性 】 52
【 魔 力 】 5075
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス
【 称 号 】 女神レンティアの使徒
神ネメステッドのお気に入り
幸運の持ち主
フェンリル(幼)の主人
……あれ?
眠い目を擦って確認するが、間違いではないようだ。
なんか、気がつかないうちにレベルが3に上がっていたらしい。
考えられることがあるとすれば、クラクを倒したことくらいかな。
あの時は気も高揚していたし、レベルアップ時に感じる元気が湧いてくるような感覚に気づけなかったのかもしれない。
まあ、じゃあレベルのことは今はいいとして。
これだな。
ネメステッド様が僕のことを、ネメシリアを出た後も見つけやすくするための称号ってのは。
『神ネメステッドのお気に入り』っていう名称が気になるけど。
僕のこと気に入ってくれてるという認識で合ってるんだろうか?
鑑定してみると称号の部分からひとまわり小さいウィンドウが出て、称号について説明してくれる。
【 やったね!! 商売繁盛 】
神ネメステッドによって授けられた運命。商売に関する運気が上がり、思わぬ出会いがある……かもしれない。
かもしれないって、なんなんだ。
レンティア様の称号から出た【使徒の肉体】と【魔法の才能】の時と、説明文の雰囲気が違いすぎて戸惑うな。
それにしてもネメステッド様が最後の方に運命がどうたらって言ってたのは、これについてだったのか。
とにかく、しっかり称号がついてるから問題はないんだろう。
商売繁盛……商売繁盛……。
うん。
何かいいことがあればいいな。
かもしれないってレベルだから、あんまり期待しない方がいいのかもしれないけど。




