食事会
運ばれてくる料理は、さすがジャックさんが手配してくれただけはある。
パンやアヒージョなど小皿系のものから、パスタやサラダなど取り分けられるようボウルに入ったもの。
質がよく丁寧な調理がされながらも、誰もが食べ慣れている味で子供たちにも配慮された親しみのある料理から、ワインに合う美味しいのかよく分からない臭いが強烈な超一流のチーズなどがあった。
ニグ婆も食べやすいようあっさりめの味の料理も用意されていて、港町ネメシリアながらもほろほろで嫌な臭みがない鳥肉もめちゃくちゃ美味しい。
アルヴァンさんが持ってきてくれたロブスターも、グリルで焼き食べたが身がプリップリで、レモンを搾って食べると本来の味が引き立ち堪らなかった。
最後には、ゆずに似た味のジェラートがデザートで出された。
その頃にはすっかり空も暗くなり、夜になっていた。
はぁー。
最後に、こういう機会を作ってもらえて良かったな。
観光の比重が高くて、食べたりすることが多いネメシリアでの日々だったけど楽しかった。
デザートを食べ終え、口がすっきりする。
飲み物だけを持って、海に向いて置かれているソファーに僕は座った。
夜は海に出ていく人もいないから、波の音が聞こえるだけで照明のテラスから外に目をやると先は真っ暗だ。
絵みたいに星がキラキラと光っていて綺麗だけど、何よりも夜になると風がひんやりしていて気持ちいい。
ジャックさんはアルヴァンさんと仲を深めるといっても、無理に急いだりはしないようだ。
メアリさんとカトラさんも含め、世間話から商人のこと、アルヴァンさんに漁師について話を聞くつつ盛り上がっている。
リリーと僕が、レイの様子を見ながら風に当たっているとニグ婆が来たので、ネメシリアを出たあとについてなど話をすることになった。
ダンジョールまではネメシリア以上に距離があるので、移動ももっと大変だろうという話題になっていると、ダンドとセナが言い争う声が聞こえてきた。
「なんでよっ? 今日に答えを聞かせてくれて、自分なりの考えをはっきりさせるってあんた言ってたじゃん!」
「いや、俺はそんなこと別に……」
「言ってたでしょ! せっかくだし、リリーちゃんの魔法を見て思うところもあったから、みんながいるうちに今後について発表するって」
「……あーもういい。俺はそのつもりだったけど、そんなにうるさく言われんならやっぱやめたわ」
「はぁっ? ちょっとそれどういう…………。ふぅ。いや、あたし風に当たってくる」
ダンドの態度に明らかに怒ったセナだったが、一息つくとテラスから外に出て行ってしまった。
見える範囲の、海辺にある柵の前で立ち止まり風を浴びている。
多分ビーチに行った日の帰り道に話してた将来への決意のことなんかを、ダンドがはっきりと決めずにいたのだろう。
決める決めるとだけ言って、結局先送りにして。
そんなことが何回あったのか。
さっきのセナの怒り方から見ても、かなりの回数同じようなことが繰り返されてたのかもしれない。
もう限界って感じだったもんなぁ。
「はぁ……こらっ、ダンド。セナちゃんをまた怒らせて」
ニグ婆が溜息を吐きながら立ち上がり、ダンドを注意しにいく。
でも案の定というか、なんというか。
言い争って残されたあとに、そのままの流れで注意されると反抗もしたくなるだろう。
「別にもういいだろ、セナのやつも頭冷やしてくるって出てったんだから。つか、あいつが勝手にキレてるだけだろ」
早口でそう言うと、ダンドはベンチにどかりと座ってしまった。
貧乏揺すりをしながら、ふてくされた様子で俯いている。
うーん、難しい話だ。
結局、僕たちがいる間に進展はなかったか。
今すぐ冒険者を辞めて漁師の道に進まなくても、それか冒険者として生きていくと決め仕事を求め街を出て行ったりしなくても良いから、自分の気持ちに素直になって一歩だけでも踏み出せたらいいな、と思って応援してたんだけどな。
まあ……。
しばらく時間をおいてから、僕がセナに声をかけて連れ戻しに行こうかな。
そう思いジュースを飲んでいると、アルヴァンさんが立ち上がりダンドの方に寄っていってるのが目に入った。
だ、大丈夫かな?
これ以上は怒ったりせず、落ち着くまでダンドは時間をあげた方が良いと思うんだけど。




