乾杯!
「今日はお誘いしてくれてありがとう。ダンドの父親のアルヴァンだ」
アルヴァンさんは、みんなの到着に合わせて立ち上がったジャックさんとメアリさんに順に握手をしている。
その間、僕たちもセナやニグ婆、プラスでダンドと挨拶をしておく。
「おじさんってば、なんか緊張してるね」
可笑しそうに小声でセナが言うが、傍目から見ても間違いなく緊張してるな。
「リリーの父のジャックと、こちらは妻のメアリです」
「はじめまして、漁の際は娘たちが大変お世話になったようで。ありがとうございました」
対するジャックさんとメアリさんは、さすがの慣れっぷり。
優雅さまで感じさせるくらいだ。
一言二言交わすと、次はニグ婆がジャックさんたちに挨拶をし、アルヴァンさんは僕たちに声をかけてくる。
「よう、久しぶりだな」
「こんばんは」
僕たちと話すことで安心したのか、挨拶をすると肩の力が抜けた様子で隣のリリーに話している。
「まさかリリーちゃんが、あのフィンダー商会の娘さんだとはな。初めに聞いたときは嘘かと思ったが、どうやら本当みたいで驚いたぜ」
「言った方が良かった……?」
リリーが尋ねるが、アルヴァンさんは首を振った。
「いんや、別に構わねえ。俺にとって三人は変わらず、ダンドが迷惑をかけちまって、おふくろに連れられて漁港に来ていた三人のままだからな。氷造機の件で世話になった恩人だ」
「そう、なら良かった」
本当に、真っ直ぐでいい人だ。
リリーもさっぱりとした返事が嬉しかったのか微笑んでいる。
クーシーズ商会で取引をしているニグ婆とも挨拶が終わったのか、ジャックさんがみんなに声をかける。
「よし、じゃあそろそろ食事会を始めるとしよう。料理もたくさん準備しているが、まずは乾杯といこうじゃないか。それぞれ、席についてくれるかな?」
「おっと。そうだ、すまねえ」
ジャックさんがスタッフに目で合図を出すと、全員分の飲み物が運ばれてくる。
席に座わろうかという時、アルヴァンさんが何やら箱を取り出してジャックさんに渡した。
「先に手土産で持ってきたんだが受け取ってくれ。グリルがあるって聞いたからな、なるべく料理に被らないように選んだつもりなんだが……大丈夫だったか?」
「手土産ですか。わざわざありがとうございます」
ジャックさんは箱にかけられている布をめくり、チラリと中を見る。
氷と一緒に入っていたのはメタリックな甲殻を持ち、光を反射している巨大なロブスターだった。
かなり大きい。
それなのに三尾もいるし。
「おお、これはっ。準備しているメニューにもなかったので、ぜひ後で一緒に食べましょうか。これは大きいなぁ」
ジャックさんは「じゃあ、これはまた後ほどいただくということで」とスタッフに箱を預けると、改めてアルヴァンさんに感謝を伝えていた。
初対面で、かつアルヴァンさんが思っていたよりも緊張している。
なのに、ジャックさんの接し方が上手い。
席に着き、ドリンクが配り終わられる頃には、いつの間にか程よい距離感までは詰められていた。
「今日はお越しくださりありがとうございます」
主催者として改めてアルヴァンさんたちに言うと、ジャックさんが開始の言葉を述べてくれる。
「明日、旅の最中である娘のリリーたちが、このネメシリアを出発します。そこで最後に、出会いお世話になったみなさんと楽しいひとときを過ごせたらと思い、この場をこうして設けさせていただきました。美味しい料理もたくさん準備しているので、ダンド君やセナちゃんも食べていってくれ。それでは、乾杯」
グラスが、ゆっくりと掲げられる。
それに続くように、僕たち残りのみんなも各自のグラスを持ち上げた。
「「「乾杯っ!」」」