計画
「それで……。今日はなんで、あの二人も?」
「ああ、トウヤ君たちからも話を聞いていて気になっていたんだけどね。メアリから、以前街で彼女と会ったって聞いたからね。せっかくだから誘ってみたら良いんじゃないかと思ってね」
「あー、あの時のことをメアリさんから」
話を海で遊んでいる人物たちに切り替える。
そこには海を満喫しているカトラさんたちに参加して、水着姿のダンドとセナの姿もあった。
一昨日、僕たちが八百屋で働くセナと会ったことから、彼女たちも今日は誘ったようだ。
「ダンドが来ると聞いて、リリーが微妙な反応をしたりしなかったんですか?」
「うーん……あ、あれはそういうことだったんだね」
ジャックさんは、記憶の中の出来事に今合点がいったように苦笑いを浮かべている。
「ま、いまは普通に楽しそうにしてくれてるから良かったよ」
そう言われて、僕もリリーを見る。
たしかに、まだダンドとは意識的に距離を空けているようにも見えるけど、前までと比べるとそこまで嫌な顔をせず普通に楽しんでいる。
自分に向かってダンドが変に近づいてこないよう、間に入ってくれるセナがいるからかな。
「娘を嫌な気分にさせてまで、することもないからね」
「もしかして、ジャックさん……」
「ん?」
僕がふと思ったことがあり、見ていると彼も眉をあげながら視線を返してくる。
しばらく目が合っていたが、こちらも探るようにジッと見ているとジャックさんはニコリと笑った。
上がっているのは口角だけで、目は真面目なものだけど。
「……いやぁトウヤ君は鋭いね。そうさ、君たちの話を聞いてあわよくばと思ってね」
「やっぱり、そうでしたか」
薄らと僕が予想していたことは正解だったらしい。
ジャックさんたちは、僕らがアルヴァンさんと知り合いになれたこの機を何もしないまま逃したりはしないに決まっているもんな。
こうやってセナをキッカケにしつつも、結局はダンドもビーチに誘ったのは、その先にいる漁師の長たるアルヴァンさんを見据えてのことだったか。
「ニグ婆のカンバのオイル漬けは商会で取り扱ってましたけど、アルヴァンさんとはどういう狙いがあるんですか……?」
興味本位で訊いてみる。
「前々から魔道具を使った流通で、漁で獲れた海産物をもう少し広い範囲……ネメシリア近郊の都市でも売れないかと思っていてね」
それだけでなく、とジャックさんは続ける。
「港は漁師たちが抑えているから、仲良くなっておけば商船の出入りなども融通が利きやすくなるかもしれないだろう? 自分たちに利益があって、相手方にもメリットが見込める案件があるんだ。悪くはない話だからね。ここで踏み込まないわけにはいかないよ」
「なるほど……」
凄いな。
きっと僕たちが知らない所でも、裏で色々と話が動いたりしているんだろう。
本当に、僕は自分がのんびり旅して、レンティア様に貢物を送ったりするだけで良いから。
かなりお気楽にやらせてもらっているものだ。
「だから、さっき話した出発前の食事会にダンド君のお父上……アルヴァンさんもお呼びできそうだったら、彼らも招待しようかと思うんだが、構わなかったかい?」
「あっ、それはもちもん。そういう機会がないと、ネメシリアを発つ前にお会いすることもできるかわからないので、僕としてもぜひ誘っていただけると嬉しいですし」
「そうか、わかったよ。じゃあメンバーも揃えて、こちらで手配しておくからね」
「はい! よろしくお願いします」
フストの時とは期間も違う。
短い関係で、そこまで深く付き合う気もあまりなかったけど、十分にお世話にはなったからな。
最後にお会いして、気持ちよく出発できるというのなら僕としても嬉しい話だ。
ジャックさんに軽く頭を下げていると、砂浜を踏んで歩く音が近づいてきた。
「トウヤ君、カトラちゃんたちが呼んでるわよ」
「あ、メアリさん」
顔を上げると、少し疲れた様子で海から戻ってきたメアリさんがいた。
言われて海の方を見ると、カトラさんたちがこっちに手を振ってる。
「トウヤ君もこっちに来て、遊びましょ~!」
リリーやセナも日照りの下、満点の笑みを浮かべている。
いつの間に、レイも海には行って犬かきで泳いでるし。
「ありがとうございます。じゃ」
腰を上げてメアリさんとジャックさんに声をかけてから、僕も海に向かうことにした。
足場の悪い砂の上を、思いっきり走る。
波打ち際あたりでピョーンと軽く飛び、持ち前の跳躍力で海に飛び込んだ。