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ビーチ

書籍4巻は、1月12日ごろ発売予定です!

神都編、ぜひよろしくお願いいたします。

 穏やかな波が打ち寄せる砂浜。


 ジャー……ジャー……と一定のリズムで波の音が辺りに響く。


 空は快晴。


 日差しが強いが、治癒の生活魔法で皮が剥けたときのヒリヒリは対策できるのだ大丈夫だ。


 予定通り、僕たちは今日ビーチに来ていた。


 ネメステッド像を通り過ぎた場所にある細い階段を下ると、全長100mもいかないくらいの砂浜がひっそりとある。


 今は他に利用客もおらず、僕たちだけの貸し切り状態。


 切り立った崖で影になった場所と、何本かの南国風な木があるだけで他には何もない。


 海水浴仕様のファッションのカトラさんやリリーは、海で楽しそうに遊んでいる。


 レイも無力化を解いて、元気いっぱいに駆け回っている。


 一方で僕は、持ってきたパラソルの下でジャックさんといた。


 もちろん僕たちも海で遊べる格好はしてある。


 ただ、さっきジャックさんに呼ばれてこっちに着たのだ。


「出発の日程は、カトラちゃんと話し合ったのかい?」


「はい。いただいたお時間で、昨日お互いの考えを確認しました」


「そうか、良かったよ」


 一昨日から今晩まで、リリーはジャックさんたちの宿に泊まっている。


 親子での時間をとるためでもあるが、これまで旅を経験してみてどんな感じか、これからも続けたいか、しっかりと話をするために。


 その間に僕たちもそろそろ時間だということで、出発について意思疎通をとり、明確にすることにしていたのだった。


「それで、何日後に?」


「僕たちとしては、五日後のまだ涼しい時間帯に出ようかなと」


 そもそも何週間とかの話ではない。


 これまで二週間滞在しているのだから、旅の計画としてはネメシリアにはもう充分にいただろう。


 ジャックさんには心配をかけちゃったけど、想像もしていなかった漁に出たりすることも出来たし。


「五日後か。私たちもその日の昼頃にフストに向かって帰るつもりだったから、数時間前に君たちが出発することになりそうだね」


「はい。メアリさんからそのことについても聞いていたので、良いタイミングだと思って合わさせてもらいました」


「なるほど……。わかったよ」


 ジャックさんが考え事をしているのか、上を向いていた。


 離れた場所から聞こえてくるカトラさんたちの声と、波と風の音。


 静かで、良い場所だな。


 そうだ。


 一昨日のうちにノルーシャさんに聞いて、伝手で金物屋にたこ焼き器の作成依頼を出してもらったからな。


 鉄板に型をつけたりするだけの簡単な設計だから、すぐに完成するだろうし、出来たらここに来て試しにのんびりたこ焼きを作ってみても良いし。


 たこはクラクを使うから、たこ焼き粉とかソースにぴったりな物も探して。


 五日後には出発と決めた手前、残された時間はそう多くないのだし楽しまないと。


 本当は、これ以上ネメシリアにいたら人々の関係もより深まって、フストの二の舞になるのではという考えもあって早めの五日後にした部分もあるんだけど。


 決めた後になったらなったで、まだ楽しみ足りてないと感じるとはな。


 僕が時間が自由だからこそ、自分で日程を決めていかなければならない難しさを実感していると、ジャックさんが側に置いていたヤシの実ジュースを飲んでから言った。


「よし。だったらその前日に、昼過ぎから夕方くらいまでの食事会を開こうか。フストの時のように、出立を祝ってね」


「食事会ですか? それは嬉しいですけど……もう大丈夫なんですか、その、リリーとの話し合いは」


 ジャックさんは少し気恥ずかしそうに笑う。


「ああ。私たちがわざわざ、あれこれと聞く必要もなかったくらいだったよ。珍しく自分からいろいろと教えてくれてね。あの子があんなに楽しそうに話しているのを見ることができたんだ。当初抱いていたような心配は見当たらなかったから、このまま送り出してあげようじゃないか。そう妻とも話したよ」


「……っ! そうだったんですね。じゃあ……」


「君とカトラちゃんに、今後もリリーを任せるよ」


 そうか。


 いや、本当に良かった。


「ありがとうございます!」


 最終的にはジャックさんたちの判断で今後が決まることになっていたから、どうなるか不安ではあったけど。


 これまでの僕とカトラさん、リリー、そしてレイやユードリッドでの道のり。


 ネメシリアに入ってからの生活のことを聞いて認めてくれたようだ。


 といっても、この感じだと結局はリリーが楽しんでいるのだから、そのことを満足にさせてやりたいという親心あってこそのものだろうが。


 ジャックさんは、海でカトラさんやメアリさんと水を掛け合っているリリーを見ている。


 その目に宿る、父親としての優しさに。


 僕は危険に無闇矢鱈に近づかないのはもちろんのこと、責任を持って楽しい旅をともにできるようにしようと思った。


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