当店オリジナル
2週間。
僕たちがネメシリアに滞在しているこの期間で、訪れたことのあるおすすめスポットなどをメアリさんに紹介する。
といっても街中を知るには短い時間にもほどがあるので、まだまだ知らない場所や入ったことのない道もたくさんある。
なので半分以上は4人で新たな場所を開拓しながらネメシリアの街を巡る。
「これ美味しいですよ……」
僕が思わず呟いてしまったのは、途中で寄ったカフェに置かれていた魚介スープだ。
ハード系のパンが二枚ついているので、それを浸しながら食べる。
カリッと焼かれたパンに濃厚なスープが染み、噛むと口の中にジュワッと旨味が広がる。
休憩がてら入ったお店だったけど、これは思わぬ発見だ。
当たりの料理に出会え、気分も高揚する。
普通に、朝ご飯にスープ単体で食べても最高だろうなぁ。
「ほんとだ、おいしい」
向かいの席では、同じものを注文していたリリーも落ちそうになる頬を抑えている。
僕たちの反応でよほど気になったのか。
「トウヤ君、一口だけもらえるかしら……?」
「ママもちょっと味見していい?」
ほぼ同時に、カトラさんは僕に、メアリさんはリリーに、それぞれ隣に座る僕たちに頼んできた。
僕としてはむしろこの味を共有したくらいだ。
「ぜひぜひ」
スープとパンが載ったトレーをカトラさんの前に差し出す。
リリーも同じような考えだったようで、「いいよ」とだけ言うとメアリさんにトレーを寄せている。
そして、カトラさんとメアリさんがパンを一口サイズだけ千切り、スープに浸して口にする。
「「……っ!!」」
次の瞬間、二人が声にならない声を上げた。
それから眉を上げながら、僕たちを見てうんうんと何度も頷いている。
そんなに感動してくれるとこっちまで嬉しいけど、まあもう少し落ち着いて。
宿で朝食をとってから何も食べてないとはいえ、普段ならカトラさんたちは夜まで何も食べない。
だからここで間食を食べるのは僕とリリーだけで、おふたりはレモネードだけ飲んでいたんだけど。
すかさずカトラさんたちも同じ魚介スープを注文したので、結局全員で食べることになってる。
足下で待っていたレイは、スープとかは好みじゃないようだ。
あまり興味がない様子だった。
「どうやったら、こんなに美味しく作れるんですかね?」
「うーん、そうねえ……」
パクパクと食べながら、カトラさんとメアリさんは調理方法について話し合っている。
「ここまでの深みを出すのは、素人にはなかなか真似できなさそうね。多分はじ
めに、魚に焼き目を付けるときに何かを使ったり、その他でも色々と野菜や果物を使ってるみたいだから」
す、すごいな。
さすがピクニックの時に、あんなに美味しいお菓子を作ってくれたメアリさんだ。
何度かスープを口に含みながら、深みの正体を探る言葉に耳を傾けながらふむふむと頷いてしまう。
「でも、残念なことに……」
僕はそう言いながら、メニュー表を開きこのスープを指さす。
そこには『当店オリジナル』の文字が。
「これだと教えてもらうわけにもいかないでしょうね」
二人もこの記載には気付いていたのか。
驚くことはなく、はぁ~と溜息を吐くと諦めたように肩を落とす。
「……そうよ! けどね、トウヤ君」
が、カトラさんの目にはすぐに光が宿った。
「旅の途中で、この味を再現できないか頑張ってみるわ、私。食材はトウヤ君に持ってもらうことになるけど……」
「そのくらいでしたらお安いご用です。僕もまた食べられる日を楽しみに待てますし」
スープは比較的、鍋や寸胴だけで完結するし野営中の調理も容易だ。
「ありがとう。じゃあ、また今度食材を買い集めないといけないわね」
「はい、ではその際はお供します!」
カトラさんと僕がなぜか熱くなっていると、同様にまたこのスープを食べたいリリーは、拍手を送ってくれた。
「おー……楽しみ」
まあそんなこんなで、四人での観光は特に大きな出来事があるわけでもなく。
カフェを出て、みんなで楽しく街を歩いていると突然声をかけられた。
「あれっ、トウヤくんとリリーちゃん。それとカトラさんも!」
「……ん?」
足を止め、声がした方向を見てみるとセナが手を振っている。
「あら、セナちゃん。ここが……この前言っていたご実家?」
カトラさんに言われて、セナがいるのが八百屋の前だと気付く。
今日はセナもエプロンをつけてるし、仕事を手伝っている最中なのかな?