着替え
メアリさんが連れて行ってくれたお店は、ネメシリアの少し外れの場所にあった。
馬車や人の往来が盛んなエリアを抜けると、一気にこの街の人々の生活が垣間見える。
八百屋に雑貨屋。
地元の人たちだけが利用するであろう派手さのないお店の並びに、その服屋さんもあった。
白が基調とされた涼しげなこの民族衣装。
街でよく着ている人を見るこれは、海の向こうから人々が移り住んでくる時に一緒に渡ってきた物らしい。
本来はアルヴァンさんたちをはじめとした、肌が浅黒い人種で形成された民族独自のものだったそうだが、ネメシリアに来てからは広く受け入れられているんだとか。
ダンドやセナが着ている物も、系統としてはこれの一種だったようだ。
男性用は比較的着やすく、ほとんどズボンとシャツに近い形状をしている。
僕はカトラさんたちに選んでもらった物に自分で着替え、試着室から出る。
女性陣は慣れていないと着るのが難しいそうなので、店員さんに手伝ってもらうとのこと。
しばらく待っていると、着替えを済ませたカトラさんが出てきた。
「お待たせ、どうかしら?」
「いえ、僕もさっき――」
民族衣装姿のカトラさんを見て、思わず言葉に詰まる。
普段は、いくら日本でも成人済みの年齢だとはいえ、僕からすると若すぎて気にしたりはしないんだけど。
これはちょっと……い、いや。
前世と似た感じで今時の若い子のファッションはこんなものなんだろう。
うん、そうだ。
「僕もさっき着替えおわったばかりなので。とてもお似合いです」
カトラさんが着ているのは、セナが着ていたのと似た、大胆におへそなどを露出した物だ。
もう若くもなかった古いタイプ日本人からすると、少し開放的すぎる気もする。
しかしここは冷静に。
まあ、海外旅行で常夏の島にいったら僕の感覚からしてもわからないわけでもないし。
自分で自分を納得させつつ、カトラさんに求められた感想を返す。
「ふふっ、ありがとう。トウヤ君も素敵よ」
しかしカトラさんは、そんな僕の気苦労も見抜き面白がっているのだろう。
大人びた笑みを浮かべてウィンクで返してきた。
こういう、大人の余裕を感じさせるところは出会った当初から何も変わらないんだよなぁ。
今日も負けた気がして悔しいので、誤魔化すようにお店の中で待たせてもらっていたレイを抱き上げ、肩に乗せる。
リリーとメアリさんは、広めの試着室で一緒に着替えているところだ。
もうそろそろ来るとは思うけど……。
「うん、バッチリね」
ちょうどメアリさんの声が聞こえたかと思うと、2人が入った試着室のカーテンが開いた。
「ごめんなさいね、遅くなっちゃって」
メアリさんと一緒に出てくるリリー。
メアリさんのかなり整った美貌では、普段のようにシンプルな格好の方が合いそうだと勝手に思っていたのはどうやら間違いだったようだ。
この衣装は爽やかだから、さらりとした銀髪が映えてとても似合っている。
そんな母親にそっくりなリリーも、普段からはまた印象ががらりと変わっておしゃれだと思う。
これはジャックさんが絶対に見たいやつだろうな。
多分今日はこのままの格好だろうから、後でのリアクションが楽しみだ。
「みんな、百点満点ね。サンダルもサイズに問題はなかったかしら?」
メアリさんが褒めてくれたあと、各々の視線が足下に向かう。
このお店では、衣装とセットである革製のサンダルも取り扱われているので、前もって選んでいたのだ。
足首に紐を巻き付け固定させるタイプのサンダルなんて、僕は初めだけど……。
軽く足踏みしたり、地面を蹴ってみる。
うん、問題はなさそうだ。
「僕は大丈夫そうです」
「私もちょうどみたいです」
「……大丈夫」
僕、カトラさん、リリーの順で答える。
メアリさんもサンダルに違和感はないらしく、確認を終えると満足げに頷いた。
「それじゃあ出発しましょうか。うふふ、なんだかフストとは違う街で、こうしてみんなで観光できるだなんて不思議ね」
たしかに、言われてみるとそうだ。
出会った頃は、まさかカトラさんとリリーが僕に旅に同行することになるなんて思ってもみなかったけど、それだけじゃなくメアリさんともネメシリアで行動をともに出来るなんて。
久しぶりの娘との時間だからかな。
あっ、それと自分以上にべったりなジャックさんが今はいないからかしもしれない。
メアリさんは嬉しそうにリリーの手を取る。
このお店での支払いはメアリさんが全て出してくれたので、僕たちはそれぞれ感謝を伝えつつ、装いも新たに早速街に繰り出した。




