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反省

「で、漁では何を獲ったんだい?」


「あー……」


 ジャックさんに訊かれるが、正直に答えても良いものなのか悩む。


 まあ答えるほかないんだろうけど。


 あんなに大きな魔物相手の漁にリリーも連れて行っちゃったわけだし、怒られたりしないかな。


 僕が言い淀んでいると、内心を察してくれたのかリリーが代わりに言ってくれた。


「クラク」


「まあ、クラクってあの大きなっ?」


「うん。わたしたち3人で、魔法で倒した」


 しかし、反応が返ってきたのはメアリさんだけ。


 親指を立てるリリーに、拍子抜けするほど明るいテンションで「みんな凄いわね」と称えている。


 ジャックさんはというと……やはり、というべきか。


「クラク……クラク……」


 段々と青ざめた顔になっていき、勢いよく立ち上がると、メアリさんを含めた全員を見回した。


「いやいやっ、そんな感じで済む話じゃないだろうっ!? こうやって無事だったから今回は良かったが、万が一危険な目にでも遭っていたら……」


「まあまあ、あなた。まずは座って」


 メアリさんが諭そうとしてくれるが、ジャックさんはなかなかソファーに腰を下ろしてくれない。


 改めて冷静になって考えると、この件に関しては完全に僕に非がある。


「ごめんなさい。僕が言い出した話だったんですが、実際に見るまではクラクがあそこまで大きな生き物だと知らなくて」


 ジャックさんがリリーを心配するのは当然の話だ。


 そもそも僕とカトラさんが一緒だから、比較的安全だと判断してリリーの旅立ちを了承してくれた。


 だけど前もって危険から距離を置こうとする意識も、もっと必要だったかもしれない。


 興味があるんだったら自分一人でやってもいいんだし。


 迂闊な行動だったと頭を下げると、そこでジャックさんは深く呼吸をしてから、ようやく座ってくれた。


「なるほど、経緯はわかったよ」


「組合長が出してくれた船で、カトラちゃんもみんなで行けばそこまで危険じゃないって判断したのよね?」


 ジャックさんが落ち着きを取り戻そうと努めている横で、すかさずメアリさんが助け船を出してくれる。


「はい。リリーちゃんとトウヤ君の魔法を使って倒すという話だったので。念のため私も参加すれば、失敗する心配はないだろうって」


 カトラさんがアルヴァンさんが出してくれた船の規模や、プロと一緒だから問題はないだろうと思ったことを説明してくれる。


「カトラちゃんと相談して、自分から行きたいって言った」


 銀の海亭で2人がそんな話をしていることは聞いていた。


 リリーも付け足すように言ってくれるが、カトラさんも思うところがないわけでもないらしい。


「でも、ジャックさんが心配されるのも当然です。相手がクラクだからではなく、沖合の方まで出て行ったりしたからですよね? 海は危険だから」


「……」


 ジャックさんはしばらく口を噤んでから、頷いた。


「ああ。カトラちゃんが、海の危険さをよく理解してくれていたのなら良かったよ」


「ごめんなさい。私が止めるべきでした」


 海は危険。


 クラクが現れたポイントまで行ったとき、僕もだだっ広い海の上にいることが怖くなったくらいだ。


 港から近い場所での漁ならいざ知らず、たしかにあそこまで沖合へ行く漁に、のこのこと行くのは危険だったかもしれない。


 前世でも当たり前のことだけど、この世界でなら尚更だ。


「ありがとう。いや、でも私も取り乱したりしてすまなかった」


 ジャックさんが頭を下げる。


「今後は海に出るようなこともないだろうし、心配はいらないだろうが……より気をつけてくれると助かるよ。リリーにも魔法があるのだし心配はいらないかもしれないが。君たちよりも無力な一人の父親の願いだと思って聞いてほしい」


「はい」


 カトラさんが返事をすると、ジャックさんは次に僕を見た。


「トウヤ君もあまり気にしないでいいからね」


「すみません、ありがとうございます」


 きっと、まだかなり困惑しているだろうし、もしかしたら内心では腹が立っていないと言えば嘘になるのかもしれない。


 でも、僕のことまで気にして優しく声をかけてくれる。


 それからしばらく話をすると、ジャックさんの気遣いもありすっかり元の空気に戻った。


「リリー。この2週間、パパたちと離れて実は寂しかったんじゃないかい?」


「いや、楽しかった」


 寂しかったという答えを期待した質問に、リリーの予想外の反応が返ってきて、ガビーンとショックを受けるジャックさん。


「う、嘘だと言ってくれ……」


 この後、ジャックさんはノルーシャさんとともに仕事が入っているらしい。


 メアリさんの提案で、僕たちは彼女とともに街を巡ってみることになった。


「この街の人たちが来ている民族衣装を買えるお店があるから、まずはそこに行ってみましょうか。じゃあ、私たちは行くわね」


「ああ、また後で」


 メアリさんに引き連れられる形で、ジャックさんに挨拶をしてから部屋を出た。


3巻発売中ですー。

この週末に、お手に取っていただけると嬉しいです。何卒っ、何卒っ。

シリーズ継続への大きな力にもなりますので、ぜひ楽しんでいただければと……っ。

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