帰港
港に戻ってくると、仕事を終えて溜まっていた漁師たちがクラク漁の成功を祝って集まってきた。
僕たちの船が止まり、引き揚げの作業をしていると突堤から声をかけられる。
「無事だったか!」
「早ぇご帰還だなっ。おめでとう!」
ペコペコと頭を下げながら船を降りる。
みんないい人たちで、僕たちの肩を叩いてきたりしながら漁の成功を自分のことのように喜んでくれていた。
帰りの船の上で、アルヴァンさんから「新鮮なうちの方が美味いからな。どうだ、このクラクで作った料理でも食べるのは」と提案された。
空腹の具合は悪くない。
準備はお任せしていいとのことだったので、お言葉に甘えて新鮮なうちに食べさせてもらうことにしたのだった。
料理を作ってもらえたら、そのままレンティア様たち送ることもできるからな。
きっと漁が終わってからネメステッド様も今か今かとお待ちになっているはずだ。
「奥に簡単なもんだが、水浴び用の部屋があるからさっぱりしてきてくれ。その間に料理の方も進めておくからな」
「あっ、ありがとうございます。じゃあ行ってきますね」
「おう」
漁港にある建物の中に入ると、アルヴァンさんがそう言ってくれたので僕たちは汗を流しに水を浴びに行くことになった。
海水も飛んできてベタついていたから正直かなり助かる。
タオルなどを借りて廊下を進もうとしていると、背中に声をかけられる。
「そうだ、特に食えない物なんかもなかったか?」
「はい。三人とも……大丈夫です」
カトラさんとリリーと顔を見合わせてから、頷く。
楽しみだ。どんな料理が食べられるのか。
水浴び用ルームは普段から使われている感じの男性用と、客人用の二つに別れていた。
女性であるカトラさんとリリーは客人用を使うことになり、僕は一人で男性用の部屋へと入る。
手早く水を浴び、さっぱりしてから綺麗な替えの服に着替える。
ちなみにカトラさんたちの服も、一部アイテムボックスに預かっていたので先ほど渡してきた。
汗などを流した後は、綺麗な服に限る。
アルヴァンさんたちが準備を進めている食堂のような部屋に戻ると、くっつけられたいくつかの机の上に、すでに豪勢な料理がずらりと並んでいた。
すでに椅子に座ったり、壁にもたれかかったりしながら話したりしている人の姿もある。
僕たちからの誘いもあって、今日の漁を手伝ってくれた乗組員全員が参加しているのだ。
「おーい、こっちだ!」
アルヴァンさんが軽く手を振って呼んでいる。
まだカトラさんとリリーは来てないけど、奥の一角に僕たちの席を設けてくれたらしい。
「お待たせしました」
「なに、まあ座って待っとけ。もう少しで準備が終わるからな」
「わかりました。それで、あのレイは?」
「ああ、キッチンにいたぜ」
席まで行くと、アルヴァンさんは僕を座らせてから併設されたキッチンの方へ消えていく。
その姿を見て、慌てて周りの人たちもキッチンに手伝いに向かったので、いきなり席には僕とセナだけが残されてしまった。
レイもあっちにいるというなら問題はないだろう。
すぐに戻ってくるはずだ。
って、なんでセナだけなんだろう?
ちょっと離れた席にいるので、腰を浮かしながら声をかけてみる。
「あの、一緒じゃ……」
「ん、あ~ダンド?」
僕が頷くと、彼女は眉を八の字にしながら申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。あのバカ、待ってる間にみんなから『漁師はいいぞ』って言われちゃって。優しさから言ってくれてたんだけど、その流れで言い合いになったの」
今度はセナが席から腰を浮かすと、口元に手を添え内緒話をするように話し始める。
「ムキになって帰るって言い始めたんだけど、アルヴァンおじさんも見てるだけで声もかけられなくって」
チラチラと見ているキッチンの方に僕も目を向けると、残りの料理を運ぶために指示を出しているアルヴァンさんがいた。
セナは肩をすくめ、溜息を吐く。
「あたしはもう間に入らないって思ってたら、そのまま本当にダンドも帰ちゃってね。……ほんっと、あの2人はお互い素直になればいいだけなのに」
「あ、あはは……」
素直になることは案外難しいと思うけど、まさに正論過ぎてなにも言えない。
でも、彼女が心の底からダンドたちを気に掛けていることは強く伝わってきた。
明後日、書籍3巻が発売です。
このネメシリア編の後が描かれた、冒険と観光がたっぷりの一冊になっております。
web更新と差が空いてしまって申し訳ないです……。
ぜひお手に取っていただけますと幸いです!!




