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クラク

「は? なんでだよ。オレだって冒険者だろ! それにそもそもな、オレは姉御の魔法を」


「ダンド。もう時間がないんだ、いい加減に――」


 甲板に残りたいと主張するダンドに、アルヴァンさんが強めの口調で言おうとする。


 一瞬張り詰めた空気になり、このまま言い合いになりそうに思えたが、被せるようにセナが口を開いた。


「ほ、ほら。あそこの扉を閉めたら、向こうからこっちが見えるんじゃない? でしょ、ダンド」


「あぁっ?」


「で・しょ・っ!? ね、おじさんもあそこだったら船から落ちる心配もないし、いいよね?」


 セナが勢いでダンドを丸め込んでる。


 彼女が言ってる扉とは、下に続く階段の手前にある物のことだ。


 今は開け放たれてるけど、扉といっても木組みの柵のような物だから閉めても視界は遮られないだろう。


「あ、ああ。そうだな。簡単なロックしかできねえが、絶対に出てこないと誓えるならいいぞ」


「うん、ありがとう! じゃあさっさと行くわよ、ほらダンド」


 まだ苛々した様子のダンドだったが、セナは無理矢理その背中を押して階段の方へ行き、扉を閉めている。


「はぁ……セナに助けられちまったな」


 アルヴァンさんは首に手を当て、小さく反省していた。


 それからも周囲では漁の準備が進んでいったが、船の前方と後方に2つずつ、捕鯨で使われるような砲タイプの銛が設置された。


 もうここまできたら完全に大規模な漁だ。


 ホイホイと自ら漁に出てしまったことを悔いる。


 だけどここまでみんなを巻き込んでしまっているので、あとはアルヴァンさんたちを信じて僕も頑張るしかない。


 さらに島に近づくと、それが三日月型に近い形をしていることがわかった。


 かなり大きな島にもかかわらず、切り立った岩が目立って人を阻んでいるような印象を受ける。


 ある程度まで島まで近づいたポイントで、船は帆を畳んだ。


 船は止まると、嫌な静けさが残る。


 頭上を飛ぶ海鳥の鳴き声だけが、辺りに鳴り響いていた。


 仕事モードで口を閉じ集中しているアルヴァンさんたち。


 僕たちも、到底喋れるような雰囲気ではない。


 僕とカトラさん、リリーが程度に差はあれど、全員そこそこ緊張した面持ちだ。


 しかし……ん?


 隣で腕を組むアルヴァンさんは、空を見上げている。


 何を見てるんだろう。


 自分も空に顔を向けてみて、ふと気付く。


 さっきまでいた海鳥の姿がなくなっている。


「……そろそろ来るぞ」


 僕が気付くのと、アルヴァンさんが久しぶり口を開いたのはほぼ同時だった。


 さらにタイミングを合わせるかのように、その瞬間。


 ジャバァアアアンッ!!


 海面から爆ぜるような音が鳴った。


 あまりの衝撃に思わず僕と、後ろにいるリリーは固まってしまった。


 しかし、アルヴァンさんたち海の男らはすでに声をあげながら動き始めていた。


 てか、これ転覆するんじゃ……?


 そう思ってしまうほど、波のせいなのか船が傾いている。


 気を抜いたら、海に向かって滑り落ちていってしまいそうだ。


「大丈夫、2人とも!?」


 固まっていた僕とリリーがバランスを崩しそうになったところを、カトラさんが後ろから支えてくれた。


 さすがBランク冒険者。


 こんな時だって冷静に、しっかりと周りを見えていたのか。


「はい!!」


「……うんっ」



 船の傾きが戻っていく時、先ほど爆ぜた海水が頭上から雨のように降り注いでくる。


 あっ、そういえば。


 ワンテンポ遅れて足下を見る。


 不安に襲われたが、レイは僕なんかよりも数段階落ち着いた様子で普通にそこにいた。


 よ、よかった。


「まず一発目だ。ぶっ放せぇー!!」


 ゆっくりと安心する暇もなく、次はアルヴァンさんが声をあげた。


 間髪を置かず、今度は船上から火薬が爆ぜる音がして台から銛が飛んでいく。


 その銛を目で追って、僕はようやく自分が何かの影に立っていることに気付いた。


 帆はすでに閉じられ、さっきまで今いる場所は日向だったはずなのに。


 銛が、この影を作っている物体に突き刺さる。


 それは見上げるほど高い位置まで上げられた、巨大なタコの足だった。


 薄々感じてはいたけれど、想像していたよりもさらに大きい。


 こ、これがクラク……。


 ちょっと、開いた口が塞がらない。


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