不器用
「あっ。でも話すって言っても、一緒に船に乗ったから悪いのはあたしもなんだけど……」
自分でも勢いで言ってしまってから気付いたのだろう。
少女は語気を弱めたが、アルヴァンさんが先を促す。
「たしかに勝手に船に乗られたら困るが、実際に起きちまってることだ。それに、よく知った仲だからな。別に怒らねえから説明を頼めるか?」
「う、うん……ありがとう」
よく知った仲か。
ダンドと同じ14歳くらいに見えるし、もしかしてダンドの幼馴染みとかなのかな?
普通に友達なだけかもしれないけど。
一つ咳払いをして、セナは説明を始める。
「昨日、しっかり働いてるかダンドの様子を見に作業所に行ってね。少し話してたんだけど、そうしたら偶然、アルヴァンさんが休日に漁に出るってニグ婆たちが話してるのが聞こえてきて。その……リリーちゃん、だっけ?」
不意に話を振られたが、特段驚きもせずリリーは頷いた。
「……うん」
セナはにこりと微笑み、続いてダンドに目を向ける。
「リリーちゃんとそのお仲間も船に乗って、クラク漁に行くって話だって知ったの。そうしたらダンドがいきなり、リリーちゃんの魔法をもう一度間近で見られるかもしれないから船に乗り込むって言い出して」
昨日のうちにそんなことがあったのか。
うーん、それにしてもクラク漁が魔法を使うようなものってのは常識的なことなんだ……。
まあ、それは置いておいて。
なるほど、どうやらダンドはリリーの魔法見たさにこっそり船に乗り込んでいたらしい。
姉御とか呼んでいたし、凄腕魔法使いの技術をもう一度見たかったのだろう。
でも明らかに避けられてたからな。
こうでもしないと、もうチャンスはないと思ったのかもしれない。
「あとは今朝、船に乗ってるダンドを引き戻そうと来たら、あたしも中にいるときにみんなが来て。とっさに下の道具置きに隠れたら船が出ちゃって……さっきこの子に見つかって感じかな」
船内を歩き回ってたレイが、ダンドたちを連れて帰ってきたのはそういう経緯だったみたいだ。
腕を組んだアルヴァンさんが息を吐く。
「……そうか。セナはもういいぞ、助かった」
「えっ」
「あとはダンド、お前自身の口から聞かせろ」
そう言われ、気怠そうに顔を逸らしていたダンドがさらに不機嫌になる。
「は? なんでだよ……」
「いいから付いてこい。こっちだ」
しかし耳を貸さず、アルヴァンさんは下に繋がる階段がある方向へ行ってしまう。
ダンドはそれでも足を止めていたが、アルヴァンさんが途中で立ち止まり自分を待っていることに観念したのだろうか。
「ちっ」
舌打ちをしながら体を反転させ、あとに続いていく。
「ご迷惑をおかけしましたっ」
残されたセナが僕たちに頭を下げてくれたが、構わないと首を振った。
「私たちは全然大丈夫よ。それに、ほら。アルヴァンさんも息子さんを叱ろうとは思っていないみたいだから」
「……?」
残された4人と1匹で2人の背中を見るが、セナは首を傾げた。
「そう、ですか? あたしには、これからこってり怒られそうに見えますけど……」
たしかに、僕も子供の視点からだけだったら、アルヴァンさんが理不尽に感じたのかもしれない。
だけど多分、怒るために連れて行ったわけじゃないのだろう。
回りに人がいないところで、アルヴァンさんなりにダンドと正面から向き合おうとしているのだと思う。
その伝え方が、照れくささからなのか分かりづらかったが。
まあ親も人間なんだから、成長していかなければならないところもあるはずだ。
あの不器用な親子が、互いに素直になれたらいいなぁ。
他人ながら勝手にそう願ってしまった。
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