表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/173

出港

今週、金曜日頃から書籍2巻が発売となります!

web版にはないシーンや書き下ろしはもちろん、イラストや全体のクオリティもアップしていて読みやすくなっていますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。この週末、秋の夜長に合わせてどうぞ!!

 白んできた空の下で、男たちが汗をかきながら動き回っている。


「引けッ引け!」


 声に合わせて力一杯に引かれる綱。


 その瞬間、綱を引く逞しい腕が、浮かび上がった筋肉でぐわっと膨らんだ。


 一気に広がった帆も風を捉え、これまたぶわっと広がる。


 それを見て、指示を出していたアルヴァンさんが全体に聞こえるように、僕の

隣で叫んだ。


「よーっし! いい風だ。一気にポイントまで向かうぞッ!!」


「「「おぉおうっ!!」」」


 乗組員たちから野太い声が返ってくる。


 アルヴァンさんは満足げに頷き、こっちを向いてから甲板の中央を指した。


「あとは時間をかけて移動するだけだ。酔わねえように、風を浴びながら日陰にでもいるといい。本格的に日が出てきたらたまらねえからな。ま、日陰ってもないに等しい狭さだが」


 うーん……たしかに。


 苦笑気味なアルヴァンさんに言われて見たけど、影ができはじめてる場所なんて、この広い船上で帆とかが作るものくらいだ。


 屋根がある下のフロアのスペースも、物が置かれていてゆっくりできる雰囲気ではないらしい。


 まあ漁船だから、基本的に働き続ける人しか乗らない設計なんだろう。


 にしても今日は天気が良すぎるから、あんまり涼を取れることは期待できないだろうなぁ。


 天気が良い方が海が荒れる心配がないのかもしれない。


 けど、空に浮かぶ雲の少なさを見ると少し不安にもなる。


 わがままを言えば、ちょうど良く曇ってくれたりしてたら良かったんだけどなぁ……。


 早朝とはいえ気温は高く、沖に出て来てから帆を張るまでの今まででも、こめかみに汗が流れ始めているくらいだし。


「ありがとうございます。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて僕たちはゆっくりさせてもらいましょうか」


 気休めにしかならないだろうけど、せっかくの提案だ。


 同様に汗をかきはじめている様子のカトラさんとリリーに声をかける。


「暑い……」


 ぐでーっとしながら、真っ先に向かうリリー。


 続いて僕たちも帆の下辺りに移動する。


 今日は漁の手伝いにと、普段からアルヴァンさんの下で働く10を超える人々が来てくれている。


 本来だったら休日だったのに海に出てもらってる上に、自分たちだけ影まで使わせてもらうのは忍びない。


 だけど、下手に素人がダウンした方が迷惑をかけるかもしれない。


 そう自分に言い聞かせ、涼ませてもらうことにした。


「ふぅ……レイ、あんまり邪魔にならないようにね」


 影に腰を下ろし、念のため隣にいるレイに言っておく。


 アルヴァンさんが許可してくれたので、船上ではレイは無力化を解いた状態で過ごせることになっていた。


 真の姿を見て、一瞬だけ漁師の皆さんは驚いた様子だったけど、すぐにレイの賢さを実感してくれたようで今はもう警戒はされていない。


 ネメシリアに入ってからというもの、無力化が続き窮屈な思いをさせてしまっていたからな。


 有り難い限りだ。


 その上、自由に動き回わらせていいと先ほど言ってもらえたので、レイは船内を散歩するつもりらしい。


 僕の言葉に「わふっ」と答えたかと思うと、尻尾をぶんぶん振りながら船の前方へと消えていった。


「あらっ。動き始めたら思ったより風があって気持ちいいわね」


「……? あっ、本当ですね」


 カトラさんの言葉に首を傾げたが、遅れて僕にもハッキリと分かるくらいの風が吹いてきた。


 帆が受け、船を進めてくれている風が汗ばんだ首筋を撫でる。


 生温いし、そもそも日差しが厳しいから少しでも無風になるとしんどいけど、たしかに風があるとまだマシだ。


「おーぉ……気持ちいい」


 救いの風だと、リリーなんか立ち上がって全身で風を浴びはじめている。


 船は構造が優れているのか、その巨体からは想像できないほどすいすいと進んでいく。


 陽光を反射して、きらきらと銀の鱗のように輝く海。


 陸から見るだけでなく実際に出てみるとまた印象が違う。


 港の近くにある小さな島々の間を抜け、沖をさらにしばらく行くと、船は見渡す限りの海に周囲をぐるりと包まれた。


 頭上を覆う青空に、どこまでも広がる海。


 ぷかぷかと浮かぶいくつかの雲だけが青色の中にある白色で、いつも空を見上げたら目に入るものとは、今日は存在感が一段と違って感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ