イブの夜
3人は城に戻ると、匠と透はしなかったが、お互いのおでこにお休みのキスをし、各自の部屋へ戻って行った。
透はあてがわれた部屋のマントルピースの上に、自分があげたガラスの靴が飾ってある事に気がついた。レイラはガラスの靴を、自分の部屋に飾らなかったのか、と透はほんの少し残念に思った。透はレイラに話しておきたい事があったが、城に戻ってから1時間も経った今、レイラは来ないだろうと思われた。それに、今日この幸せな雰囲気を壊してまで話さなくても良いと思った為、明日に持ち越す事にした。
透がバスルームにあるジャグジーに浸かり、久しぶりにぼーっとしていると、カタリと音がした。窓もドアも鍵をかけたはずだ。まだ暗殺に巻き込まれる危険性もあるかもしれないと、何の音かを確かめに、バスルームに掛けてあったローブを羽織って、音のした方へ行くと、重そうな本棚がゆっくり揺れている。本棚がスライドし始めた。呆然と見ていると、本棚のあった空間からレイラが出て来た。
「こんばんは」
髪をアップにして、柔らかそうなシルクの白いカシュクールのワンピースを着ている。
「こんばんは。チョコレートを有難う。あのお店のチョコをお土産に欲しいって言ったの覚えていてくれたんだ。嬉しい」
「……レイラはいつも、変わった所から入ってくるね」
「この城にはいろいろな仕掛けがあるからね。ジャグジーに入っていたの? ジャグジーは透へのクリスマスプレゼントだったんだけど、気に入ってくれた?」
「え? そうだったのか……。有難う」
「この部屋、改装したんだけれど、どうかな? 気に入ってくれた? 海は見えないけれど……」
レイラは近寄って来て、透の背中に両腕を回す。同じシャンプーの香りがする。透はそっとレイラの腕を離して、一歩離れる。レイラが不思議そうな顔をする。
「レイラ、私は話をしたいのだが……」
レイラはアントンから、透が、「自分は世継ぎを生む道具じゃない、レイラは後継者に関してプレッシャーを感じているのではないか」、と言っていた事を聞いていた。それは引き換えて言えば、透が感じているプレッシャーで、返事をくれないのはそれが、相当プレッシャーになっているのではないかと思った。
レイラの中で大事な事は、国をきちんと治める事。透と匠が側にいてくれれば、意欲的に国を治めていく事ができる。大臣たちの間で問題になっている後継者については、透とであれば、子供はすぐにでも出来るだろうし、プレッシャーさえなければ、きっといい返事がもらえるとレイラは考えた。
「透、跡継ぎの件なら匠がいるから、もう気にしないでいい。暗殺の心配も、もうしなくて良くなったから、後継者に関して言えば、匠がいる今は重要な事ではなくなった。だから、気にしないで。私にとって大事な事は、匠と透と一緒に暮らす事だから」
「本当に、匠以外に後継者がいなくても構わないのか?」
レイラは透にとって後継者問題が、そんなにプレッシャーになっていたのかと思いながら、はっきりと頷いた。
「答えは、もらえないの?」
ずっと悩んでいた答えを打ち消す言葉が、レイラの口からこぼれた。透は見つめ返した紫の瞳に吸い込まれそうになった。答えてしまえば、もう後戻りはできない。透は一旦目を閉じてから、レイラの瞳を真っ直ぐに見つめ返して答えた。
「だいぶ待たせてしまってごめん。遅くなってしまったけれど……」
透が跪いて、頭を垂れた。
「生涯レイラの側に……」
レイラは最後の言葉まで待ちきれず、透を立たせ、腕の中に飛び込んだ。
「……良かった。これから、ずっと一緒にいられる」
「最後まで言わなくていいの?」
「聞かなくても分かっているから。ずっと、離さないで」
「『側にいない』、だったら?」
「有り得ない」
「レイラはせっかちだな」
「透が待たせすぎたから」
「ごめん、もう、待たせないよ」
透はレイラを抱き上げた。二人の唇が重なり、甘い吐息が漏れた。
濃厚なシーンを期待していた方がいたら、すみません!




