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初めての帰国

 匠から、バンドのメンバーの中に好きな子がいる、と打ち明けられたレイラは張り切った。今まで、打ち捨てて置いて、何もしてあげられなかった匠に、少しでも母親らしい事をしようという気持ちが芽生えた為、応援しようと思ったのだ。


 YouTubeで流すミュージックビデオをサファノバに来て作る、という口実でメンバーと一緒に来たらどうかと、匠に提案した。もちろん、渡航費用と滞在費用等全ての費用はレイラが出す。レイラからの提案に匠は喜んで、早速、メンバーに伝えた。


 レイラは考えた。どうやら透は自分たちの関係がはっきりするまでは、人目を気にしているようだった為、メンバーがいると、レイラによそよそしく接する可能性が高い。お披露目をする前に匠と親子だとわかってしまうのも不都合なので、メンバーには冬休み最初の5日間だけ滞在してもらう事にする。透は匠と一緒には来ないで、後から来ると聞いていた。学園の生徒であり、匠のバンドのメンバーたちが帰国した後であれば、透はよそよそしくはしないだろう、と。


 12月19日

 One smile for allのメンバーがヨーロッパのハブ空港に到着すると、アントンが「匠君 & One smile for all」と書いた紙を手にして待っていた。メンバーが口々お世話になります、と挨拶をした。アントンは割と強面なので、気を遣って怖く見えないように愛想よく笑っている。

 一行はアントンに連れられて、専用機に乗り換える。アントンがあえて何も説明しなかった為、乗った飛行機が専用機だと気がついたのは匠だけだ。


 快適なフライトの後、サファノバの空港に降り立った。匠はサファノバが小さい国だとは聞いていたが、サファノバの主要空港が、日本の地方都市の空港くらいの大きさだった事に驚いた。匠は今まで、先進国と呼ばれる国の主要空港しか降り立ったことが無かったからだ。

(小さい国と聞いているし、空港も小さい。全ての費用を持ってもらって大丈夫なのかな……)

匠は少し、母親の懐具合が心配になった。行きも帰りも飛行機のチケットはファーストクラスだった。


「通貨を換えておいたほうがいいですか?」

よく海外旅行に行くらしい波瑠がアントンに尋ねた。アントンがにっこり笑う。

「その必要はアリマセン。必要なものは全て用意シマス」

メンバーが驚いて口々に言う。

「本当? 良いんですか?!」

「理事長の彼女が出してくれるんですか?」

「一体何をしている人ですか?」

「彼女は経営者なんだって。気にしなくて良いみたいだよ」

そう答えつつ、匠は後でレイラに聞いてみようと思った。


 お城の跳ね橋は車では通れないため、駐車場に車を置いて跳ね橋を渡る事になる。

「え? お城に住んでいるの?!」

結衣もメンバーも驚いている。匠は聞かされてはいたが、本当に中世そのままのお城に住んでいるとは思ってもいなかった。アントンが慌てて答える。

「中は最新設備にリフォームしているので、暖かいデス」

匠も慌てて言い添える。

「ほら、今時、海外の有名なイギリスの女優や、世界的に有名なレーサーと日本人の女優もお城に住んでいるじゃない? ヨーロッパではお城に住むのが流行っているのかもよ?」

アントンに案内され、城内に入るとツアー客とは別の方へ案内される。

「後でツアーにも参加して、お城の中を見学すると良いデス」

ツアー用の表示は全てロシア語とサファノバ語だったので、メンバーは読めない。


 まずは各自部屋へ案内され、そこで荷物整理の時間を設けた。部屋の中は、中世の趣を残した家具が置かれていたので、タイムスリップしたのかと勘違いしてしまいそうになる。匠はお城の古めかしさを見て、母親に費用を出してもらう事がますます心配になった。しかし、女子たちの反応は正反対だった。

「天蓋付きのベッド〜!」

「お姫様の部屋みたい! ゴージャス!!」

One smile for allのメンバーの部屋から嬉しい悲鳴が響き渡った。匠はメンバーとは階が違う、よりレイラの部屋に近い所へと案内された。


 夜には、メンバーと匠は暖炉のある部屋で、ディナーをレイラと共にした。

「何か困ったことがあったら、アントンは日本語がわかるので、アントンに言ってね。それから、明日にはロシアの映像作家キーロヴィチが来て、MVを撮ってくれるので、どう言う風にしたいか、よく話し合って。彼はあなた達が帰国する日までいるから」

シックな深緑のスーツを着たレイラが、にっこりと微笑んで予定を伝えた。紬がすぐにスマホで検索すると、すぐに出てきた。

「こんな有名な人が、私たちのM Vを撮ってくれるんですか?!」

「もう、曲も彼には渡してあるから、彼は彼でイメージを持ってくるかもしれないけれど、メンバーの意見も聞いてくれるはず」

「こんなに親切にしてもらって、良いんでしょうか……」

結衣が心配そうにレイラに視線を向けた。

「私の後輩達が、コンテストで最終優秀賞を取れて、私も嬉しいから。MVがどう出来上がるかは、あなた達次第だから、頑張ってね」


 夕食後は早速、打ち合わせと練習をし、それが終わって各自の部屋へ引き上げてから、匠はレイラの元を訪れた。レイラの部屋は一際豪華で、広い。入り口で匠が佇んでいると、レイラが匠の手を引いて、椅子に座らせた。

「サファノバに来てくれて、有難う。気に入ってくれると嬉しい」

「こちらこそ、映像作家まで呼んでもらえるなんて、考えても見なかったよ。有難う。俺たちのために、すごく、その、お金がかかってしまうんじゃない? 大丈夫?」

匠は、気になっていた事を真っ先に聞いた。

「それは気にしないで。サファノバは小さい国だけれど、天然資源の産出で潤っているから。匠のやりたい事を応援することくらい、何でもない。匠、髪の色を戻したんだね。その方がずっと良い」

「そうかな? 有難う。日本だと目立ってしまうから嫌なんだけど」

「だったら、ずっとサファノバにいれば目立たない。とはいえ、ここでもシルバーブロンドとホワイトブロンドは少ないけれどね」

一瞬戸惑った匠を見て、レイラは話題を変えた。

「どの子なの、匠が好きな子は?」

「レイラは何もしないでいてくれる? 誰にも話さない? 約束できる?」

匠が小指を出すと、レイラは躊躇わずに指切りをした。匠の指はレイラと似て細くて長い。

「一番髪の長い、結衣って子。4歳も離れているから、今のところ、相手にしてもらえない。でも、学生の4歳差は大きいけれど、社会人になれば4歳の差は大きくないって、誰かが言っていたから」

 レイラは机に身を乗り出して、聞いている。匠は自分の母ながら、美しいレイラの顔が近くにあり、少しドキドキした。レイラは匠の頬に手を伸ばすと、匠のおでこに自分のおでこをくっつけた。

「大丈夫、匠は私の子。きっと想いは叶う」

レイラは真っ赤になった匠からおでこを離すと、先ほどまでの、優しい表情から一変して、不意に躊躇うような視線を向けた。

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