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森の中

 アントンは車で来た為、レイラに「車にお乗り下さい」と声をかけた。しかし、透がバイクに乗る、と聞くと、レイラは迷わずバイクの後ろに乗ると言いだした。透は念のため、オフロードなので快適ではない事、車の方が安全だから、車に乗るようにと言い聞かせたが、レイラは全く聞いていない。それどころか、見えない所へ行って、早速、透のリュックからライダースーツを出して着込んでいる。

 アントンは時間がかかってもいいから、くれぐれも安全運転でと透に念を押し、車で戻ろうとしたところを、レイラに引き止められた。スマホを渡され、ライダースーツを着てバイクに跨っている自分たちを撮るよう命令された。その為、透は一度被ったヘルメットを取らされた。レイラはせっせと透の髪を直し、撮ってもらった写真をその場で匠に送った。ついでに待ち受けにしている。透とアントンは溜息をついた。二人は一刻も早く、この場所から離れたかったのだ。


「カテリーナ、いつもは優しいのに、何故、あんな意地悪をしたのですか?もしかして、透を気に入ってしまったのですか?」

(何だか2人が羨ましくなってしまった、なんてこの子には言えないわね……)

「さぁ、あんまりにも、女王が昔の私に似ていたから、かしら」

「今でも、カテリーナは十分綺麗ですよ」


 カテリーナとローベルトに手を振ると、レイラは透の腰に手を回しピッタリ密着した。ヘルメットまで密着させて来たレイラに、透が遠慮がちにヘルメットは密着させると危ないから離すようにと、伝えた。


 森の木々の間から、月明かりが差し込んでいる。レイラを乗せている為、透はスピードを落として、慎重に進む。車が通れるくらいなので、ある程度は道のようにならされているとは言え、道路のように舗装されているわけでも、街灯があるわけでも無い。少し先をヘッドライトに驚いた動物が足早に横切っていく。インカムを通じて、レイラが透に、バイクを止めて灯りを消すように伝えて来た。透が言われた通り、バイクを止め、灯りを消すと、右手に光る目がこちらを見ている。

「見て、大きな角のヘラジカがいる」

 レイラが指した先は、木が密集していて、暗かった為、透はしばらく、目が慣れるまで待ったが、はっきり形までは見えなかった。レイラには角まで見えているようだ。レイラはヘルメットを取り、ヘラジカに向かって歩いていく。ヘラジカは姿を見せるように、月明かりの下へ出て来た。1頭だけではなかった。後ろに5〜6頭いる。世界最大の鹿と言われるだけあって、レイラに近づいて来た立派な角を持ったヘラジカは、肩までの高さがレイラの頭よりもずっと高い位置にある。月光を受けて中から発光するように、レイラのプラチナブロンドが輝いている。

「レイラ、危ない」

透がバイクを止めて近寄ろうとすると、別のヘラジカが威嚇するように、透に角を向けて来た。囲んでいるヘラジカ達は、奈良の鹿よりもレイラに対して人懐こく、レイラに鼻面を擦り付けたり、すり寄ったりしている。一番大きな雄が守るように、レイラの体に首を回している。レイラはくすぐったそうにしながら、首を撫でてやる。ヘラジカたちはレイラの周りを取り囲みながら、すり寄っていく。レイラが別れの合図のように首をポンポンと叩くと、名残惜しそうにしながら、去って行った。


(「高野聖」……。まさか、な)

透は有名な小説のタイトルを思い出した。疲れ過ぎて、夢でも見たのではないかと思った。

「今の、何……? あのヘラジカたちは知り合い?」

「サファノバ王家の血を継ぐ者の中に、今の私のように野生の動物に好かれる者がいる。動物に好かれた者が女王か、王になると国は栄えると言われている。匠もそうだと良いけれど。私が森を通過できたのは、彼らが守ってくれたから。だから、今お返しをした」

「なんだか、ファンタジーの世界みたいだな……」

透は、一瞬でも「高野聖」を思い浮かべてしまった自分を恥じた。

「もしかして、雄のヘラジカに嫉妬した? あの子、私にべったりだったから」

「……」

「他にも色々な動物が寄ってくる。透に見せたいから、サファノバに寄っていかない? 大人しい子達なら、透も触れるかもしれない」

「大村ジュニアがまだ滞在しているんだよね?」

「あぁ、あれは透の身代わりとして、暗殺者の囮にする為に、滞在を引き延ばさせただけ。おかげで、透を危険に晒す事なく、ヒットマンを捕らえることが出来たし、カテリーナに証拠として見せ、訴えることが出来た。でもカテリーナのせいで、結局は透が危ない目にあってしまったのは、本当に予想外だった。ごめん。健斗の事、気になっていたの? どう言う意味で?」

レイラはなんでもない事のように言って、にじり寄って来た。透は健斗の事を暗殺者の囮だと、なんでもない事の様に言うレイラに驚いた。

「身代わりなんて……。万が一ジュニアに何かあったら、大村になんて説明するんだ」

「え、だって、本人が滞在したがっていたんだよ? それを利用するのは駄目なの? 健斗を庇うの?」

 レイラが透を大事に思い過ぎていることは、十分承知していた。透は一時でも、レイラが寂しがって、健斗を城に滞在させているのではないかと、疑ってしまった事を恥ずかしく思った。透にとって健斗は近寄りたくない存在だ。そうであったとしても、透は自分の身代わりに、誰かを犠牲にしていいとは思えなかった。レイラにそんな真似をして欲しくなかった。

「言ってくれれば、身代わりなど使わなくても、私が囮になったのに」

「透に万が一のことがあったら、どうしたら良いのかわからないから、そんな事は絶対に出来ない」

「健斗にだって、万が一の事があったら、嘆く人がいるはずだよ」

レイラは俯いた。それが考えているのか、納得したのか、反省してなのか透には判断がつかなかった。


 森を抜けたところでアントン達が、レイラと透を待っていた。レイラは、透がサファノバに寄っていくと思っていたが、透はこのまま地方空港からヨーロッパの大都市空港経由で帰ると言う。透は健斗と顔を合わせたくなかったのだ。レイラは本気で、このまま透を攫って行こうかと考え始めたが、アントンが、無理強いすると嫌われますよ、とこっそり言うので、諦めた。代わりにアントンが提案した。

「冬休みに匠君を先に寄越すつもりなら、下調べも兼ねて、サファノバを一度見ておいたらどうだ? もう空港に行くには遅すぎる。お城を見てから、明日飛行機に乗ったって、そう遅くはならないはずだ」

そう言われてしまうと、透としては断れず、セスナの中で満面の笑みをたたえているレイラの隣に収まった。残りの護衛達は陸路で帰国した。

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