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護衛の有給

 透が修の書庫兼仕事場に戻ろうと歩いていると、アントンが不審な男達に囲まれているのが見えた。

 相手は五人で、五人ともプロレスラーのような体格をしている。五人の一人から何か聞かれたアントンが首を振ると、乱闘が始まった。アントンはあっという間に二人倒している。透を見つけたアントンが、

「透! 見てないで、逃げるか、手伝うか、警察に電話しろ!」

と叫んでいる。どうやら、たちの悪い相手らしいが、飛び道具は持っていないようだ。

 アントンが声をかけた為、透に気がついた一人が向かって来た。透は仕方なく、平手で顔をつき、のけぞったところを蹴り上げた。見ると、アントンは余裕で、後二人を片付けていた。

呻く五人を残して、二人はそのままその場を離れた。


「透もクラヴマガを習っているのか?」

「昔レイラがやっているって聞いてね、習ったんだ」

「何でもっと早く手を貸さない」

「手伝うまでもなかったじゃないか。それにまだ手術したばかりだから、あまり動けないんだよ」


 二人が去った後、伸びていたうちの何人かが目を覚ました。

「アントンと親しそうにしていたのは誰だ?」

「アントンは、トールと呼んでいたようだ」

「こりゃいい。何かあると思ってアントンを突ついたら、もっといい獲物が見つかったな」

「誰だ、それ?」

「サファノバ女王の想い人だ」


 書庫兼仕事場に戻ると、透は、次回、戸沢の調理実習に生徒と一緒に参加して、フレンチを習うのもいいなと思いながら、中華料理好きのアントンの為に、麻婆豆腐と中華スープとキクラゲの辛子醤油和えを作った。透がビールを渡しながら、アントンに尋ねた。アントンはすっかりミラクルドライビールの虜になっている。

「さっきの男たちは何者だ? 何で襲われたんだ?」

「さぁ、聞こえた言葉だと、隣の国かサファノバの者だと思う。我が国が欧州同盟に加入したから、大国の嫌がらせもあり得る。いきなり、『日本で何をしている』と聞かれた。答えずにいたら、殴りかかってきた」

「アントン気をつけないと。目当ての子供を目の前で拐われてしまったら、大変だよ」

「そうだな、気をつける。いい匂いだな。何の匂いだ?」

「麻婆豆腐だ」

「透の作った料理を毎日食べているなんて報告したら……」

「報告しなくてよろしい」


 アントンが皿に盛った側から、もりもりと豪快に食べる。

「旨い!」

「足りるか?」

「いや、食べ過ぎると、体の動きが悪くなるから、これで十分。何しろ、私は護衛だからな。透の作った物は、なんでも美味いな。考えずに食べていたら、あっという間に太りそうだ」

「そうか。少し、肉付きが良くなったんじゃないか?」

「え?! 本当か? 不味いな……」

アントンは筋肉隆々のアメリカンコミックのヒーローの様な体格だ。護衛やボディーガードという職業がよく似合う。

「アントンのこの髪は、地毛か?」

透がアントンのくるくるした巻毛に触ろうとした為、アントンは慌ててのけぞった。

「急に触られると、反射的に攻撃したくなるからやめてくれ。この髪はパーマではなくて地毛だ」

「ふーん。小さい頃は天使みたいだったんじゃないか、もしかして」

アントンは不意に真っ赤になった。透は悪戯心を起こして、急にアントンを突ついてみようかと思ったが、アントンの攻撃能力を思い出し、控える事にした。アントンから本気で攻撃されたら、命に関わりるぞと、透の本能が告げている。

「スープも美味いな。日本人はみんな料理が得意なのか?」

「そんな事はないよ。サファノバには調理実習はないのか?」

「無いな」

 そういえば、調理実習の時、留学生たちはなかなか大変そうだったと、透は思い出した。レイラは野菜を切るのに、恐ろしい包丁の使い方をしていた。アントンは今思えば、ナイフを使い慣れている感じはしたが、料理ではなく違う方で使い慣れていたのかもしれない。やたらとクルクル包丁を回していた。海外では調理実習は全員が習う科目ではないらしい。

「サファノバでも、調理実習を取り入れたら? アントンも高校の時にやったよな? 覚えてる?」

「そうだな……」

「毎日の食生活が豊かになると、人生も豊かになる。あ、そうそう、今週末は用事があって、いないから。アントンも一日くらい休んで、少しは東京見物したらどうだ? 有給はないのか?」

「ユーキュー?」

(護衛には有給はないのだろうか?)

どうやら、アントンは有給という言葉自体を知らないらしい。日本語として知らないだけなのか、そういう概念がないのか。次回もし、レイラに会う機会があったら、有給について、どう思っているのか聞いてみよう、と透は思った。


 透は溜息をついた。アントンが、観光バスにでも乗って、どこかへ旅行にでも出掛けてくれれば、匠の様子を見に家に戻ることが出来るのだが。休む事なく毎日、熱心にあちこちへ行き、調べ、とうとう養護施設という言葉を見つけ、電話をかけまくっている。

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