ご懐妊
2ヶ月後。
レイラの侍医が、大臣たちに厳かに告げた。
「女王陛下、ご懐妊」
大臣たちと護衛たちはどよめいた。S島の津波直後から、曇りがちだったレイラの表情は、今日は穏やかだった。侍医から、出産予定日が発表されると、一瞬、皆信じられぬような表情になった。大臣たちも、護衛たちも、津波が起こる前日に、レイラがS島に行ったのだと思い出した。
次の瞬間、次々と「おめでとうございます」と控えめながらも、お祝いの声が次々と上がった。
アントンはホッとした。アントンの父を含め、2〜3人の大臣が半年待って、透が見つからなければ、何としても、誰かと結婚して頂かなければと話しているのを聞いていたからだ。懐妊となれば、その話は当分無くなるだろう。後は、レイラが自分から再婚したいと言わない限り、当分、誰も何も口を出す事はないに違いない。
レイラは祝いの言葉を口にする臣下達を、ほっとしたように眺めた。新たに宿った命を慈しむように、まだ目立たぬお腹に手を置いた。
レイラは宿った命を、絶対に守り通そうと食欲がなくてもきちんと食事を摂り、睡眠を取り、健康に気をつけ過ごした。公務も安定期に入るまでは、外遊を避け、数を減らした。家臣や大臣たちはそんなレイラを見て、もう心配はないと安心した。それでも、夜中に度々レイラがうなされているのを匠は知っていた。