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スピーチとダンス

 翌日の朝、約束通り、透は部屋に戻ってきて、律儀に森に戻ってきた事を知らせた。森はどんな言葉をかけて良いのやらわからず、ただ「おはようございます」とだけ、挨拶した。

「森先生、すみませんでした。彼女は今日の朝一で帰国するので、この後こういう事はありませんから。それにしても、参りましたよ……」

聞いて良いものやら分からずに森は黙った。しかし、尊敬する先輩である透の惚気話、聞いておくべきなのかもしれない、と覚悟を決めた。

「どうしたんですか?」


 透はレイラの部屋へ連れていかれ、椅子に座らせられた。

「夏休みに透と匠が来ると言う事で、大臣たちがパーティーを開いてくれる事になったから、出来れば、短くていいから、透にはサファノバ語でスピーチをしてもらいたい。だから、まず、日本語でこの紙に内容を書いてみて。私がサファノバ語に訳すから」

「今?」

「今。次いつ会えるか分からない。テレビ通話にして発音とか、何度か練習するにしても、原稿は必要だから」

なんとか原稿を書き上げ、レイラが翻訳し、2〜3回発音し、それを動画で録音し、透も何回か発音練習した。やっと終わった、と思った透が席を立った。

「コーヒー淹れてくるけれど、飲む?」

「有難う。透、コーヒー飲んだら、今度はダンスね」

「ダンス?! 何の為に?」

「もちろん、パーティーの為。今まで踊る気がしなかったけれど、透とは踊りたいの」

「今から、練習?!」

「コーヒー飲んでからでいいから」


 そこから、みっちり、透はダンスのステップを叩き込まれた。透は覚えない限り、レイラのレッスンは終わらないと覚悟を決め、集中してステップを覚えた。透は慣れてくると、軽やかにレイラを踊らせる事が出来、面白くなって来た。

「……そんなわけで、夜中までダンス三昧で……」

「そ、それは、かなりキツイですね……」

見ると、透は薄手のどこの言語か分からない本を手にしていた。森は、普通ではない惚気話に少しホッとした。


 透は、かなり省略し、森に話をしていた……。

「ダンスは日本で習いに行っておくから……」

「い・や。お願いだから、練習でも他の人となんて踊らないで」

透が後ろから、宥めるように優しく抱きしめ、

「今夜は、もう休もう」

と言っても、レイラは承知しなかった。


 結局、森に話したようにダンスの特訓をするしかなかった。流石に透は、一晩中踊っているつもりはなかった為、レイラが腕の中に戻って来たタイミングで、抱き上げ「もう寝る時間だよ」と囁いて、ベッドまで運び、やっとダンスを中断させることが出来た。しかし、レイラはいつになく駄々っ児のように、飛び起きようとした為、透は抱き止めて、ゆっくりと耳の後ろから首筋に唇を這わせた。レイラがまだ、ムズムズと立ち上がろうとした為、透は立ち上がって言った。

「おやすみ」

レイラの額にキスをして、出て行こうとした透の手を、レイラが掴んだ。

「……どこに行くの?」

「自分の部屋へ戻る」

「……なんだか落ち着かないだけなのに」

「レイラが落ち着かないのと同じように、久しぶりに逢ったせいか、今日は、ブレーキがかかりそうもないから、自分の部屋に戻る」

「側に、いてくれないの?」

透は熱い溜息を吐いた。

「側にいたら、今日は紳士でいられない」

レイラは健斗の視線は我慢出来なかったが、透から潤んだような視線を向けられると、それだけで、身体の奥が熱くなった。視線で撫でられたかのように、レイラは身を震わせた。身体の中を寄せては返す波が大きくなり、震えるように感情を煽っていく。

「……ブレーキかからなくていいから……来て」


 朝になり、レイラが珍しく取り乱した様子で、透にしがみついて、

「帰りたくない」

と言った。「帰したくない」とレイラは口に出すものの、いつも口に出した時には諦めの要素が80%以上を占めるのだが、今朝に限っては様子が違った。

「駄目だよ。アントンから、来客があるから、絶対に朝の便に乗せるように言われているし、引き止めたら、詐欺師呼ばわりされていた誤解が解けたばかりなのに、また誤解を受けてしまう」

「じゃあ、一緒にサファノバに来て」

「生徒に付き添って来ているんだから、放り出して行くわけにはいかないよ」

透は時間ギリギリまで、レイラを宥め、後ろ髪を引かれるような思いで、隣の護衛の所へ連れて行った。暫く逢えないだけだ、と透は何度も自分に言い聞かせた。遠距離なのだから、離れるたびに辛くなるのは当たり前だと。


 透の気持ちとは裏腹に、2日目からの日程は無事にスタートした。

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