そして青年は意を決して話す
ショウの目が覚めたのは、それから十分ほどしてからだった。彼は首の両サイドに氷のうを当てて、うーんうーんとうなっていた。
「痛かった」
「ごめんなさい、これくらいしか、できることなくて」
とっさのことではあったが、手加減をあまりしなかったというのもあって、回復には少し時間がかかるとみえた。キョウコは申し訳なさそうに頭を下げた。
「キョウコが謝ることないよ、ふらついたショウが悪いもの」
「でもホーロだって見ただろう? あれは……あれは間違いなくナナコだったよ。【時の間】から、逢いに来てくれたんだよ、きっと――」
「ショウっ」
ホーロは勢いでショウを叱る。これ以上、込み入った話をキョウコに聞かせたくない、という気持ちもあったし、ナナコのことになると前後不覚を通り越してなにも見えなくなるショウをいさめるつもりでもあった。
だがキョウコはいっそう申し訳なさそうに、ホーロに視線を合わせた。
「ホーロちゃん。ごめんね、お会計のあと、話、ほとんど聞いちゃったんだ」
えっ、と声を上げたホーロは、どこまでなら黙っていられるかを知りたくて、
「……どのへんから?」
と聞いてみた。
だがキョウコの返事は、なんともあっさりしていた。
「ホーロちゃんがずっとここでこのままってあたりから」
「ホントにほとんど聞いちゃってるね」
「……どうしても、わたしにバレるとまずいなら、話さなくてもいいけど……ナナコさんてひとと、なにかあったの?」
どうしても言葉をつむげずに、ショウは黙る。どう言っていいか、わからない。
ホーロはため息まじりににつぶやいた。
「バレるもなにもほとんど聞かれちゃったし、ナナコの姿まで見ちゃったんでしょう? もう隠せないよね、ショウ」
「結局巻き込んじゃったね……。悪いなとは思ってる。ごめん」
ショウはそう言って、ぺこりと頭を垂れた。いまできる最大の謝罪だった。
「別に気にはしてないけど。言ったでしょ、いまがそういう流れなのよきっと」
ホーロは心底ほっとしてキョウコに抱き着いた。
「話すのがキョウコでよかった」
キョウコはホーロをやさしく抱きとめると、よしよしと頭をなでてやった。
すこしの沈黙のあと、ショウは遠くを見ながら、話し始めた。
「……ナナコはね、さっき聞いたと思うけど、ぼくの妹なんだ」
ショウとナナコは子どものころ、両親の離婚が原因で別々に暮らすようになった。しかしふたりは連絡を取り合っていて、ショウが独立して時計屋になってからは特に、ちょくちょく逢うようになったという。
「一緒に食事したり、お店手伝ってもらったりしてたんだ」
そう語るショウの瞳はやさしかった。
「……でもさっき、ナナコさんは「時間からこぼれた」って……」
キョウコが話の核心に触れた。
ショウはただとつとつと、思い出しながら、苦しく言葉を絞った。