きっと彼らの未来は信じたところに
ぼくの、手の中に。ショウはつぶやいて、それから、机の上にあった懐中時計を見た。ホーロはいつか消える……でも……いなくなるわけではない……
「ロギウム…………」
ロギウムは照れくさそうに背を向ける。
「しゃべりすぎたな。そろそろ戻らねば」
ショウはその時ようやく、あっと気がついた。
「すみません、お客様におかまいもせずに。お茶かもやしでも」
「もやし!? 冗談だろう。ホーロのときに食い飽きておるわ」
ロギウムには珍しく、はっはと声を上げて笑う。それだけで、ショウはなにか、救われた気がした。
「でしょうね」
ショウも半笑いで答える。
それから、ロギウムは、「そうそう」と思い出したように言った。
「あの女子を大切にしてやれ」
「女子? ああ、キョウコちゃんですか?」
「オンリーもやしであれだけの労働力は貴重だぞ」
「はい」
ロギウムの身体がすこし薄くなる。時間切れか、と、ショウはなんとなく思った。
「では、な」
「また――逢えますか」
どこか懇願するようなショウの言葉に、ロギウムはあくまでシビアに答えた。
「さあ」
その言葉の直後、時計の針が合う音がして――
次にしたのは、キョウコの声だった。
「わ」
一瞬、ショウは驚く。キョウコとホーロが連れ立って、そこに立っていた。
「――――おかえり」
ショウの向けた笑顔に、ふたりも、顔を見合わせて笑顔になった。
「ただいま」
「ただいまです。あの、……」
なにかを話そうとしたキョウコの視線に、ショウは自らの視線を合わせて言う。
「作業、ひと休みしようかな。ナナコに逢えた? すこし、話、聞かせてくれる?」
「はい!」
ホーロはショウのエプロンをくんくんと引っ張った。
「ショウはロギウムと、なに、話したの?」
ショウはホーロの鼻先をちょんとつついて、やさしい目をした。
「お茶でも飲みながら話すよ」
「ショウ……なんだか、すっきりしてる?」
「まあね。ぼくは、いつかナナコと逢える未来のために、走ってくつもりだよ」
時間は進んでいくだけだものね、と、ショウはそう言って笑った。
ロギウムとの会話の中でなにがあったのだろう。ホーロはちょこんと首をかしげると、でも、ショウが元気になったようで、よかった、という気持ちで、リビングへ向かうショウを追った。
「ホーロ、キョウコちゃん、これからも、手伝ってくれる?」
「もっちろん! わたしはとりあえず、お手伝いしまーす」
「ショウ、キョウコのバイト代、どうするの?」
「とりあえず……もやしベーコンをもやし牛バラ肉にレベルアップでどうだろうか」
「まだオンリーまかない? あいそつかされても知らないよ!」
「いいのいいの、お店で勉強さえさせてもらえたら! あ、あと、わたしのこと、もう呼び捨てでいいですよー」
「そっ……それはもうちょっと時間をくれないかなあ」
「なに照れてんのショウ」
「照れてないよ!」
店の隅にそっと現れたナナコが、わいわいとリビングに消える三人を、兄譲りのやさしい瞳で見つめていた。
誰もが、流れる時間の先に待つ未来を、信じている。
――了――