閑話 がれいと・びんとなーず
今から二十五年前──
見習い料理人であるガレイト・ヴィントナーズがまだ、十の頃。
彼はその頃から、国を守護する騎士であった。
しかし〝騎士〟といえば、国家から授かる称号であり、貴族の証であり、とても十歳の若さで叙勲出来るほどのものではないのだが──
今回は、そんなガレイトについての話である。
◆
ガレイトに両親はいない。
彼が、物心がつくまえに亡くなっていたからだ。
戦死したのだと、彼を引き取った孤児院の職員より聞かされていた。
戦死。
名誉ある死とは謳っているものの、孤児院にいるような子どもや、周りがそれを理解できるはずもなく、そのせいもあって、幼少期のガレイトは常に荒れていた。
窃盗や傷害などは日常茶飯事。
孤児院はいつも、そんなガレイトの後始末に追われていた。
やがて、孤児院の手に負えなくなってきた頃、彼についた仇名は悪童。
当時のガレイトは、現在の彼からは想像が出来ないほどの、悪餓鬼であった。
しかし、そんな彼に目をつけたのが、ヴィルヘルム皇帝である(現国王とは別人)。
皇帝はその日、ガレイトのいる孤児院へ慰問に来ていた。
年に一度、皇帝自らが足を運ぶ、帝都内にある福祉施設の慰問会。
施設の職員たちは何事もなく、この日が過ぎるよう願ったが──結局、そうなることはなかった。
悪童ガレイトは皇帝への傷害未遂で、捕縛されてしまったのだ。
いかなる理由であろうと、皇帝に刃を向けることは悪であり、たとえそれが十歳に満たない子どもであろうとも、極刑は免れない。
しかし皇帝は、そんなガレイトを赦免したばかりか、その気概を買い、騎士養成学校へ強引に編入させた。
そして、そんなガレイトの担当をしたのが、ヴィルヘルム・ナイツ団長エルロンドであった。
エルロンドはまず、その有り余る力の矛先を矯正させた。
暴力から友愛へ。
窃盗から博愛へ。
かなりの時間と労力がかかったものの、その熱意が伝わったのか、徐々にガレイトの心を変えていった。
エルロンドもそんなガレイトに、自身が持ちうる技術や経験を、惜しみなく注いでいった。
その頃には、悪童であったガレイトはすっかりナリを潜め、ひとりの、大人をも凌駕する戦士へと変貌を遂げていた。
そして、そんなガレイトを、騎士へと押し上げる出来事が起きる。
政権転覆である。
当時、穏健派であった皇帝にとって代わるべく、反政府勢力が、皇帝暗殺を企てている、との噂が流れた。
帝国内部もその情報は掴んでいたが、尻尾を掴むまでには至っていなかった。
しかし、それもそのはず、その反政府勢力のトップこそが、内務卿であるフロリアン伯であったのだ。
しかし、たまたま、その事件の近いところにいたガレイトがこれを見事、制圧。
こうしてガレイトは、十歳という異例な若さで、騎士を叙される運びとなった。
余談だが、当時のヴィルヘルム皇帝およびその上層部が本当に、その首謀者に気づいていなかったのか、について知る者はいない。




