表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/147

元最強騎士と虎ウマ


 ギィ……! ギィ……!

 ガァ! ガァ!

 ホー……ホー……ホー……。

 未だ、獣たちの唸り声が鳴り止まない夜の密林。

 そこに、ゆらゆらと揺らめく焚火がひとつ、場違いだと言わんばかりに、時折り火の粉を飛ばしていた。

 その傍らにはガレイトとサキガケ、そして未だ目覚めていない少年の姿があった。

 少年はスー……スー……と寝息を立てており、裂傷部には白い布があてがわれていた。

 一安心したのか、ガレイトとサキガケは、その少年から、すこし離れたところで息絶えている、ルビィタイガーを見た。



「……がれいと殿、その(るびぃたいがぁ)は食べないのでござるか?」


「いえ、その……なんというか……」


「虎も虎で、特に悪い事はしておらぬでござるからな。強いて言うなら、我々がこの虎の縄張りに勝手に入り、それを荒らしただけに過ぎぬ」


「はい。そうですね……」


「然らば、ここは料理人であるがれいと殿が、美味しく調理して供養してやるのが筋……ではなかろうか。それに──」



 そこまで言うと、サキガケは再び視線をルビィタイガーから、少年へと戻した。



「解毒し、一命を取り留めたとしても、るびぃたいがぁの毒に冒された者は、その血肉を糧とするのが、一番とされているでござるからな……」


「そう……ですね。そうだと思います……」


「……ニン? さっきからどうしたでござるか、がれいと殿。覇気がないというか、なんというか……また腹でも下したでござる?」


「いえ、腹は……その……これから下すというか……」


「いや、どういう意味でござるか」



 ガレイトは思い出したように顔をあげると、サキガケの顔を見た。



「あの、ちなみになんですが、サキガケさんはその……料理が出来たりとかは……?」


「ニン? 料理? ……あっはっは」



 サキガケは楽しそうに笑うと、パタパタと手を横に振った。



「無理無理。拙者はお湯を沸かして、卵を割って、お湯を注いで三分待つ。……くらいしか出来ぬでござるよ」


「なんですか、それは……」


「あとは食べられそうな草や花に、味噌や醤油をつけて食べるくらいで……」


「でも、卵は……割れるんですね……」


「いや、さすがに卵は割れるでござるよ。片手で」


「か、片手で!? す、すごい……!!」



 ガレイトが尊敬するような眼差しで、サキガケの顔を見える。



「そ、そんなに驚く事ではないと思うのでござるが……」


「いえ、俺はまだ、その領域まで達していませんから」


領域(・・)って……たしかに、がれいと殿の馬鹿ぢ……凄まじいぱぅわぁ(・・・・)を持っていれば、逆に難しく感じる……かもしれぬでござるな」


「はい。力加減がいまいちで……たまに爆発したり……」


「ば、爆発……!? 卵って、爆発するのでござる?」


「します」


「そんなまっすぐ目を見て言われても……」


「そうだ。試しに、サキガケさんがルビィタイガーを調理してみます? 卵も片手で割れますし」


「いやいや、卵関係あらへんがな。……というか、現役料理人である、がれいと殿の前で、『料理が出来る』と胸を張って言うほど、拙者も思い上がってはおらぬからな」


「そんなことはないと思いますが……はぁ……」



 ガレイトはルビィタイガーの近くまで行くと、片方の前足──その爪の部分を、生気のない目で、まじまじと見つめた。



「……がれいと殿、本当にどうしてしまったでござる?」


「じつは、この虎、俺にとってのトラウマでして」


とら(・・)うま……ふむ、なるほど。拙者、ここで笑えばいいのでござろうか」


「いえ、その、洒落で言っているわけではなくて……」


「……えっ? じゃあ、マジでトラウマになってるでござるか? その虎が?」


「はい」


「まあ、たしかに。素早い動きで敵を翻弄し、爪の猛毒で敵を仕留める……ということで、Eレベルとはいえ、危険指定魔物に登録されているでござるからな。しかし……」



 サキガケはそこまで言うと、人差し指の腹で眉間を押し、唸った。



「……がれいと殿が、この程度の魔物に苦戦したとは考えにくい。というか、さっきは問答無用で仕留めていたし……あっ、もしかして、子どもの頃に痛い目に遭ったとか……でござる?」


「はい。……ああ、子ども頃、というよりも、以前(・・)ですね。一度、こいつには痛い目に遭わされていて……」


「なるほど。そうでござったか。……あの、よければ……?」


「そうですね。最初から話しておいたほうがよかったですね。……あれは、俺がまだ騎士だった頃──」



 こうしてガレイトは、以前ルビィタイガーの手を生のまま食べた事。

 そしてその後、腹を下し、ダグザに助けられた事までを簡潔に、サキガケに話した。





「──ふむふむ。大体わかったでござる。つまり、虎はもう食いたくないと」


「なんか、色々と端折りすぎな気もしますが……そうですね、概ね、そういう感じです」


「でも、まあ、いまなら大丈夫でござろう」


「……へ?」


「それが何年前かは存じ上げないでござるが、だぐざ殿とお会いした時といえば、がれいと殿はまだ、料理について何も知らない時期……」


「はい」


「そんな時に、毒のある虎の手を食べてしまったのも、仕方がないと言えば、仕方がないでござる。今と違い(・・・・)その知識がなかった(・・・・・・・・・)のでござるから」


「はい。……はい?」


「けれども、今のがれいと殿なら──料理人として、日々研鑽してきた、今のがれいと殿なら、あの頃の自分に打ち勝てるのでは?」


「そ、それはちょっと……」


「らしくない」


「え?」


「らしくないでござるよ、がれいと殿」


「えぇ……」


「たしかに。最初にぶち当たってしまった壁というのは、実物よりも遥かに大きく見えてしまうもの。萎縮して、怖がってしまうのもわかるでござる。──が、それでは、いつまで経っても成長せんでござる。ここはいっちょ、開き直って、ぶつかってみるでござるよ、このとら(・・)うまと」


「で、ですが……さきほどので解毒薬を使ってしまいましたし、もし、失敗してしまったら──」


「不退転」


「え?」


「不退転の気持ちでやるでござる」


「えぇ……」


「始まる前から失敗することばかり考えていたら、何も出来ぬでござるからな」


「それは……そうですが……」


「しかし、かといって、(とらうま)を調理し、自らの体に取り込むというのも、酷な話……」



 サキガケは再び、人差し指の腹で眉間を抑えると──ピンと、その指を立てた。



「ならここは、拙者が協力するでござるよ!」


「協力……サキガケさんが、ですか?」


「ニン。毒の種類は星の数あれど、拙者、〝るびぃたいがぁ〟の毒に至っては耐性を持っているでござる。……たぶん」


「耐性……ですか?」


「ニン。……まぁ、それでも当たれば、かなりの痛みを長時間伴うでござろうが……それでも、死なないだけマシでござる」


「それはどうかと思いますが……」


「いいや、ここまでがれいと殿を煽ったのでござる。ここで何もしないというのは、さすがにムシが良すぎるでござる」


「あの……本当によろしいのですか? 俺の料理を食べるということは、その──」


「ニン。……拙者の覚悟も決まっているでござる。今までに虎肉を食したことはないでござるが、あのぶりぎっと殿の右腕ともなれば、問題ないでござろう!」


「いえ、俺なんかがブリギットさんの右腕を名乗るのはちょっと……」


「──いざ、いざいざ、尋常に!」



 サキガケがそう言って立ち上がる。

 それを受けて、ガレイトもようやく腹を決めたのか、ゆっくり立ち上がった。



「わかりました。不肖ガレイト──精一杯、作らせてもらいます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ