表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/147

元最強騎士と、ルーツが気になるブリギット


「すみませんでした……」



 ロロネー海賊団全員が、声を揃えて謝罪する。

 そこには、船長のソニアをはじめ、海賊団全員が船の上で手足を縛られ、正座させられていた。

 決闘はガレイトの圧勝。

 ソニアは結局、お得意のだまし討ちや策を使うことは出来なかった(・・・・・・)

 というのも、開始の合図とともに、ガレイトが一瞬のうちに肩や脚の関節を外したからであった。

 まさに神速。

 ソニアが縄でがんじがらめにされるまで、海賊団全員はその場で口を開けて、ぽかんとしていた。



「……結局、奇襲やら謀略やらと、何をしたかったんでござろうか……」



 サキガケが、すでに意気消沈したソニアを見ながら呟いた。



「さて、どうしますかガレイトさん。このまま海へ沈めますか?」



 イルザードの提案に、ロロネー海賊団の面々が怯えたような表情を浮かべる。



「いや、それよりも気になることがある……」



 ガレイトはそう言うと、ソニアの前まで歩いて行き、見下(みくだ)すように見下(みお)ろした。



「貴様、〝同胞〟と口にしていたな。この船に貴様らの仲間がいるのか?」



 低い声でソニアに詰問するガレイト。

 その瞳はひどく(くら)く、その場にいたソニア以外の団員たちは、完全に怯え切っていた。



「ハッ、なにをいまさら……さっきあんた、部下の男に命じて、船内へ連れてっただろ?」



 それを受け、いち早くブリギットに思い至ったイルザードが口を開く。



「部下……だと……? ブリギット殿が、おまえたちの同胞なわけが──」



 ガレイトがイルザードの言葉を遮る。



「なぜ、あの子を同胞だと思った……?」


「なぜって、エルフは全員あたいらの同胞だからさ。同胞を助けるのに理由なんざいらないだろ?」


「なるほどな……」


「ガレイトさん?」



 ひとり、納得したように目を瞑るガレイトを、イルザードが見上げる。




「まだしらばっくれる気かい? ……あんたらどうせ、あのエルフの子を売りに行くつもりなんだろ?」



 ガレイトは何も答えず、押し黙った。



「ま、エルフってだけで人間の馬鹿どもは高く買うからね。……あたいはね、そんな同胞たちを、あんたらみたいな外道から助けて、こうやってまとめ上げてんのさ!」



 ソニアの言葉を聞いて、勇気が戻って来たのか、団員たちが皆、一様にガレイトを睨みつける。



「……だが、おまえはダークエルフだろう? エルフとダークエルフの仲は悪かったと聞いているが……?」


「ダークエルフぅ? ……アッハッハッハ!」



 ロロネー海賊団全員が、一気に笑い出す。



「こりゃ傑作だ。あんたにはあたいらがダークエルフに見えるってのかい」


「だが、その肌は……」


「これは日焼けだよ。長い時間、海の上にいるんだから、黒くもなるさ」


「……ふむ」



 ガレイトはおもむろに、ソニアに手を伸ばすと、縄をほどき、外していた関節を器用にくっつけた。



「あ、あんた……なにを……?」



 ソニアの目に、一瞬驚きと恐怖の色が混ざり合う。



「……イルザード、ここにいる海賊たちを全員解放しろ」



 ガレイトがそう宣言すると、船上にいたロロネー海賊団や、他の乗員乗客、イルザードとサキガケまでもが、驚きの声をあげた。



「え? ですが──」


「問題ない。……いまの問答で、おおよその状況を理解した」



 ◇



「──ハーフエルフぅ!?」



 ロロネー海賊団全員が、物珍しそうにブリギットをじろじろと見る。

 ブリギットはその視線に耐え切れなくなったのか、恥ずかしそうに、ガレイトの体の陰に隠れた。



「たはー! いやあ、わるいわるい!」



 ソニアが悪びれるようにバンダナ上から頭を掻く。



「てっきりエルフ攫いの連中かと思ったよ。見張りが、航行中の船の先端にエルフの子が見えたっていうもんだからさ、もしかしたら攫われて、逃げようとしてるんじゃないかって。それで、慌てて船を出したんだけど……」


「それはない。……それより、俺もおまえたちの船を沈めたりして悪かった」


「あー……たしかに船を沈められたのは痛いけど、早とちりしたこっちが悪いからね。そういえばあんたら、どこへ行くんだい?」


「俺たちは、この子と一緒にヴィルヘルムに行くところなんだ」


「へぇ、ヴィルヘルムにね。帝国領に何の用が……ん?」



 何かに気が付いたのか、ソニアがじろじろとガレイトの顔を見る。



「ヴィルヘルムのガレイト……っていやぁ、もしかしてあんた、ヴィルヘルム・ナイツ元団長のガレイトかい!?」


「……俺を知っているのか」



 観念したのか、とぼけても無駄だと悟ったのか、ガレイトは素直にそれを認めた。

 それを聞いたソニアも、ロロネー海賊団の面々も、目を見開いて驚いた。



「知ってるも何も、有名人だしね。しかしまあ、そりゃバカ強いわけだ。あたいらなんかじゃ、束になっても敵いっこないよ。……殺されなかっただけ、ありがたく思わないとね」



 ソニアはひとしきり感心した後、改めてブリギットを見た。



「嬢ちゃん、ヴィルヘルムには何しに行くんだい?」


「しゃ、社会……勉強……です……」



 ソニアに尋ねられたブリギットは、遠慮がちに答えた。



「なるほど。人間の社会の勉強……か。ハーフエルフだから、そういう考えもあるんだろうねぇ……」


「そういえば、ハーフエルフとはそんなに珍しいものなのか?」



 二人のやり取りを見ていたガレイトが疑問を口にする。



「そりゃそうさ。エルフは強くて美しい者に惹かれる生き物だ。あたいらよりも貧弱で、ずる賢くて、寿命の短い人間なんかに、惚れる道理がないだろ」


「そういうものか……」


「……だから、嬢ちゃんのお父さんかお母さん、どっちがエルフかは知らないけど、よっぽど魅力的な人間(・・)だったんだろうね……」



 うんうんと、頷くロロネー海賊団の面々。



「でもね、ただ昔……ちょびっとだけ、どこかで聞いたことがあったような……」


「聞いた? 何をだ?」


「いや、エルフと人間が恋に落ちた、とかなんとか……そういう話だよ。まあ、ここよりもずっと遠い所の話だから、嬢ちゃんとは関係ないと思うけど」


「そんなことが……」



 人知れず、ひとり小さく呟くブリギット。



「──けどね、おにいさんは違うよ?」


「俺? 俺がどうしたんだ?」


「言ったろ? エルフは強く、美しい者を好むって」


「む」



 それを聞いたイルザードが眉を吊り上げて、頬を膨らませる。



「おにいさんはその点、満点も満点さ。……どうだい? その子の社会勉強が終わったら、あたいらロロネー海賊団の情夫にならないかい?」



 ソニアをはじめ、ロロネー海賊団全員がガレイトに熱い視線を送る。

 そのあまりの熱量に、ガレイトも思わず、その場で後ずさった。

 近くでその話を聞いていたサキガケも、〝情夫〟という単語を聞いて、これ以上ないほどに顔を赤くさせている。



「い、いや、俺は──」


「ガレイトさんは私のものだ。いまさら外野に渡すわけがないだろう」



 イルザードはそう言うと、ガレイトの腕にひしっと抱き着いた。



「お、おい、イルザード……!」


「ふふ、予約済みってわけか。……なら、おにいさん、その人間の女に飽きたらここへ来な。あたいらが丁寧におにいさんを躾けてあげるからね」


「し、しつけ……ッ!?」



 ゴクリ。

 少女のようであり、女性然ともしている蠱惑的なソニアの視線に、思わず生唾を飲み込むガレイト。

 腕にしがみついているイルザードの機嫌は、さらに悪くなっていく。



「──ま、とりあえず、あたいらの勘違いで迷惑かけたのは事実だ。今は何も返してやることは出来ないが、またここを寄ることがあったら、いつでも来な。足代わりにはなってやるよ」


「その前に、このくだらん海賊行為を止めろ」



 イルザードがそう言うと、ソニアは静かな口調ではっきりと言った。



「止めないよ」


「なんだと……?」


「今、この瞬間も、何も知らない同胞が、あんたら人間に利用されてるかもしれないんだ。あたいの目が黒いうちは、そういうのは全部助ける。少なくとも、グランティ領近海(ここ)ではね」



 それを聞いたイルザードは、それ以上何も言わなくなった。



「……それに、最近は何かと、海を汚す輩が増えてきてるし」


「海を汚す……?」


「ま、あんたたちには関係ないだろうさ。ともかく、あたいらが海賊をやめる気はないんでね」


「まぁ……おまえたちの考えはわかった」



 ガレイトが、イルザードの手を振りほどきながら言う。



「だが、少なくとも、略奪するのは止めてくれ。そのせいで流通が滞って迷惑を被る人たちもいるんだ」


「へへ、おにいさんが、あたいらの情夫になったら考えてやるよ! ──いくよ、あんたたち!」



 ソニアの合図を受けて、海賊団全員が海へと飛び込んでいった。



「お、おい……!」



 ガレイトが急いで船の縁へ移動する。



「冗談だよ! おにいさんに免じて、略奪は……当分はしない」


「……おい」


「そんじゃ、ハーフエルフの嬢ちゃんに、元騎士団長のおにいさん、機会があればまた会おう!」


「いや、おまえたち、船は──」


「へーきへーき、あたいらは海賊だ! アジトまで泳いで帰るさ!」



 ソニアはそう言うと、そのまま海賊団全員を引き連れ、来た道を泳いで引き返していった。



「エルフ……かぁ……」



 ソニアたちを見送っていたブリギットが、小さく呟く。



「気になりますか? ブリギットさん」


「……うん、ちょっとだけ……」


「……失礼ですが、ブリギットさんはご自身の両親については……」


「ううん。よくわかんないの……おじいちゃんからは、死んだって聞いただけ……」


「そうでしたか……」


「でも、モニモニなら何か知ってそう……」


「そうなんですか?」


「うん、でも、訊くのはちょっと……」


「なるほど。……では、帰ったら一緒に、モニカさんに訊きましょうか」


「うん……!」



 ガレイトがそう言うと、ブリギットは嬉しそうに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ