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見習い料理人と猪王の死闘


「指定危険魔物〝B(びぃ)〟は波浪輪悪(はろうわあく)でも滅多に討伐依頼が来ないものなのでござる」


「そうなんですか?」


「ニン。例えば、地方にその魔物が現れたら、そこの職員は速やかに波浪輪悪本部へ通達し、討伐隊の編成を要請しなければならないのでござる。そこまでの階級の魔物となると、地方の、それもイチ冒険者たちの手に余るでござるからな」


「なるほど」


「そして、その討伐隊も、ただの冒険者では無駄に命を散らしてしまう為、立候補ではなく、指名制となっているのでござる。さらに指名される冒険者はどれも歴戦のつわもの。その中でも、報告書にある対象の魔物の特性や、能力に合わせて見繕われる精鋭集団なのでござる。よって、さきほど話した報告書は迅速に、かつ正確に書かなければならないのでござる」


「ふむふむ」


「でも、そうやって編成された討伐隊でも危険度〝B(びぃ)〟を倒せるかはわからないのでござる。過去にも何件か討伐依頼があったのでござるが、完全勝利……つまり、誰も傷を負わず、誰も亡くならずに達成された依頼は、数えるほどしかないのでござるよ」


「そうなんですね……」


「たしかにがれいと殿は、危険度〝A(えい)〟の〝どらごん・もひぃと〟を討伐した。……という実績はあるのでござる。しかし、おそらくそれは色々な要因がうまく噛み合って、ようやっと倒せた相手でござろう?」


「そうですね。……たしかにあれは強敵でした」


「ござろう? だから……がれいと殿」


「……はい」


「あの猪王(きんぐぼあ)が、〝B(びぃ)〟の魔物がどれほど危険な魔物なのか、わかったでござるか?」


「はい。十分、伝わりました」


「なので──」



 ちらり。

 サキガケはガレイトの後ろ。

 そこには、縦真っ二つに両断された猪王の屍が横たわっていた。



「なので、これからはもうすこしだけ、警戒するでござるよ。……頼むから」


「ごめんなさい」



 ガレイトはそう言うと、手に持っていた包丁の血を拭い、懐にしまった。



「──しっかし……さっすが、ガレイトさんだなあ!」



 すこし離れたところで待機していた、マンダリンとオレンジがガレイトに近づく。

 なぜか二人の頭髪は、まるで爆発した後のようにチリチリに焼けちぢれていた。



「まっさか……あのおっきなイノシシを、スパァッと切っちまうんだからなあ! ミカンみてに!」


「ありがとうございます。……ですが、すみません、俺が油断したばっかりに、おふたりの頭をそんな風に……」


「いや、そもそもなんでそうなんねん……」



 サキガケが小さくツッコむ。



「仕方ねだ。イノシシに襲われて、気が付いたらオイラも父ちゃんもこうなってて……」


「いやいや……」



 サキガケは腰に手をあて、俯きながら首を横に振っている。



「それと──今回のこと、誠に申し訳ありませんでした……!」



 ガレイトはそう言って頭を下げる。



「な、なんだよお、ガレイトさん。一体何について謝ってるだ?」


「その、依頼まで出していただいたのに、ここまで畑を荒らされるなんて……痛恨の極みです。面目次第もない……!」


「な、なぁんだ。そんなことかあ。……気にしないでよ」


「ですが──」


「どのみち、ガレイトさんが来てくれなかったら、今度こそ全滅してたからな。そうだろ? サキガケさん?」


「そ、そうでござるな……あの蜜柑の木の食べっぷりを見るに、食欲は無尽蔵。もし気づいていなければ、畑は全滅していたかと……」


「だろう? ……まぁ、たしかに結構やられはしちまったが、まだ完全に再起不能ってわけじゃねしよ。……んだから、気にしないでよ。こっちはこっちで、助かったって思ってるだ」


「そう言っていただけるのはありがたいのですが……」



 こそこそこそ。

 マンダリンがオレンジに耳打ちをする。



「ふむふむ……ほうほう……え? そりゃ無茶だろう、父ちゃん……」


「あの……オレンジさん、マンダリンさんはなんと?」


「えーっと、それじゃあ今回の依頼料と成功報酬、ガレイトさんの口利きでタダにはしてくれねえかって」


「え?」


「な、なんという現実主義……」



 サキガケが呆れたように、感心したように呟く。



「す、すみません、マンダリンさん。そこは俺にはどうしようもないんです」



 ガレイトにそう言われ、しかめっ面のまま肩を落とすマンダリン。



「……今回の依頼は、陛下が受けた依頼を、さらに俺に押し付けたような形ですので、公式には、依頼を達成したのは俺ではなく、陛下ということになるのです」



 こそこそこそ。

 マンダリンがオレンジに耳打ちをする。



「マンドリンさんはなんと……?」


「冗談だってよ」


「じょ、冗談……ですか」


「いや、あれはたぶん本気だったと思うでござるよ……」


「……あとなんか、父ちゃんが帝国の闇を見た気がするって」


「……それに、そもそもの話、今の俺にはそこまで発言権はありませんしね」


「そうだか……そっちはそっちで、なんか色々とややこしそうだなぁ……ガレイトさん、なんか、父ちゃんが変な冗談言って、すまねな」



 オレンジとマンダリンが頭を下げる。



「いえ、マンダリンさんのお気持ちもわかります。ですので、いちおう陛下のほうにも進言しておきますので……」


「……いやいや、いいんだよ。父ちゃんも本気で言ってねと思うし! それよりも──」



 オレンジが視線をガレイトから、猪王の死体へ移す。



「あれ、どうすんだ?」


「ああ、えっと……もしよろしければ、譲っていただけませんか?」


「え? べつに構わねえけど……いいよな、父ちゃん?」



 コクコク。

 マンダリンがうなずく。



「ああ、父ちゃんもいいって言ってるし、オイラも構わね。さすがにオイラたちだけじゃあの量、持て余しちまうからな……ちなみに、何に使うつもりだ?」


「ええ、あれは人数分の肉を切り分けて、後日、料理として使うつもりです」


「へえ、料理に? まぁ、それくらいしか活用法はなさそうだし……とはいえ、なに作んだ?」


「いえ、それはまだ決めかねていまして……どうやって調理すればいいかについては、いまも考えていて……」


「おお、そういえばガレイトさん、いま料理人やってんだったよな?」


「はい。見習いではありますが……」


「てっきりブリギットさんが調理すると思ってたが、ガレイトさんがあのイノシシを料理すんのかぁ……そういえば、なんでガレイトさんが依頼を受けたのか、まだ聞いてなかったよな?」


「あれ? そういえばそう……でしたか……?」


「よかったら聞かせてくれねか?」


「ええ、構いません。じつは今回の依頼は──」



 ガレイトはマンダリンとオレンジの二人に、今回の依頼を受けた経緯。

 それと、自分が現在置かれている状況を簡潔に説明した。



「──と、いうことなんです」


「なるほどなぁ。あの二人が納得する料理を……ねぇ」


「はい。陛下もアクアも舌は肥えていると思うので……果たして、俺の作る料理で満足できるか……」



 こそこそこそ。

 マンダリンがオレンジに耳打ちをする。



「ふむふむ……ほうほう、なるほど……」


「……まだこのくだり続けるのでござる?」



 サキガケが静かにツッコむと、マンダリンは頬を赤らめた。



「あ……なんかごめんでござる」


「……それでオレンジさん、マンダリンさんはなんと?」


「ああ、ガレイトさん。父ちゃんが言ってたんだけどさ、オイラたちも、その料理の試食会……? に、呼んでほしいってよ」


「……はい?」


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