表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/147

閑話 市場で買い物


 グロースアルティヒを出て、エルロンドと別れた、夕暮れの市場。



「うわあ……! うわあ……!」



 そこに、目を輝かせながら食材を見て回るブリギットと麻袋をかぶったガレイトがいた。

 二人の目的は食材の買い出し。

 騒ぎが大きくなってしまった事もあり、一行は結局、自分たちで料理を作ることにしていた。

 残りの三人は、サキガケのこともあり、先に寮へ戻り夕食の準備をしている。



「すごい、すごいですよ、ガレ……マヨネーズ(・・・・・)さん! 見てください!」



 ブリギットが興奮した様子で、露店の軒先に並んでいるリンゴを手に取った。



売ってる(・・・・)!」


「え、ええ……売って……ますね。たしかに。はい」



 ガレイトが小さくうなずいた。



「すごーい……! 売ってるよー……食べられる物が……!」



 ブリギットは相変わらず、手にしているリンゴを、目を輝かせながら見ている。



「そのリンゴ、気に入ったのかい、お嬢ちゃん」



 そこの店番をしていた、中年の、人のよさそうな男がブリギットに話しかける。



「あっ、ご、ごめんなさい……勝手に触っちゃって……!」


「いやいや、いいんだよ。そのまま持ってってくれて構わない」


「え……そ、そんな……!」


「なあに、どうせ売れ残りだからね」


「そ、そうなんですか……? こんなに綺麗なのに……」


「ほう、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。……それに、そのリンゴも、お嬢さんに食べてもらったほうが喜ぶだろうさ」


「でも……」


「ブリギットさん、せっかくのご厚意ですから……」



 ヌッと、ブリギットの背後からガレイトが現れる。

 それを見た男は、一瞬だけビクッと体を震わせた。



「本当にいいんですか……?」


「ええ、お店の方もこう言っていますし……」


「じゃ、じゃあ……」



 ぺこり。

 ブリギットが深く頭を下げる。



「ありがとうございます……おじさん!」


「お、おおおおおうさ! いいいいいいってことよ!」


「……ああ、それと、すこしよろしいですか?」



 ガレイトが男に話しかける。



「ななな、なんだい? 果物はもう……」


「いえ、ここに残っている野菜を全て……」


「ええ!? だだだだ、ダメダメ!」


「え?」


「ダメだよ! それは! さすがにそんなにあげられないよ……!」


「ああ、いえ、夕飯に使うので、買い取らせていただきたいと」


「……へ?」



 ◇



「あんがとな! 麻袋のにいちゃん! またいつでも来てくんな!」



 両手いっぱいの紙袋を抱えたガレイトを、男が満面の笑みで見送る。



「すごいね……! いっぱい食べられるもの買えたね、ガレイトさん!」



 ガレイトの隣。

 リンゴの入った紙袋を抱えながら、ブリギットが言う。

 ガレイトはすこし俯きながら──


「……くっ、せめてヴィルヘルムにいる間は、美味しいものをいっぱい食べさせてあげなくては……」


 と、呟いた。



「……ガレイトさん?」


「ああ、いえ……ええ、たくさんオマケもしていただきましたね。あとは……やはり、肉ですか」


「お、お肉も……買っていいの?」


「ええ、たくさん買いましょう。ブリギットさんが食べたいものなら何でも。皆も腹を空かせて待っていると思いますし」


「えへへ、ありがと、ガレイトさん」



 ガレイトとブリギット。

 二人は軽い足取りのまま、市場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ