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連載戯曲 梅さん  作者: 大橋むつお
4/11

④びっくりした!

連載戯曲『梅さん④びっくりした!』     


※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は⑪の最後に記しておきます



時 ある年の初春


所 水野家と、その周辺


人物 母(水野美智子 渚の母)

   渚(卒業間近の短大生)

   梅(貸衣裳屋、実は……)

   福田ふく(梅の友人、実は……)水野美智子と二役可





渚: やしゃご?

梅: 孫の孫……その梅をくれた源七はわたしの孫よ。

渚: ……って、源七じいちゃんのおばあちゃん!?

梅: 知らなかったでしょ、四代前に梅って若死にした娘がいたことなんか。

 女学校卒業と同時にお見合い、そして二月ちょっとで結婚。一年後に雪が生まれて……

渚: 知ってる。雪ってひいばあちゃんの名前、あたしが三歳の時まで生きてたんだ。

梅: 雪は難産でねえ……色の白い、それはそれは可愛い赤ちゃんだった。

 でも産後の肥立ちが悪くて、わたし産後三月で死んじゃったんだ……

 亭主はすぐ後添え、再婚しちゃったから、早かった早かった忘れられちゃうのが……

渚: ねえねえ、だったらひいひい婆ちゃん……

梅: ひいひい婆ちゃんてのはよしてくれる。わたし、渚と変わらない年齢で死んじゃったんだから。

渚: じゃあ、なんて呼んだら?

梅: 名前でいいわよ。

渚: ウメちゃん。

梅: ん……梅さんくらいにしとこう。

渚: じゃ、梅さん。お願い! 助けて! そのピストルみたいなので撃たれて消されたり、初期化とかされんのは……

梅: 渚さん、ほんとうに人の話聞いてないわね。

渚: え?

梅: あなたは特別にこの懐剣で……

渚: 痛いよそんなの、あたし痛いのダメなの。今でも自分の腕に注射されんの見れない人なんだから。

 ね、だから……

梅: 話をお聞きなさい!

渚: はい……

梅: これは、あなたの魂と身体を切り離すために使うの。こんなふうに

 (渚の目の前で懐剣を一振りする。ぐにゃりとくずおれる渚。梅、切り離された魂に向かって話しかける)

 ね、痛くもなんともないでしょ……まあ、そんなに怒らないで。今のは実験、すぐにもどしてあげるから。

(目に見えない魂と、体の端を結びつける)

渚: ……ああ、びっくりした! 

梅: わかった?

渚: わかんないよ、切れちゃった心と体はどうなるのよ?!

梅: 心は初期化する。

渚: え、あたしがあたしでなくなっちゃって、どこかで生まれなおすわけ?

梅: そう、そして体はわたしがあずかる。

渚: あずかる?

梅: わたしが明日から、良い子の渚になって一生懸命生きてあげるから安心して。

渚: それはどうもありがとう……って安心なんかできないよ! だって、あたしの体だよ! 

 お願い、明日っからいい子で生きていくから。

梅: その歳じゃ矯正のしようがないのよ。元締めの最終チェックも済んだし。

渚: そこをなんとか……お願いお願い、お願ーい!

梅: ……何をどう言えばいいんだろう……渚さん。

渚: はい。

梅: たとえば、その親からもらった体を、いわば我々御先祖さまからもらった体を、

 いわばわれわれ御先祖さまから命とひきかえみたいにしてもらった体を、渚たちはどうしてんの? 

 髪はブリ-チと染髪の繰り返し、耳やらおへそに穴を開けるのはまだしも、不摂生な生活はもう限界。

 まともに生きても五十代で、シミとシワとうすら禿。

渚: ハゲ!?

梅: いじりすぎると、女でも禿になるのよ。体もガタきちゃってるし、六十代の半ばでくたばっちまう状態なんだよ。

 渚、もう五人と男性経験があるでしょ。

渚: え、あたしって、そっちの病気?

梅: さあね、……でも、わたしが渚になったら一番にお医者さんにいくわ。

渚: トホホ……

梅: だいたい渚、あんた人生に夢持ってないでしょ? 

 いいこと、これが一番の問題なんだよ。夢のもてない人間は、自分で自分の躾ができない……親の責任もあるけどね。

 人間は夢があるから、夢のために勉強し、勉強の中で自らを躾け、友達を増やし、大人になっていくんだよ。

 二十歳にもなったら、心の芯のところではわかってなくっちゃ……

渚: だって……



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