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第88話 終焉

〈side刹那〉


 浮ついた思考のままに僕は、能力で男に接近する。僕の出せるトップスピードだ。ただ、僕はこの男を殺すために本能のままに攻撃する。

 それは、また後ろのほうへと飛んで回避される。鎖を出現させ、男をとりおさえようとする。それも、男は瞬時に躱し、僕の周りにナイフが現れる。それらを鎖を使って絡めとり、締め付け砕く。

 再度、男に接近し鎖で逃げ場を封じる。男は、無理やりに鎖を吹き飛ばしてそこから抜け出る。


「⋯⋯これが限界か」


 男はそう呟き、ため息をつく。そんな態度に、僕は苛立ちを感じる。


「⋯⋯俺は、壊れたものを操れないわけじゃないぞ」


 一言、そう言った途端に砕け散ったナイフの破片が僕に飛来してくる。それらをすべて鎖ではじく。そして、僕が男に接近し、男の足のある場所を起点に鎖を出現させる。

 それは、男の足をわずかに貫いたがすぐにその傷は埋められる。


「傷をつけることはできるんだな」


 男はそう言っているが、そんなこと関係なく僕は男に接近する。そして僕は鎖を広範囲に出現させ、それを男にまとわりつかせる。それぞれの鎖で支えあって吹き飛ばすことは簡単ではない。目論見通り、男を鎖で包むことに成功する。そのまま、男に近づき攻撃を加えようとするが、それは吹き飛んでまた回避された。鎖ありでも能力は使えるらしい。


「これは⋯⋯」


 何やら、男が驚いたような反応をしているが、それは無視する。すぐに、別の鎖を作り出して、男を貫こうとする。しかし、それが男を貫く前に男に巻き付いた鎖が減少し始める。

 しかし、それで攻撃をやめる理由にはならない。出現させた鎖はそのまま男に向かって突き刺そうと飛んでいく。

 男は、上へと飛んでその鎖を躱そうとするが、それを追う形で鎖は伸びていく。そして、上空へと逃げる男とそれを追う鎖という状況が少し続き、鎖が何かに引っかかる感覚を覚える。

 それを無視して、僕はさらに鎖を伸ばす。そして、鎖が引き抜けるような感覚があった。伸びていた鎖は力を失い落下していく。僕の操作から離れたのだと不思議と理解できた。


「なるほど⋯⋯」


 男は今までの余裕な態度ではなく、どこか警戒心のこもった様子でそう呟く。そして、僕の周りに、無数のナイフが現れる。それらはすべて僕に向かって飛来してくる。

 それに僕は能力を使う。突然、周りにあったナイフは朽ち果て、粉となって消えた。ここまで細かくなれば、操ったところで僕の体をすり抜けてしまうだけだ。


「万物は朽ち果て無へ至る」


 自然とその言葉が口をついて出た。男は、何やら焦った様子で、僕の周りに何かを生み出すが、それは瞬時に灰となって朽ち果てる。これが『変化』の力なのだろう。存在するものを無へと近づける力。そういうものだと、理解できた。

 そして、僕はゆっくりと歩を進める。男は、未だに僕の周りに何かを生み出しているがそれは灰となって消え去る。そして、完全に、男へ接近しきることに成功する。空気を生み出して飛ぼうにもそれが即座に霧散してしまえば何もできない。僕は、男の手足を消し去る。

 そして、僕はナイフを握りしめる。それを、男の左胸へと突き立てる。ゆっくりと僕はそれを押し込んでいく。肉を断つ感覚がゆっくりと僕に伝わってくる。何か生暖かいものが心へと広がっていくように感じる。

 男が何か言っているような気もしたが、完全に意識の外だった。僕は、よく分からない余韻、のようなものに浸っていた。そして、ナイフを根元まで刺し終え、またゆっくりと引き抜いていく。

 血をぽたぽたと垂らしながら、ナイフの刀身が露になる。赤黒い血が地面に広がっていく。僕にはそれがひどくねっとりとしたものに感じた。

 完全にナイフを抜き取るころには、男は完全に息絶えていた。瞳には光がなく、舌をだらしなく垂れ下げていた。顔色も白くなっており、まさに生気を失ったというにふさわしい状態だと思う。

 特に、それを見て何か思うこともなかった。達成感と言ったものも感じなかった。こいつは僕が殺したんだという認識だけで感情が伴っていなかった。

 そして僕は小雪の首に目を向ける。いつもよりも光のない瞳だったが、そんながらんどうな瞳で僕を見つめているような気がした。僕はひどくいたたまれない気持ちになって、ナイフを置き、小雪の首をそっと抱きかかえた。

 そして、僕らが戦ったことで地面のむき出しになったこの部屋に穴をあける。首が一つ入るくらいの。

 その穴に小雪の首を埋める。そして、そこに僕はそっと手を合わせる。

 それが終わってから、僕はこの部屋を見渡す。今の静けさが嘘のように、戦闘によってぼろぼろとなった様子が表れていた。なんだか、それがむなしく感じる。

 僕は、先ほど置いたナイフを再度手に取る。あの男を突き刺したナイフは若干、刃こぼれのようなものをしているように見えたが、それを僕は両手で握りしめた。

 そして、僕は上を見上げた。戦闘の余波で天井が吹き飛んだことにより、星空が浮かんでいた。いつの間にか夜になっていたらしい。ナイフを両手で持ったまま掲げる。そして、僕はそっと首に突き刺すのだった。


宵・イ「なしで」

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