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第84話 最強と終焉

〈side小雪〉


 さて、ナイフを構えて私は女性へと向かっていく。女性はもちろんそれに対応しようとどこからか剣を取り出す。女性が振り回せるような軽い細身の剣だ。ミナさんのレイピアほどじゃない。なんとなく、その武器を消せる気がした。私はその剣に手を向け能力を発動させる。瞬間、それが存在する前まで戻る。

 結果、女性の手には何もなくなっていた。


「なっ!そんなことできなかったでしょ!」


 女性は、驚いた様子でそう叫ぶ。なるほど、一度記憶を覗かれたとはいえ、今の状態を把握はできていないのか。つまり、謎の強化を遂げた私の能力については全く分からない状態と。今までできなかったようなことによる不意打ちは通用すると。

 それに心を読む、といった芸当ができなくてよかった。心を読まれて先読みといった事態にならないのはありがたい。そんなことをされたら、手数で攻める以外に手がないし、時間がかかる。今更かもしれないけど、私は少しでも早くここから出たい。

 女性が動揺している隙に私は懐まで入り込む。当然、女性はそれに対応しようとするけど接近された相手への対処は容易ではない。私が振るったナイフは皮膚を切り裂く。辺りに血が飛び散る。


「⋯⋯くっ」


 傷口を押さえながら、女性は私から距離をとろうとする。すぐさま私は追撃する。はっきり言ってしまうと、この女性は弱い。明らかに戦闘経験がない。おそらく、この空間を生成する能力だけで戦ってきたのだろう。十分に強い能力だけど、結局心の持ちようで何とかなる。何度も殺されるとかすれば精神がやられるかもしれないけど、それだけだ。それくらいなら、時間がたてば何とかなる。

 さらに足を踏みだし、ナイフを振り上げる。『雪』の能力を使える状態まで『戻す』。そして、ナイフの刀身を延長させる。伸びた氷の刃は女性の腕を切り飛ばす。女性の腕は特に抵抗もなく切り裂けた。血を吹き出しながら腕が宙を舞う。


「⋯⋯そっちも使えるのっ!」


 女性は無理やりに私との距離を離す。ここで心臓を刺すことができたら楽だったんだけど⋯⋯。流石に、二度目の追撃は姿勢を崩す恐れもあったのでやめておく。


「簡単な仕事だと思ったんだけど、そううまくはいかないもんね」


 ため息を吐きながら、女性は言った。瞬間、切り飛ばした腕が生えてくる。私にもできることではあるけど、気持ちが悪い光景だ。

 そんなことを思ったものの、面倒になったことに変わりない。あの女性は腕を生やすことができるようだ。つまり、私が多少のダメージを与えても意味はないだろう。要するに一撃で仕留めるのがベスト。私と一緒の弱点だ。

 能力を発動させ、女性の後ろまで転移する。


「そのパターンは知ってるわよ」


 女性がそう言った途端、辺りから私に向かって棘が伸びてくる。身をひねってそれは躱しきるけど、流石にここから追撃は難しい。再度私は女性から距離をとる。

 にしても、こんな芸当までできるのか⋯⋯。これは空間そのものが女性の味方だと考えてもよさそう。

 すぐに私は、能力で転移し、再度女性へ攻撃を仕掛ける。当然、私に向かってどこからともなく棘が伸びてくるけど、わかっていればどうとでもなる。私を突き刺そうとする棘に能力を使い、伸びる前まで戻す。操れるのだとしても、過去は変えられない。


「⋯⋯もう!ずるくない?」


 女性はそう言って舌打ちをするけど、まあ、私も使えるものは使う。ずるくても、勝てるなら気にしない。

 そして、女性は私の攻撃を防ごうと、目の前に壁を生み出す。こっちもずるいでしょ⋯⋯。一瞬、そう思ったけどこれに対処する方法がないわけじゃない。私ならない頃に戻せばいいだけだし、彼なら無理やりにでも破壊できるだろう。

 しかし、ない頃に戻したところですぐに、別の壁を生み出すなりで防ぐことができるだろう。だったら、別の手段をとるまで。流石に、あの壁の奥で位置を変えているなんてことはないだろう。だから、私は女性のほうへと一歩足を踏み出す。地についた足から『雪』の能力で氷の刃を生やす。氷の刃を地の中で曲げ、後ろから女性の頭の場所を貫くように刃を伸ばしていく。

 結果、女性の頭を氷の刃が貫く。人は、脳がやられると一撃で死を迎える。心臓を刺してもほんのわずかに意識があるらしい。試したことはないけど本で読んだ。一瞬でも意識があるとさっきみたいに心臓を生やすなんてことができるかもしれないからだ。

 さて、女性を倒してみたわけだけど、この空間から出られる気配がない。あの女性を放っておくと面倒なことになるかと思って倒しただけだから、すぐに能力で私がいた場所に戻ることはできる。


「⋯⋯うわぁ。殺された」


 そう思っていたところに、後ろからそんな声が聞こえてくる。

 ⋯⋯めんどくさい。ここじゃ、殺しても意味ないのか⋯⋯。

 ふと、思い浮かんだことがあったので、『戻す』能力を発動させる。女性を死んでいた頃まで戻す。結果、女性は頭から血を溢れさせながら息絶える。これは楽だ。不死身の相手でもないと死んだ過去がないから使えない方法だけど、ここでは楽になる。

 女性が、蘇るたびに殺す。それを数十回と繰り返すうちに、女性は心が折れたようで、許しを乞うてくるようになった。ここで、無視してもいいわけだけど、まあそういうわけにもいかないだろう。


「⋯⋯ここから出しますから、もう勘弁して、ください」


 先ほどまでの態度が嘘のようにひれ伏している。私が悪役みたいだからやめてほしい。というか、あなたも私に同じことやったよね。それに、私がここから出るために殺していると思ってるのか⋯⋯。この女性を野放しにしていたらダメな気がするというだけだけど⋯⋯。


「⋯⋯すぐに目覚めさせて差し上げますね」


 勝手に女性は自己完結したようで、何かを始めている。瞬間、私の意識が消えていくような感覚がした。一応、それが攻撃だったらいけないので自分の状態を戻し、無効化する。

 そして、次の瞬間には女性の姿はなくなっていた。本当に能力を解除したということだろう。辺りの空間もばらばらと崩壊を始めている。

 さて、私もやらないとな。何度も言うけど、私でなくてもいいのかもしれないけど、今のままだと私が嫌だから、戻らないと。

 再度そう決意して、能力を発動させこの空間から脱出を試みる。すぐに私の視界に映る景色が変化する。目を開くと、私が泊まっていた宿の天井が映る。目覚めさせて、という言葉から考えるに、先ほどの世界は私の夢だったんだろう。

 私はベッドから体を起こし、瞬間、首筋に痛みが走る。首に剣を突き立てられる感覚。

 待って、まだ、やだ⋯⋯。

 私の意識が遠のいていく。能力を発動させる暇もない。一撃で首を刈り取られるのだから。そうして、私の意識は完全に闇に落ちるのだった。


宵「これで小雪編は完結です」

イ「ここであとがきを入れるの?」

宵「雰囲気ブレイカーこと僕ですから」

イ「不名誉な称号だ」

宵「まあ、気にしない気にしない。次から刹那編に戻ります」


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