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第83話 幻

〈side小雪〉


 次に視界が開けたときにあった光景は、見覚えのある工場だった。あの、彼に助け出された場所だ。で、こんな光景を作り出して何をすると?


「侵入者だ!探せ!」


 私がそんなことを考えていると、そんな怒号が響き渡る。

 ⋯⋯この流れ、見覚えがあるような。

 おそらく、彼が侵入してきたときだろう。これは過去の回想だろうか。現在、私がいる場所は牢屋だ。確かにあの時も牢屋の中にいた記憶がある。


「こっちだ!全員で畳みかけろ!」


 こんなこと言ってたっけ?この発言に覚えがなかった。忘れているだけかもしれないけど。

 私が考えに耽っていると、私の目の前を影が横切った。間違えようのない彼の姿だ。

 そして、後ろから工場の人間が走り寄ってくる。彼は、そこから避けるように別の道を進もうとするけど、その道からも工場の人間がやってくる。間違いない。こんな光景はなかった。だというのに、なぜかこの光景が真実だとありえないようなことを信じかけている自分がいる。

 ⋯⋯これは、おそらく女性の能力によるものだろう。自分の作った幻を本物だと信じ込みやすくする効果も持っているようだ。とはいったものの、そんなことはさほど問題じゃないと思っていた。

 必然的に彼は、牢屋の前まで追い込まれる。本物の彼なら、この状況でも強行突破できるだろう。しかし、この世界は幻、そして私たちの敵の作ったもの。私たちに都合のいい展開が起こるはずもない。

 彼は、私の前で押さえつけられる。工場の人間はナイフを取り出す。私が正気ならばなんで今更、みたいなことを考えられただろう。だけど、この状況を本物だと思い込まされる力、それによって私の心の中には焦燥感があふれていた。

 彼に向かって、工場の人間がナイフを振り下ろす。肉を切り裂く音がして、辺りに血が飛び散る。見ているだけで痛々しい。私たちと違って、工場の人間は素人という認識からか、そういう風に作られているのか、即死させるような刺し方ではなく何度も何度も様々な場所を刺し続ける。

 私の立場からすれば好きな人が苦しむ姿を見せつけられている状態だ。左手で牢屋の檻をつかんで、右手を彼に向かって手を伸ばす。その手が届くはずもない。しばらくして、彼は物言わぬ死体へと姿を変えた。

 私の中にあるのは絶望感だけだった。これが偽物だということは分かっている。だけど、これを真実と思い込ませるような力が働いている。それは私に恐怖心を抱かせるのに十分だった。



 そうして、視界が再度暗転する。そして、次の瞬間には彼の亡骸は消え去っていた。

 ⋯⋯分かった。そういうことか。あの女性が言っていた「方法を変える」という言葉の意味が分かった。私を完全に壊してしまいたいんだ。私が傷つけられても壊れないと判断したあの女性は、何度も彼を殺すという方法をとることにしたということだろう。

 それから、数回、数十回と同じことを繰り返された。私の目の前で彼が殺され続けた。これは、確かにきつい。何度も何度も私の目の前で届かない手を伸ばさせ続けるというのは⋯⋯。私に無力感を押し付けてくる。あの村にいたときとも違う、慣れる気配の見せない絶望感。私のせいで彼が殺され続けている。何度も見ているうちにそんなことを⋯⋯。

 ⋯⋯私は何を言ってる?届かない手?それは本気で伸ばしていたのか?ただ、そう思い込んでいただけじゃないか。私は最善を尽くしていると。そんなことを言っておいて、彼が攻撃され始めるまで私は待っているだけだったろう?この空間の雰囲気に呑まれるな。

 ⋯⋯私のせいで殺され続ける?ふざけるな。そんな結末は認めるわけにはいかないんだろう?だから、前を向け、私。このままで終わるわけにはいかなかったんだ。早く目を覚ませ。私である必要はないのかもしれない。でも、それでも、私が望んだ結末のために、できることを。

 手を伸ばし、檻に触れる。冷たい金属の手触り。そこに意識を向ける。確かに『戻す』能力は暴走しかねない状態だ。だけど、集中できるならば使うことは可能だろう。檻そのものを戻せ。存在しなかった頃に。

 光を発しながら、檻は消滅する。何気に、物を完全に消すことができたのは初めてだ。それにも理由がある。この暴走しそうな能力の状態。暴走しそう、というのは間違いだ。ただ、力があふれている状態。いつも以上に強力なものになっている能力に暴走しそうだと思い込んでいただけだ。その理由は特に思い浮ばないけど、今はここから出ることが先決だ。

 地を蹴り、檻から飛び出す。すぐさま、彼のもとへと駆け寄る。別にここで彼を助けたとしても意味なんてない。でも、ここで逃げようとは思えない。それが、私の意志だから。


「⋯⋯ここからが、本番」


 自分に言い聞かせるようにそう言葉を吐く。

 ナイフを構え、工場の人間に突撃していく。工場の人間も私に向かって攻撃を仕掛けてくるけど、すべて躱しつつ、ナイフで切りつける。他の工場の人間も私に向かってくるけど、ナイフを投擲して息の根を止める。すぐに能力を使って、ナイフを手元に戻す。能力の出力が上がったおかげか、少し離れた場所にも能力が届く。

 そんなこんなで、工場の人間の殲滅が完了する。

 さて、こうなったら、あの女性が出てくるはず。私を壊すことに失敗したわけだから。女性の目的が私が絶望することだとしたら、この状況は好ましくないだろう。

 案の定、道の真ん中に突然女性が出現する。


「⋯⋯聞いてないんだけど。あなたもここで能力を使えるのね」


 心底嫌そうに、現れた女性は言った。能力が使えることが異常ってこと?⋯⋯もしかすると、『もの』の能力は今、使うことができていない。それのことを言っているのかな。つまり、あの女性の能力は能力を封印することができて空間を作ることができるものということかもしれない。私が言うのもなんだけどチートすぎるんじゃない?『戻す』能力のほうは使えてよかった、と安堵した。こちらが使えないとなると、流石にこの空間で戦うのはしんどい。

 とはいえ、油断するわけにはいかない。そして、今相手に詳しい能力はばれていなはずだ。それはアドバンテージになる。

 ⋯⋯一度記憶を覗かれいていたっけ?意味ないじゃん。まあ、ばれているにしてもいないにしても問題はないか⋯⋯。不意打ちが効かないくらいだ。

 急がないといけない私にとってはかなり嫌な事態だけど、やるしかないか。私は再度気合を入れなおし、女性に向き合うのだった。


宵「このあたりの描写はもう少し詳しくやってもよかったんだけどね」

イ「モチベが足りないと」

宵「そう。あんまり残酷描写は得意じゃないんだよ」

イ「書いていて萎えるらしい」

宵「味を出す上では致命的だよね」

イ「なろうに必要?」

宵「ここまで読んでる人は好きでしょ」

イ「前半の脱落者多そう」

宵「前半については書き直そうか本気で迷ってる」

イ「⋯⋯どうせやらない」

宵「⋯⋯それは言わないで」


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