第82話 対村人
〈side小雪〉
さて、とりあえず現状を整理しよう。デラクアが襲撃を受け、気が付いたらここにいた。私はあたりを見渡してみる。確かに、私の昔居た村の景色。だけど、ところどころがぼんやりとしている。ちょうど私の記憶に薄いところが。
つまり、この空間は私の記憶から作られたものだと考えるのが妥当だろう。違和感のある所はそれだけじゃない。私が能力を使えるのがおかしいだろう。能力というのは私がこの村から連れ出されたきっかけだ。村にいる頃に能力が使えるというのはおかしいだろう。
『雪』の能力のほうは発動させそうもない。これはデラクアが襲撃されていた時と同じだ。つまり、あの襲撃もこの空間と同じような原理で起こっていたのだろう。つまり、実際にデラクアが襲撃されたという事実はない、と考えるべきだろう。そうでないと、私を殺さなかった理由に説明がつかない。
今私がするべきことは、この空間から脱出することだろう。第一に思いつくことは私の位置を『戻す』ことだけど、これはおそらく難しい。先ほども言ったように今の状態はデラクアでの襲撃の状態と同じだ。つまり、『戻す』能力の制御も難しい。暴走しそうな、そんな雰囲気がある。抑え込むのに意識が持っていかれるため私の体だけに作用させるのがせいぜいといったところだろう。
だけど、戦闘ができないというわけじゃない。確かに、位置を戻すのは相手を翻弄する上では役に立つけど、私の能力の強みはどれだけ攻撃を受けても、体力を使っても、決して倒れることがない点だ。
では、どうやってここから出るのかだ。これは、元凶をどうにかすることを目標にするしかないだろう。元凶の目星はついている。あの、デラクアで私が意識を失う前に見た女性、彼女が元凶だと考えるのが妥当だ。あの女性については私の記憶には全くない。ここが私の記憶から構成されている世界だとするならば、記憶にない女性が出てくるのは異常だ。となると、あの女性は私由来ではない存在だと言える。そんな存在がいるならば最も疑わしいと言えるだろう。
まずは女性を見つけないといけない。しかし、この村に来てから女性の姿を見ていないため今どこにいるのかは分からない。だからと言って、ここで殴られ続けるというわけにもいかない。ひとまず、移動を開始するべきだろう。
そう考えた私は立ち上がり、辺りを見渡す。私が突然立ち上がるものだから、辺りから観察していたであろう村人がクワなどの武器になりそうなものを持って、近寄ってくる。ずっと見てたの?暇なのかな。相手は作り物と分かってはいるけど、そんなことを考えていた。
近寄ってきた村人は持ち寄った武器を私に対して振るう。そんな攻撃に当たるようなへまはしない。潜り抜けるように振るわれるクワを躱しつつ、一人の村人に接近する。そして、先ほど村人を刺したナイフを刺突させ、すぐさま引き抜き構えなおす。そこまでの反撃を予測していなかったのか、刺された村人は狼狽した様子で傷口を押さえつつ後ずさる。
周りにいた村人たちもそれを見て危機感を覚えたのか、先ほどよりも勢いのついた攻撃にかわる。今までは人を殺すことが恐ろしいとでもいうような攻撃だったけど、この攻撃には明確な殺意を感じる。私をあれだけ殴っておいて武器を持った途端に恐る恐るの攻撃になるとか、正直意味が分からない。
とりあえず、その振るわれるクワも躱してから周りの村人たちを切り付けていく。この程度なら難なく躱すことはできる。
それからしばらくして、躱しては切り付けを繰り返していた。やっぱり攻撃は苦手だな⋯⋯と思いつつ、襲い掛かってくる村人にナイフを突き刺す。すでに何人かは息絶えているだろうけど、ここで情けをかけても私が殺されるだけだし、そもそも、この村人たちに情けをかけてあげようと思えるほど私の善意は大きくなかった。あれだけ殴られたのだ、相当の恨みだって持ってる。
残った村人にナイフを突き刺して、息の根を止める。そのうちに立っている村人も残っていなかった。全員死に絶えただろう。そんな光景を見ても私は特に何も感じなかった。まあ、これは分かっていたことだ。だから、私はもう一度生きようと思えたのだ。
そのためにも、私はこの場所から出る必要がある。そのために、あの女性を探そうと足を踏み出した途端。
「⋯⋯それはつまらないなぁ」
後ろからそんな声が聞こえてきた。後ろを振り返ると、探そうとしていた女性の姿があった。
「⋯⋯つまらない?」
何がつまらないのか、私にはまったく見当もついていなかった。
「そんな風にさ、前を向くって姿勢がね⋯⋯本当に嫌いだよ」
女性はそう吐き捨てるように言って、私に接近を試みる。相手の力量も分からない以上接近されるのは危険だと判断した私は後ろに跳んでそれを回避する。しかし、後ろに跳んだ直後に空中にいる私に向かって何かが飛来する。それをぎりぎりだけど、身をよじって回避する。
「⋯⋯躱すかぁ。だったらこれは?」
女性がそう言ったとたんに、先ほどと同じ何かが飛来する。全方面から。私はしゃがみ込んでから、ナイフを飛来する一部分に向かって振るいながらに跳ぶ。ナイフではじいてできた隙間を潜り抜けるように私はその何かの包囲から逃れる。
先ほど、弾き飛ばした何かに目を向ける。けど、すでにそれはそこにはなかった。おそらく、あの女性が消失させたのだろう。
「⋯⋯当たれよ」
女性がそんなことを呟くが、当たるのはできる限り避けたい。というか、望んで当たるわけもないだろうに。
「⋯⋯はぁ。方針変更、別の方法であなたを壊すことにする」
女性はため息ながらにそう言った。瞬間世界が暗転する。
宵「口調って難しいな⋯⋯」
イ「だが、って書くか、だけど、って書くかとかよく間違えるよね」
宵「今回とか今までもあるかもです。温かい目で見てやってください」
イ「見直せば?」
宵「自分の作品を読み直すのって流れ分かるからつい読み飛ばしてしまうんだよね⋯⋯」
イ「⋯⋯で、本心は?」
宵「面倒」