第79話 死
遅くなって申し訳ない⋯⋯。
〈side小雪〉
それから次の日、私はというとなぜか外を散歩していた。いつもは、何かしようという気力さえ湧かなかったけど、不思議と今日は外に出てみようと思った。
宿を出てから、デラクアだったかな?の中を歩き回る。特に行く宛があるわけじゃないので本当に散歩といった感じだ。一応、多少のお金は持ってきているから何か買おうと思えば買えるけど⋯⋯。
「あ、小雪ちゃんじゃん。久しぶり~」
適当に通りを歩いていると、後ろからそう声がかけられた。後ろを振り返ると、そこには久しぶりに見るミナさんの姿があった。そういえば最近姿を見なかったな⋯⋯。今更ながらにそんなことを思った。
しかし、彼女は私とも関わりがある人だ。私の不調というか、彼がいないことをばれるわけにはいかない。
「おーい。聞こえてる?」
私が考え込んでいると、そう声をかけられる。ひとまず、今まで通りにふるまおう。
「⋯⋯ん。聞こえてる」
いつも通りの口調でそう答える。これ以外の口調は使えないのだけど⋯⋯。
「そう?それならいいけど」
少々違和感を持たれたようだけど、そこまで気にはされていないみたいだ。そこまで違和感のある返しではないと思うけど。
「ん?今日は一人?」
私の周りに彼がいないのを見てそう聞いてくる。ここで帰りました、と言えるはずもなく、私には首肯することしかできなかった。
「そっか。だったらせっかくだし、一緒に買い物にでも行かない?」
そう誘われて少し考える。ここでついていくと私の様子がおかしいことに気づかれる可能性が高くなる。しかし、ついていかないというのも不自然だろう。ここはついていくしかないだろう。
「ん。分かった」
私はそう返して、ついていくことにした。演技力はもっと磨いておけばよかったと、そんなことを思いながら。
それから、私たちは二人で街を歩いていた。ネックレスみたいな装飾品を見たり、最近流行りらしいスイーツを食べたり、長々と服を見せられたり⋯⋯。服を見たと言ったが、私は彼の服を見るのは好きだったが、自分の服を探すとなるとあまり気が乗らないから、そこまで時間はかからなかった。ただ、ミナさんは違ったようでいくつもの服を見せられて、どっと疲れてしまった。私の買い物に付き合っていた彼もこんな気持ちだったのだろうか。次から気を付けてみよう。次なんてないけど⋯⋯。
それから、数時間が経って日も傾き始め、そろそろ私は宿に戻ろうと思っていた。しかし、それはできなくなる。
突然、辺りが炎に包まれた。何の前触れもなく、どこからともなく火の手が上がった。私の近くの家も燃え盛っており、ここまで熱さが伝わってくる。
「な、何事?」
急にそうなったからか、私と一緒にいたミナさんもそんな声を上げる。もちろん私も焦っている。以前死にたいとは言ったけど、それは私だけという意味で、ほかの関係のない人と死んでほしいなんて思っていない。
まず、人を救出しなければならないのだけど、特に、火に対しての装備をしていない私には流石に人の救出は難しい。体全体を氷で包めばいいと思うかもしれないが、氷の維持と救出作業を両立させるのは厳しい。
ひとまず、辺りの火を消そうと『雪』の能力を発動させようとする。だけど、なぜか発動する気配がない。能力を封じる方法でもあるのだろうか?今考えても仕方ない、か。そう考えた私は『戻す』能力を発動させようと試みる。こちらは、発動させることはできそうだったが、まったく制御が利かない。使うと、家ごと、最悪の場合中にいる人も一緒に戻してしまうだろう。生まれる前に戻すのは無理だったから、赤子が転がる街になりかねない。
そんなことをするわけにもいかず、私は何もできなかった。周りの人たちも魔法というものを使おうとしていたけど、それも同じように発動しない。誰かが、川などから水をとってこようと声を上げた。そうして、その人が走りだそうとした瞬間、辺りが赤く染まった。
赤く染まったというのは火が激しくなったということではない。突然、辺りの人々がはじけ飛んだ。辺りに真っ赤な血液と、小さな肉塊が散乱した。何が起こったのかは分からない。ただ、急に人が死んだ。そこまでしか私には理解できなかった。
ふと隣を見ると、隣にいたはずのミナさんの姿もなかった。そこにはかつてミナさんであっただろう肉塊だけが残されていた。そうして、今まで特に何も感じてはいなかった私にも恐怖が流れ込んできた。先ほどまで話していた相手が死んでしまったこと、なぜかまだ、私が生きていること、さらに、辺りを流れる風の音でさえも怖く感じる。
何が起こったのか?そんな未知への恐怖が押し寄せてくる。このまま何事もなく忘れていたといった感じで私が一瞬で殺されてほしいとすら思ってしまう。
それから、体感数分が過ぎた頃になって、恐怖以外の感情が出てきた。こんな状況で何もできなかったことへの罪悪感。おそらく、そういうものが私の中にあふれだした。突然、目から涙が零れ落ちる。
どうして?どうして?なんでこんなことになった?なんで、私だけ生き残った?
行き場のない感情のようなものが私の中を駆け巡る。街の中すべてを確認したわけではないのだけど、生き残ったのは私だけだと、なぜか確信していた。
そうして、それからどれだけ呆然としていただろう。分からなかったが、急に私の体に痛みが走った。おそらく生きている私に気づいて殺しに来たのだろう。
能力を使って治そうかと思ったけど、辞めた。もういいや。『戻す』能力のほうはぎりぎり自分へくらいなら使えそうだったけど、そこまでして生き残ろうとは思えなかった。
そうして、私の意識が消える寸前に見たのはこちらを見てにやりと笑みを浮かべている一人の女性の姿だった。
イ「ダークにしないとは?」
宵「できると思う?」
イ「⋯⋯構想の内容的には無理かぁ」
宵「しばらくお付き合いください」
イ「暗くするならもっと表現を⋯⋯」