第78話 壊れた少女
ここから小雪編です。
〈side小雪〉
あれから、どれくらいたっただろう。あの後の私はというと、何かした記憶もない。ただ、ご飯食べて寝て、お金が無くなったら、魔物を倒してを繰り返していた。特に何か楽しかったこと、悲しかったこともなかった。ただ、ただ、生きていた。だけだった。
今日はお金が尽きそうだったので、冒険者として依頼をこなしていた。もともと、表情がないと言われるような顔をしていたため、幸いにも特に心配されるようなことはなかった。奴隷の首輪も能力で外すことができたため今は外している。宿に置いているけど、これをもう大切にしたいとは思えない。彼の持っていたお金はかなりあったが、それに手を付けるのはなんだか気が引けた。いや、それに触ることが彼を思い出してしまうからなのかもしれない。
そうして、今日も適当な依頼をとってから、それをこなす。特に内容を確認して受けているわけではない。大体の依頼ならこなせると思うし、それに難易度の高いものを選んで死んだとしても構わなかった。興味もない。死んだら死んだでいい。結局、自分で死のうとも思えない、そんな人間だった。そんな人間になり下がった。
むしろ、誰か、何かが私を殺してくれることを望んでいたのかもしれない。そうして、私は受けた依頼を完遂してから、ギルドへと戻ってきた。依頼の内容と言われても全く覚えてない。覚えていたところで何にもならない。私にとってはお金さえ稼げたらそれでよかった。
そうして、私はギルドから帰ろうとする。
「あの、小雪さん、でしたよね?ギルドマスターが呼んでいるようなので来ていただけないでしょうか」
服装的に受付嬢だろう。その人が声をかけてきた。ここで無視して帰ってもいいが、それはそれで面倒なことになりそうなので従って、受付嬢についていく。
「失礼します」
受付嬢がそう言って、いつの間にか目の前にあった扉を開く。いや、私が下を見ていただけか。
「いらっしゃい」
そう言って、ギルドマスターは私を出迎える。私はちらりとそちらを見て、そのまま下を向きなおす。
「とりあえず、そこに腰を掛けてくれ」
そう言って、ギルドマスターは部屋にあるソファを指さす。言われた通り、そのソファに私は腰を下ろす。ギルドマスターも私の向かいにあるソファに座る。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
両者とも沈黙している。
「⋯⋯えっと、私は失礼しますね」
受付嬢はその空気に耐えかねて部屋から出ていく。
「⋯⋯一応聞いてみるが、何かあったか?」
「⋯⋯」
そう問いかけられるが私は特に何も答えない。そのまま、数秒間が経つ。
「⋯⋯別に」
彼と別れてから特に何をしたか、全く記憶もないのでそう答える。彼と別れたということも、今になっては何とも思ってなかった。やけに鮮明に、事細かにあの時のことを思い出せるが、あの時の悲しみが押し寄せてくることもない。
「⋯⋯質問を変える。刹那はどうした?」
「⋯⋯」
そう問いかけられるが、また私は何も答えないまま数秒が経った。
「⋯⋯帰った」
彼は元の世界に帰ったと思われるため、そう答えることにする。
「⋯⋯そうか」
「⋯⋯」
ギルドマスターは、そう呟いた。そうしてまた沈黙が訪れる。それから数十秒が経った。
「⋯⋯帰っていいですか?」
これ以上話すこともないだろうと考えた私はそう言った。
「⋯⋯分かった」
ギルドマスターとしてもこれ以上、なんと声を掛けたらいいのかは分からなかったようで、そう言葉を吐き出すしかなかった。私としても、自分の行動がおかしい、というか危ないということくらいなら分かっている。だけど、それでも、他人に心配されるとなると不愉快だった。これは私が選んだ道でもあったのだ。それをなんだか否定されているような、そんな気がして、もっといい選択があったなんて認めたくはなかった。
私は、その言葉を聞いてから扉のほうへと向かう。
「⋯⋯失礼します」
一応そう言ってから、私はその部屋から出た。
そうして、特にすることもない私はそのまま宿にまで戻ることにした。宿は彼と一緒に泊まっていた部屋から変えていない。変えてくださいとは言いづらいことも理由の一つだが、ここから離れたくはないと思ってしまう自分もいた。
ただ、毎回部屋の前まで来ると中に彼が居るのではという妄想にとらわれそうになるのは勘弁してもらいたい。とはいったものの、今となってはそんな妄想も身を潜めている。だんだんとそんな空想は薄れていった。正しく言えば、そう思ったとしても何も感じなくなっていった。
日本のベッドに慣れていると少々固く感じるベッドに腰を掛ける。そして、それから数分くらい座っていた。まだ夕食食べてないな、とふと思って立ち上がる。
この宿は夕食はついているようで下にある食堂で食べることができる。これもまた、日本と比べると物足りない。昼食についてはお金を払えばもらえるらしい。こちらの世界は一応一日三食らしい。一応というのは身分によって、食べられない人もいると聞いたことがあるためだ。
そうして、肉を焼いたものとサラダを食べた後に部屋まで戻る。そうして、特に何もすることもないので寝ることにする。ベッドに横になるが、ふと、部屋の隅にある首輪が目に入った。ただ、それで何かするというわけでもなく、そのまま私は目を閉じた。何かが頬を伝った気がしたが気のせいだ。
イ「悲惨なことに⋯⋯」
宵「書いてる側も結構メンタル削られます」
イ「まあ、あんた感情移入してしまうタイプだしね」
宵「次回はもう少し心が傷つかないといいな」