第77話 空華の目的
〈side刹那〉
「まず、この組織が何を目的にしているかってことから話したほうがいいかな?」
僕に聞かれましても⋯⋯。この組織の目的なんて知ったものではない。
「トップの目的はひとまず置いておいて、この組織のメンバーが何を考えているのかなんだけどね」
空華はそう前置きをして、
「一部を除いて、基本強くなることを目指している」
と言う。強くなること⋯⋯か。確かに僕も強くなることを目的にしていた。どんな理由があるのかは知らないが、僕と似たような人間が多くいるのだろう。
「この組織のトップが『創る』能力っていうのは聞いたことはあるよね?」
それは以前、異世界に通じる扉を発見したときの任務説明で聞いた。なぜ空華が知っているのかは気にしたら負けだろう。
「その能力って、能力も『創る』ことができるんだよね」
その言葉に僕は内心、動揺する。能力を『創る』ことができるならば、一般人が兵となりうる。流石の僕でも能力者の大群に襲われたら厳しいことになる。
「もちろん、能力としては劣化版っていうか、まあ本物の能力には届かないけど」
なるほど⋯⋯。一応制限はあるんだな。だからといって、厄介なことに変わりはない。
「で、ここからが本題なんだけど、今現在、『創る』能力を強化するための儀式をやってる最中なの」
「能力って強化できるものなのか?」
僕は空華にそう問いかける。
「ん~説明するのは難しいんだけど、あいつの能力って特殊なんだよね」
空華はそう言って、苦笑いを浮かべる。
「で、その儀式の内容なんだけど、能力を与えた存在?みたいなやつを呼び出して強化してもらうってことになるんだけど⋯⋯」
そう言って空華はなぜかため息をつく。というか、そんなことができるなら能力が特殊とか関係なくないか?
「その儀式を止めることが僕の目的になる」
そこまで言ってから、空華は口を閉じる。
「いや、だったら時間稼ぎするのはおかしいだろ」
儀式を止めたいならば、すぐにでも突っ込んでいったほうがいいだろう。時間稼ぎなんてしたら儀式が完了する可能性もある。
「あの儀式はもう始まってるから止めるとなると、タイミングがあるんだよ。下手なタイミングで手を出すと辺り一帯吹き飛びます」
「⋯⋯」
吹き飛ぶって⋯⋯。そこまで危険な儀式なのか。
「仮にも『神』に近い存在を呼び出すわけだからね⋯⋯。それこそ時空を超えるみたいなことになるんじゃないかな?そこで邪魔したら時空のはざまに吸い込まれてもおかしくないでしょ。言ってて思ったけど、だいぶファンタジーだね、これ」
何が面白いのかわからないが、そう言って空華は笑みをこぼす。
「兎角、すぐに行かれるといろいろ被害とかあるから時間稼ぎをしていたってわけ!」
空華はそう言って、強引に話を切る。
「⋯⋯『創る』能力が特殊ってことと関係なくないか?」
とりあえず、先ほど疑問に思ったことを口に出す。
「ああ、そこねぇ。分からないとは思うけど、『創る』能力がその神様的な存在の持つ力と近いことが理由らしい」
確かに神様の力が何なのか分からない以上、『創る』能力が特殊と言われても分からないな。
「これで僕の理由としては十分でしょ」
十分というか⋯⋯。まあ、これまでの行動と辻褄が合わないというわけではないと思う。結局、根拠もない話ではあるが。
まあ、この話が事実だとしても嘘だとしても、僕に引くという選択肢がなくなったことに変わりはない。空華が時間稼ぎをしていた理由が嘘だとしても、先ほどの内容から考えるに儀式が完了するまでの時間稼ぎとしてとらえられるし、ここで引いて『創る』能力が強化されると僕らが手に負えるとは限らない。
「分かった。だったら、こいつらはお前に預けるとする」
完全に逃げ道をふさがれたことになるが、僕がその儀式を止める、もしくは時間を稼ぐ以外に選択肢はないだろう。空華をそっちに行かせるほど信頼できるわけではない。
「そっか。よかったよかった」
そう言って、うんうんと頷く空華。とてつもなく頭を叩きたい。いいよね?
「⋯⋯ストップ、ストップ!その手を振り上げるのをやめなさい!⋯⋯すいません。やめてください」
僕が近づくにつれ弱気になっていく空華。その頭にとりあえず数回手刀を叩きこむ。
「⋯⋯すいません。もうふざけません」
今は反省の意を示しているがまた繰り返すんだろうな⋯⋯。
「じゃあ、僕はもう行ってもいいのか?」
とりあえず、そう尋ねてみる。
「⋯⋯いいと思うけど。じゃあ、僕はこの子たちを預かっておくから」
そう言って空華は再度、囚われていた人たちを謎の空間へと送っていく。
「分かった」
僕はそれだけ言って、その場を後にしようとする。
「⋯⋯死なないように、ね!」
後ろからそんな声がかかってくる。毛頭、負けるつもりはないので、
「もちろんだ」
と返す。そうして、今度こそその場を後にするのだった。
〈side空華〉
これは僕の言葉は届いてないな。そんなことを思いながら、彼の背中を見送った。
⋯⋯まあ、分かっていた事だけど。やっぱり、声が届くのはきっと⋯⋯だけだよね!
「⋯⋯おねえちゃん、あの人は?」
そんなことを考えながら、彼の上って行った階段を眺めていると後ろから少女がそう声をかけてきた。
「用事があるって、ここで待ってたらいつか来るよ」
優しく少女にそう返す。流石の僕もいたいけなな少女を相手にふざけるような発言はしない。
「そっか!待ってる!」
少女はそう言って、私の作った隙間に入って行った。
さて、あとどれくらいかな?と思って辺りを見渡したが全員中に入ったようだ。騙すようで悪いけど、僕にも用事があるからね、そう思いつつ、その隙間への入り口を閉じる。
そうして、僕は用事をこなすためにそこから立ち去ろうとする。
あ、これもしかして見られてる?ふむ。臨機応変に対応するものだね⋯⋯。
⋯⋯まあいっか。別に問題ないし。
そう考えた僕は用事を済ませにそこから立ち去るのだった。
宵「⋯⋯え?」
イ「ばれてる(笑)」
宵「ん~ばれるもんかね⋯⋯」
イ「まあ、いいでしょ」
宵「それもそっか」