第76話 襲撃の裏側
〈side刹那〉
「どういうことだ?」
若干の殺気をぶつけつつ空華にそう問いかける。
「⋯⋯それはその⋯⋯」
空華は少し言いよどんだ後、
「僕が君が襲撃に来るって伝えちゃいました」
と言った。
「誰に?」
「⋯⋯この組織のトップです」
確か、空華は予知の能力だと言っていたか⋯⋯。そして、予知結果を伝えたと。今の僕からすると、予知の能力というところも怪しいのだが、ひとまずそこは置いておこう。
「それでどうなったんだ?」
「君の援軍をなくすために、そっちの組織に襲撃を仕掛けました」
なるほど⋯⋯。
「そんな簡単にこっちの組織がつぶれたりはしないと思うが⋯⋯」
仮にも、犯罪などを犯す能力者に対応する組織なのだ。あっさりと全滅という形は避けるだろう。
「⋯⋯たぶん、全滅はないよ。ただ、壊滅状態ではあるだろうけど」
「そこまで人数を送り込んだのか?」
流石に、一人での襲撃で丸々一つの組織を相手取るとなるとかなりの時間はかかるだろうし、その時間に相手の組織に襲撃する別動隊の準備も整うだろう。
「⋯⋯送られたのが特殊な人だから、勝てはするだろうけど、君かミナって子、あとは小雪ちゃんくらいしかまともに戦えないんじゃないかな」
「特殊と言われてもどう特殊なのか分からないんだが⋯⋯」
「あいつ『止める』能力って言ってね、時間を止めることができるんだよね。境遇には同情の余地がないわけじゃないけど、あの心酔っぷりはね⋯⋯」
空華はその相手を思い浮かべたのか苦笑いを浮かべる。心酔って⋯⋯。この組織のトップにだろうか?そこまでのカリスマ性でもあったのか、それとも状況が噛み合っただけか⋯⋯。
「だとして、僕や⋯⋯ん?なんで、ミナや小雪を知ってるんだ?」
小雪やミナについて話した記憶はない。
「⋯⋯予知したと言えば伏線っぽいけど、単純に君たちが有名だってだけだよ。小雪ちゃんに至っては白い悪魔なんて呼ばれるくらいだし」
そんなもんか。よくよく考えれば、異世界のほうでもこの組織のトップに出会っていたわけだし、空華が知っていても不自然ではないか。
にしても、白い悪魔って⋯⋯。確かに、髪色は白と言ってもいいが、悪魔の要素がほとんどないだろうに。
「なるほど、で、僕らなら相手になるって言ったってな時間を『止める』なんてされたらどうしようもないが」
先ほど聞こうとしていたことはこれだ。僕や小雪、ミナでもおそらく時を止められたら為す術がない。
「⋯⋯君たちもかなり特殊だからね。理由と言われても、直感としか⋯⋯」
直観って⋯⋯。適当すぎるだろ。
「で、援軍は期待できないんだな?」
「⋯⋯はい、その通りです」
申し訳なさそうにそう言う空華を見て思ったのだが、こいつって確か相手側だったよな?そう考えれば僕の襲撃を予知してこの組織のトップに言ったとしてもおかしくはないだろう。
今更ながら、こいつに流されすぎていたな⋯⋯。
「あの、私たちはどうなるのでしょう?」
僕がそんなことを考えていると、完全に空気になっていたというより、忘れていた避難していた人の代表が声をかけてきた。
「えっとね⋯⋯。どうする?」
先ほどまで僕の考えていたことを知らない空華はそう聞いていた。どうすると言われてもな⋯⋯。このまま僕が連れて帰るしかないだろう。この間に組織の連中には逃げ出されてしまうだろうが⋯⋯。ここに来る前まで考えていたこととは全く異なることを考えているのだが、それに僕は気づくこともなかった。
「僕が連れて帰るしかないな」
僕がそう言うと、なぜか空華が焦ったような表情をする。
「いや、えっとね、ここで君に帰られると困るかなぁ⋯⋯」
なんじゃそりゃ。この状況じゃ僕は帰るしかないだろうし、そんな状況にしたのはお前だろうが。今回は完全に僕の負けだろう。明らかに、空華側の勝ちだし、それに困ると言われても⋯⋯。
「ああ、えっと、僕がこの子たちを引き続き預かるから!君は先に行ってよ!」
強い語調で空華は言った。確かに、空華が作っていた空間が見つかる可能性は限りなく低いだろうが、そもそも空華のことを信用することができない。そんな相手に人質を渡すような真似をするわけにもいかないだろう。
「⋯⋯お前を信用できると思うのか?」
「⋯⋯だよね」
それは分かっていたようで空華はそう言ってため息をつく。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
沈黙が続く。
そうして、数分が過ぎた。今になって考えれば黙っている必要もなく、囚われていた人たちを連れて行けばよかったのだが⋯⋯。
「⋯⋯分かった。僕の目的を話すからさ、それ次第で決めてくれない?」
口を開いた空華はそう言った。空華の目的か⋯⋯。空華の行動は、この組織側だとしてもおかしなところがあったし、僕ら側だとしてもおかしな行動が多くあった。まず、敵だと仮定するとこの人質になりうる人たちを解放したところ、そもそも保護していたところはおかしいと言える。それに、確実に見つかることのない隠し場所があるならずっとそこに入れておけば僕は延々とこの屋敷の中を探し回らなければならなかった。僕ら側だとしても、僕の足止めをしていたことはおかしいと言える。
「⋯⋯分かった。聞いた後で決めるとする」
とりあえず、話だけでも聞いてみることにしよう、と考えた僕はそう返した。これも、僕の足止めの一環だとすればなかなかの策士だが⋯⋯。
そっか、と空華は笑みを浮かべて、そうして話し始める。
イ「人質なんて二の次と言っていた人の意見です」
宵「色々と価値観も変わってきてるってことだろうね」
イ「根はやさしいと⋯⋯」
宵「ああ、そうなる。小雪のことを根はやさしいとは言っていたけど、どちらかというと小雪のほうが冷たいかも」
イ「刹那くんのためならなんだってする。みたいなところあるからね⋯⋯」
宵「ヤンデレかもしれない⋯⋯」
イ「浮気?って言いながら包丁を手に取る小雪ちゃんの姿って割と簡単に浮かぶんだよね」
宵「どちらかと言えば、刹那には攻撃せずに相手の女の人を襲いそう」
イ「危険人物⋯⋯」
宵「愛されていると言えば何とか⋯⋯」
イ「付き合っていないなら特に何も言ってはこないだろうところがせめてもの救いかな。病むだろうけど」