第74話 探索
〈side刹那〉
「で、どうかな?」
どうかな?と言われてもな⋯⋯。まず、その主人公?の探し物が何なのかも明言されていないし、そもそも何の話なのかも分からないし。
「ん?もしや内容とか気にしてる?」
僕が内心でそんなことを考えていると、それを見透かしたように空華が声をかけてくる。
「いやね、最初に言ったようにこれは時間稼ぎだから。そこまで内容は気にしないでもらえると、ね。まあ、知っておいて損はないような話だけど」
確かに時間稼ぎが目的だとは言っていたが⋯⋯。知っておいたほうがいいというのは僕の苗字を知っているということくらいか。もしかするとその探し物が原因で僕の親が殺されたのかもしれないが⋯⋯。結局、何も詳しい情報がないためそうだと断定もできない。
「そうだな。無茶苦茶な話だと思ったよ」
そこまで考えてから、空華にそう返答する。
「そっか、無茶苦茶か。君からすれば支離滅裂な話だろうしね」
「で、もう行ってもいいのか?」
このまま空華の話に付き合っていたらいつまでたっても先に進めない。
「ここは僕を倒してから、とか言ったほうがいい?」
「そうなれば痛い目を見るだけだな」
あまり、少女に攻撃するのは気が進まないのだが立ちはだかるのならば攻撃を加えることになる。
「⋯⋯それはやだね」
痛い目を見る想像をしていたのか、少し黙った後に空華はそう言った。
「そうだ。だったら遠回りでもしながら僕が逃がしておいた人たちのところに案内しよう」
名案だとでも言うようにそれを口に出す。するにしても言っちゃ駄目だろうに。そうは思ったものの、僕には逃げた人がどこにいるのかなんてのは分からないためいい方法ではある。気配を探って探すにも限度がある。僕がその人たちのことを助けるならば、だが。
「で、どうする。僕についてくる?」
空華はそう言って、どこかへ向かって歩き出す。僕の返答は聞かずに。
「とりあえず、自分で探してから、だな」
僕はそう答えてから空華とは逆方向に進む。罠である可能性も全然あるからな。敵意を感じないとは言っても完全には信用しない。
「⋯⋯そっか。それの方が僕の目的に近づくからいいけどさ」
ため息でもつくように空華はそう呟いた。
「まあ、それならそれでいいよ。ああ、一つだけ助言を」
そう言って僕のほうに体を向ける空華。
「ここじゃないほうの地下室には入るべきじゃないよ。そこはこの組織のトップの部屋だからね」
そう言ってから空華は近くにあった椅子に腰かける。あんなところに椅子なんてあったんだな。
そんなことを思いつつも、僕は階段を再度、上がりなおす。待ってるからね、と後ろから声が聞こえるが無視するに限る。
それにしても、もう一つの地下室か⋯⋯。それが嘘か本当か。まあ、ある程度近づけばある程度の気配は分かるだろうし、その数次第で真実かどうかは分かるだろう。本当なら気配は少ないはずで、嘘で逃がした人々がいるなら多くの気配があるはずだ。
そうして、僕は再度屋敷の探索を行っていた。そうして、とうとう空華の言っていたもう一つの地下室とやらを見つけた。道端で襲い掛かってきたやつは気絶させて転がしておいた。連絡用の道具も離れたところまで移動させた。急に音が鳴って場所がばれるなどといった事態を防ぐためだ。こうすれば事態の把握は遅れるはずだ。空華が外に出て触れ回っていたら問題だが、まあ信用されないだろう。あそこまで胡散臭い雰囲気をもって生まれてきてしまったことを悔やむしかない。僕が信用しているのは敵意がないという点だけだ。
それは置いておいて、その地下の気配を探る。物音はあるが特に大きな音があるわけでもない。話し声も全く聞こえてはこない。つまり、先にいるのは数人程度だと推測できる。音を消す能力みたいなのがあるなら推測から外れるが、まあないと思ってもいいだろう。そもそも『消す』能力なんてあるならば情報も出回っているだろうし。小雪のように音を『戻す』とかそんな頓智のような使い方ができる能力者も聞いたことがない。こう考えると小雪の能力はかなり異質なのではないかとすら思える。無制限に使えて、かつ応用も効く能力。ここまで便利な能力は他にないだろう。
話を戻す。この先には囚われていた人はいない可能性が高い。そうなると、空華の言っていたトップの部屋である可能性が出てくる。それならばひとまず、空華のいたほうの地下室に戻るべきだろうか。信用しきることはできないが、この屋敷内はほとんど探索したように思う。この地下室のように念入りに隠された場所がある可能性も否定できないが、それを探すとなるとかなり苦労する。
そう考えて僕は空華のいた地下室まで戻ることにした。またもや、薄暗いか弱いランプの照らす階段を下っていく。こつん、こつんと僕の足音が反響する。そうして、地下室まで戻ってきたのだが⋯⋯。
空華の姿は見当たらない。本当に外で触れ回ってないだろうな⋯⋯。屋敷内が騒がしいというわけでもなかったので、外れかやはり信用されなかったか⋯⋯。
そんなことを考えていると、奥の通路から空華が姿を現した。外で触れ回っていたわけではないようだ。
「ああ、ごめん、ごめん。水を汲みに行っていてね」
からからと笑いながら空華は、右手に持っていたコップを掲げつつ言った。こんな地下に水を汲める場所があるのかと、どうでもいいことを考えていると、空華は近くの椅子に腰を掛け、テーブルの上にコップを置く。ご丁寧に僕の分もあるようだ。
「さ、探索で疲れたでしょ、座って座って」
そう言って、対面にある椅子を指さす。そうして、それにつられて僕もその椅子に腰を掛けようとするが⋯⋯。
すんでのところで止まる。思い切り空華の空気に飲まれてしまっていた。
空華はというとちぇーと言いながら頬を膨らませている。
「いや、座るわけないだろうが⋯⋯」
今更そんなことを言ったところで座りかけた事実は変わらないのだが、僕はそう呟くしかないのだった。
宵「空華を信用していないと言いながらも、してるようにしか見えない」
イ「新手のツンデレ?」
宵「そうかも⋯⋯」