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第73話 とある噺

〈side⋯⋯〉



「よし来た!」


 男はそう言って胸を叩き、今までの進行方向から少しそれた道を歩き出す。そう、少しそれた道だ。トラックのもとへは戻らないといけないにもかかわらず。私の方向感覚がおかしくてまっすぐ進んでいなかったという可能性もあるため一旦はついていくことにする。

 ついていくこと数分、森の木々の隙間から銀色を輝かせる軽トラックが姿を現す。これは⋯⋯私の方向感覚が貧弱すぎて同じ場所をくるくると回り続けてしまっていたのだろうか。私がそんなことを考えていると、


「いやぁ、合間を縫ってこっちに持ってきておいて正解だったな」


との声がかかってきた。合間に⋯⋯確かにいない時間もなくはなかったが、その時間に持ってきていたのか⋯⋯。そのことに恐怖すら覚える。私がこう言うことを見越しての判断だったのだろうが、ここまでくると⋯⋯。


「どうかしたのか?」


 黙り込んでいる私を見てか、男がそう声をかけてきた。


「思った以上に近かったから⋯⋯」


 面と向かって、貴方に引いています、なんていうわけにもいかないのでそう言葉を濁す。


「これくらい近くになきゃ、食料とか取りに戻れねぇっての」


 確かにそうだ⋯⋯。そうなのだが⋯⋯。引かないのかと言われると引いてしまう。若干の恐怖すらも感じる。


「はぁ、まあ少し待ってな」


 そう言って男はトラックに乗り込んでいく。それから少しして、トラックはうなり声をあげた。エンジンがかかったのだろう。これは前もって知っていないと化け物のように見えてもおかしくないな。

 私はトラックにそんな印象を抱いていた。初めて見たのだから仕方ない。


「さ、エンジンはかかったから乗れ」


 男にそう言われて私もそれに乗り込む。安全な乗り物だとは分かっていたはずだが、少々の恐怖心を抱いてしまう。そのまま、そのトラックは発進する。


「で、どこに行ったらいいんだ?」


 男が私にそう聞いてくる。そうは言われてもどこに行くのかは不明だ。私に分かるのは方向とある程度の距離だけだ。まあ、どこかに行きたいというよりも、探し物がある場所に行きたいというだけだから当然と言えば当然なのだが。ちなみに、探し物の場所の方角とある程度の距離だけならわかるといったところだ。イメージは方位磁針的な感じ。


「⋯⋯あっち」


 そう言った事情から私は探し物のある方向を指さす。


「⋯⋯あっちって言ったってなぁ、そっちはトラックの通れるような道じゃねぇぞ」


 私が指さした方向は完全に獣道とも呼べないような林の中であったためそんな返答が返ってくる。そうは言われても、私には方角しか分からないのだからそうする以外に示す方法を持ち合わせていない。


「ま、あっちの方向に行ける道を通りゃいいんだろ。じゃ、出発するから気をつけろよ」


 結局、男の機転で先に進むことには成功した。ありがたい限りだ。

 そうして、トラックは発進する。トラックは一人乗りのようで私は荷台に乗っかっているだけの状況だ。シートベルトなんて物は存在していない荷台に乗っている私は慣性に従って横に倒れる。そんな自分にむなしさを感じつつも、起き上がり外の景色を眺めるのだった。



 それから、数年が過ぎただろう。時にトラックが壊れたりもしつつ私は探し物をある程度集めることができた。ここまでこの男がついてきてくれたことは、驚愕すべきことだろう。もともと旅人として生きてきたらしいが、そうだとしても完全に私の都合に巻き込んだ形だ。初めはストーカーという印象しかなかったのだが⋯⋯。

 まあ、兎角感謝しているということで。


「で、お前はもう戻ると」


 これだけ集めれば十分であるため私は元居た場所へ戻ることになる。予定だったのだが⋯⋯。


「ん、と⋯⋯残ることにしようと思う」


 私は戻ることを選択しなかった。言ってしまえば私が戻る意味なんてのはない。厳密には一度は帰ったほうがいいのだが、用事さえ済ましてしまえばそれ以上私が居る意味はない。私がそこに居なくても廻る。消滅してしまえば大問題なのだが、こちらにいる限りでは何の問題もない。


「お、そうなのか⋯⋯」


 少し弾んだトーンで男は言った。私としてもこちらに残っているほうがいい。理由は、と言われても⋯⋯困るのだが。まあ、とにかく!そういうわけで!


「だから、数日くらいで戻るから、待ってて」


 私はそう言って、そこから消える。



 それからまた、数日が過ぎた。


「たっだいま」


 今になって考えると私も会話に慣れたと思う。初めはあんなにぎこちない会話だったのに。


「ああ、お帰り」


 男はその場所で待っていた。まあ、あちらから確認して知っていたのだが⋯⋯。

 ともかく、あちらでしかできないような仕事は終えた。少々、面倒なことをしていた奴もいたがまあ私ができることはやった。もう二度とやらないでほしい。とは言っても、また面倒なことをしでかすんだろうな。

 というわけで、私の探し物も形にしてきた。今までは概念的なものだったが、形にすることはできただろう。少し私もそれを拝借したが⋯⋯。きっとこれは先ほどの奴がやらかしたときの切り札になりえるだろう。いや、なるように願うのか⋯⋯。これはそんな力なのだから。

 で、探し物のほうはというと、途中で出会った信頼できる人間に託そうと思う。きっと変な使い方はしないだろうし。確か『皇』とかいう名前だったかな。

 ま、そんな話は置いておいて、これから私はこちらで生きていくことになる。いや、今になって思えば今まで生きていたと言えるのかすら疑問だが⋯⋯。


「で、良かったのか?あっちのほうが住み心地はいいだろうに」


 男が、私にそんなことを聞いてくる。


「住み心地ねぇ、確かにあこがれるかもしれないけど退屈なだけよ」


 私はそんな返答を返す。まあ、人間としては憧れるだろうけど実際に得るとなると退屈なものだ。


「そんなもんかね」


「そんなもんだって」


 そう言って、私たちは苦笑する。この度を通じて私たちの仲も深まったと思う。それこそ⋯⋯。


宵「これにて『とある噺』は終わりです」

イ「もうちょっと長くしてもいいんだけどね」

宵「これ以上長くすると本編が遠のくって」

イ「なるほど。小雪ちゃんの話に移りたいと」

宵「もう少し刹那のパートがあるって」

イ「メタい話はこれくらいにして、あとがきらしい話をしようか」

宵「お前が仕切るのな⋯⋯」

イ「それはあっさての方向に投げ捨てておいて」

宵「それでいいのか⋯⋯」

イ「いいの。で、今回はいろいろと複雑な回なのかな?」

宵「本編の裏設定に近いからね。本編を読んでこの話が読めた人はすごいよ」

イ「ここで言って良さそうなとこだと、『皇』家が組織に狙われた理由がその探し物じゃないか、っていうくらい?」

宵「後、世界は現代のほう、異世界じゃないってこともあるかな」

イ「それ前回でも分かるでしょ」

宵「分からなかった人もいるかも」

イ「トラックとか出てきておいて?」

宵「それもそうだな」

イ「まあ、これくらいで、ここまで読んでいただきありがとうございます!」

宵「勝手に締めるな。それに、完結してないんだが⋯⋯」


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