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閑話 バレンタイン2

〈side小雪―過去―〉


 私はチョコレートを作ったはずだ。決して鉄の硬度を超える物質を作り出すといった実験はしていない。そこは間違いない。机の上のラッピングされた箱がそのことを物語っている。

 さて、ファンタジーチョコレートと格闘を始めてどのくらいの時間が過ぎたのだろうか。未だ傷一つはいらないチョコレートを見てため息をつく。

 このまま、渡すことができないまま今日を終えるのだろうか。いや、マイナスなことを考えちゃだめだ。チョコレートの弱点を考えろ。傍から見れば大げさかもしれないが、実際、そんなことを考えている私がいた。

 弱点⋯⋯。熱。チョコレートは熱くなると溶けてしまうはずだ。だったら、レンジで温めなおせば⋯⋯。一瞬、名案かに思えたが、よくよく考えれば溶け切ったチョコレートからまた再度作り直す時間なんてない。泣く泣くこの案は却下するしかない。ちょうどいい時間を見極めれば⋯⋯とも思ったが、見てわかるものではないし失敗したらもうどうしようもないため却下。

 ほかに良い手はないか。そう考えながら、家の中を徘徊する。傍から見れば完全に不審者だ。家の中のため見ている人間はいないのだけど⋯⋯。

 と、そんなことを考えている場合じゃない。今考えないといけないのはこのファンタジーチョコレートを柔らかくすることだ。お湯の中にこのチョコレートを入れたボウルを入れてみようか。どれくらい柔らかくなったかは見えるなら分かるはずだ。それに温めすぎたら、能力で少し戻せば⋯⋯。間違いなく能力の贅沢な使い方だった。

 あれ、そもそも今のチョコレートを程よく固まった状態まで戻してしまえばいいのでは⋯⋯。このファンタジーチョコレートにだって固まっていない時期はあったはずだ。冷凍庫に入れた途端、鉄をも超える強度を得たわけではあるまいし。

 今更そんなことに気づいてしまう。気づけて良かったとは思うのだけど、なんだかすっきりとはしない。今までの苦労は何だったんだろうと考えてしまう。

 そうして私は能力を発動させてチョコレートが完全に硬化する前まで戻していく。意味が分からないが、戻しすぎたとしても、それは今の状態と認識されるようで再度能力を使えばまた硬化してから柔らかくなっていく。まあ、このおかげで死者蘇生ができないようになっているようだけど。

 と、余計なことは考えずにチョコレートのほうに意識を向ける。能力を発動させながらチョコレートを棒でつつく。初めはチョコレートとは思えないような硬度を誇ったチョコレートも能力の前では為すすべもなくその強度を下げていく。

 そうして、程よい硬度になったところで能力の発動を止める。そこには棒でつついていたせいで少しいびつな形となったチョコレートがあった。棒でつついていた場所は一か所にとどめていたとはいえ見栄えは良くない。今になって考えるとつまようじくらいがよかったかな、と思う。

 そのチョコレートを取り出して、包丁で四角く切っていく。形がいびつな場所は避けるようにして。そうして出来上がる、四角く切られたチョコレートたち。

 そこに純ココアをかけていく。純ココアというのは甘くないココアらしい。あのミルクココアとかには砂糖が入っているのだとか。あれが、ココア本来の甘さではないという発見があった。

 さて、これで完成のはずだけど⋯⋯。先ほど取り除いた歪な形のチョコレートを手に取って口に入れる。

 ん。間違いなく完成している。後は、これを手ごろな容器に入れてから先ほど、ラッピングした箱に入れる。一応、冷えているほうがよいはずなので今度は冷蔵庫のほうに入れる。間違っても冷凍庫には入れてはいけない。

 これで、またファンタジー世界のチョコレートが誕生しようものなら目も当てられない。

 そうしてそれから三十分ほどが経過した。きっと、冷えたチョコレートが冷蔵庫の中には鎮座しているであろう。

 そのチョコレートを取り出して鞄に入れる。さて、これで準備は完了した。したとはいっても今はもう日も暮れかけて夕日が差し込んでいる。私は急いで組織へと戻る。

 この時間ならまだ彼は訓練をしているだろう。休日でも関係なく訓練をしているような人間が彼なのだ。彼の過去は知っているためそれを止めようとも思えないのだけど。私には彼の苦しみを分かるわけがないのだ。今、彼を止めるのは彼が間違っているというようなものだ。そんな目にあってなどいない私に何が言えるというのか。

 と、そんなシリアスな話は置いておいて今はこのチョコレートを渡すことが第一優先だ。そうして、私は駆け足で組織へと向かう。緊張で足が重くなっていくのを感じつつも、着実に歩を進めていく。

 そうして、私はとうとう組織にたどり着く。そう。たどり着いてしまった。どう渡すとうまくいくだろう。いや、惚れさせたいとかではないんだけど、別に意識してほしいわけじゃないんだけど⋯⋯。無理のある否定だった。

 ま、まあ仮に私が彼のことが好きだとして、私みたいな人間が釣り合うわけがない。もっといい人がいるはずだ。そんなことを思っているにもかかわらず、チョコレートを渡したいのだけどね⋯⋯。

 とりあえず今は、彼を探すことが最優先だ。私は訓練所内を見渡して彼を探す。少し見渡せば、ナイフを振るっている彼の姿は見つかる。

 ⋯⋯見つかったのだが、彼のそばにある机の上にはいくつものチョコレートが積み上げられている。彼に助けられた人は多いので、彼に好感を抱いている人は多いだろうに、私はそれに狼狽していた。その中には私の作ったものよりも、はるかに手の込んでいるものもある。あの大きな箱の中にはケーキか何かが入っているのだろう。それに対して私は、チョコレートを溶かして生クリームを混ぜて固めただけ。こんなものでよかったのだろうか。実際は生チョコを作ることも難しいのだけど、そう思わずにはいられなかった。

 そんなことを考えてしまえば、そのままチョコレートを渡すことなんてできなかった。渡す必要があるのかとすら思ってしまう。そんなことを考えているうちに、時間は過ぎていった。


「お、小雪。ちょうどいい、少し相手してくれ」


 私が話しかけるよりも先に彼が私の存在に気づいてしまう。この場合の相手をしてくれというのは、訓練の相手という意味だ。この組織内で、彼と手合わせが可能な人間が、私を含むごく一部しかいないのが理由だ。正直、戦闘技術だけなら私よりも彼のほうが上だし、私は能力で少しずるをしているようなものだ。

 で、手合わせに誘われたわけだけど、私は今チョコレートを手に持っている。この状態で手合わせなんてしようものならチョコレートが崩れ、大惨事となること請け合いだ。さて、これをどうすればいいだろうか。別に手合わせをしない理由もないので、受けるつもりではいる。一緒に居たいとかではない。


「ん」


 とりあえず、私は肯定の返事だけをする。そのまま、彼のほうに近づく。


「⋯⋯これ」


 そして、私はチョコレートを手渡す。ムードがあったほうがいいかとか思っていたけれど、よくよく考えると私と彼は恋人関係というわけでもないのでさらっと渡すだけでもいいだろう。もちろん、ちゃんと渡したいという気持ちはあるのだけど。


「ああ、バレンタインのチョコか。ありがとな。義理でもうれしいよ」


 その一言は言わないほうがいいと思うけど⋯⋯。義理でも、とか言ったら手抜きだね、と捉えられかねないだろう。それにこれは本命と言えば本命だし⋯⋯。一日で作ったけど⋯⋯。


「に、しても⋯⋯」


 そう呟きつつ、彼は机の上のチョコレートの山に目を向ける。


「あれ、どれだけ食べたらいい?あと、ホワイトデーで返す量がとんでもなくなりそうなんだけど」


 確かに、あれは食べきれるような量じゃないだろう。本当に山のように積みあがっているのだから。しかも、手作りかつ大きいものが多い。それと、本命のチョコをくれた相手に言うのはよくないよ。まあ、彼は私のチョコが本命だとは思っていないのだろうけど。


「⋯⋯私も食べようか?」


 私に出せた案はその程度だった。


「悪いな」


 悪いと思っているなら、受け取るのは私だけのにしてほしい。冗談だよ。


「ま、とりあえず、今は訓練するか」


「ん」


 そうして、私たちは手合わせをすることになった。その後は、二人ともチョコレートで満腹になった。もちろん、私は自分のものは食べないようにした。後、本命らしきものを多めにもらったのは許してほしい。


イ「どうしてこうも小雪ちゃんって自己評価低いの?」

宵「そこは、昔小雪が暴行を受けていた過去からだね」

イ「可愛いなら暴行なんて受けないだろう見たいな考え?」

宵「まあ、そんな感じ」

イ「でも、髪の色が白いだけで差別されるもんなのかね?」

宵「そこに話が行くのか⋯⋯」

イ「いやだって、髪を染めている人くらいなら大勢いるでしょ」

宵「白は珍しいでしょ」

イ「珍しいくらいで⋯⋯」

宵「人って怖いよね」

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