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閑話 バレンタイン1

〈side小雪―過去―〉


 また、過去にさかのぼる。異世界に行く前まで。

 二月十四日。バレンタインだ。私、小雪は今、危機的状況に襲われていた。

 街にはチョコレート菓子が溢れている。きっと、手作りのチョコレートを作っている人も大勢いるのだろう。

 しかし私はというと、何も用意していない。本当に今日までバレンタインという日を知らなかったのだ。朝、チョコレートを渡している組織の女性に言われて知ったのだ。


「今日はバレンタインだね。小雪ちゃんも何か用意してるの?」


 そう尋ねられた時に首をかしげた。


「えっと、バレンタインって知らない?」


 知らない⋯⋯。確かに最近チョコレートを売る店も多かったけれど、流行ってるのかなと思っただけで、そういった日があるとは知らなかった。この女性がチョコレートを渡したのを見ても最初は珍しいなと思っただけだった。


「んーっと、好きな人にチョコレートを贈る日、って言ったらいいのかな?もちろん義理って言って、お世話になった人に配る人もいるけど」


 好きな人⋯⋯。もちろん、そう言われて思い浮かんだ顔は彼の顔だった。私が釣り合うとは思っていないけれど、好きだという気持ちに間違いはない。ならば、私がチョコレートをあげたいと思うのは自然なことだろう。

 しかし、私はチョコレートなんて用意はしていない。それに、好きな人にあげるチョコレートは手作りだというのだ。私にチョコレートを作った経験なんてあるはずもない。


「小雪ちゃんの狙いって刹那君でしょ。彼、人気だからなぁ。たくさんチョコをもらうことになるだろうね」


 ⋯⋯それで私があげることができなかったら?それは、なんだか負けた気分になる。

 だから、私はチョコレートを作りたい。でも、作り方は知らない。原料はカカオだっただろうか?原料から作っている人なんてほとんどいないだろうに私はそんなことを考えていた。

 そんなことを真剣に考えていた私を見てか、


「えっと、作り方のメモあるから渡すね」


女性はそう言って、自分の鞄を漁って、一枚の紙きれを私に手渡した。ここにはきっと、重要なレシピが書かれていることだろう。そんな大層なものではないのだけど、私にとってはそれくらい重要だ。

 幸いにも今日は休日。今すぐ、材料を買って家に戻って作れば今日中には完成させられるだろう。させられるはずだ。させられると信じてる。

 そうして、今日の私の予定が決定した。それはそうと、あの女性は誰だっただろうか。彼以外の人間に興味を抱いていないことがよく分かるのだった。



 それから、私はレシピの材料を購入して家に戻ってきていた。必要なものは板チョコに生クリーム、そしてココアパウダーだ。純ココアパウダーというものがよいらしい。材料で分かっているかもしれないけど、作るのは生チョコというものだ。以前食べたときはおいしかったと思う。

 もちろん、料理の経験のない私は料理道具も購入してきた。後は、包装用の紙とか。

 まずは、チョコレートを切り刻むらしい。包丁を手に取り、板チョコを細かく切っていく。何度か指を切りそうになりながらもなんとかすべてを切ることに成功する。

 それをボウルに移してから、レンジで少し温める。組織から供給された家電の中にあったためそれを利用させてもらう。何気に組織に感謝したのはこれが初めてかもしれない。

 レンジで温めている間に、生クリームを鍋に入れて火を入れていく。沸騰しない程度に温めるらしい。にしても、生クリームというと、あのふわふわしたケーキとかに乗っているものを思い浮かべたけど、液体だった。

 そうして、レンジから温まったチョコレートを取り出して、生クリームの中に入れる。それをへらでかき混ぜると、だんだんとドロドロになってくる。

 ドロドロになったチョコレートをバットに流し込んでから冷蔵庫へ。

 そして⋯⋯、一晩寝かせる!?これから、一晩待つなんてしたら今日中に完成させることができない。えっと、どうしたらいいの?というわけで、現在に至る。

 さて、どうにかするしかないのだけど、時間が足りない。もういっそ、能力で過去に戻れないか試してみようか。そんなことしたら代償で私の命は尽きることになるのだけど。いくら、代償を払う前に戻せるといっても、一度は払うことになるため、払いきれる限界を超えると命を失う。

 と、話を戻す。何かいい方法はないかと辺りを見回してみる。そして目に入ったのは、冷蔵庫の下にある冷凍庫だった。冷凍庫の中は冷蔵庫よりは温度が低いはずだ。どうなるのか分からないけれど、やってみるべきだろうか。いや、やるしかないのだろう。

 そうして、冷凍庫の中にチョコレートを放り込む。さて、今の間にすることもない。どうしたものか⋯⋯。とりあえず、ラッピングに使う箱を作ろうか。

 そう思った私は、家の中で見つけた箱に、ラッピングペーパーを張り付ける。私の思っていた以上に私は器用だったようできれいな箱が出来上がっていく。初めはラッピングペーパーにくるむだけでいいかと思っていたけれど、箱を作ってよかったと思う。

 そんなことをしているうちに数時間が過ぎていた。冷凍庫に入っているチョコレートをとりだしてみる。すると、結果、カチコチに凍り付いたチョコレートが登場する。包丁を突き立てるが、切断することができない。

 いやいやいや、いくら何でも切れないくらいまで固まるのはおかしいでしょ!焦ってキャラが崩れつつあることを自覚しつつも、心の中で叫ぶ。

 任務に使うナイフを取り出しそれを突き立てようと試みるけど、それすら歯が立たない。私の力のなさを補うほどの切れ味のナイフであるはずなのだが⋯⋯。ファンタジー世界からやってきたチョコレートなのだろうか。いや、そんなわけがないのだけど。

 そんなわけのわからないことを考えながら、チョコレートの切断を目指すのだけど、体重をかけてみても傷一つはいらない。ファンタジー世界のチョコレート疑惑が強くなるばかりだった。


今回から、あとがきの書き方が変わります。私、宵野雨と、あとがきのみで登場するイデアでの会話形式です。


宵「というわけで、あとがきです」

イ「ここでは、本編の内容に関する雑談を、とのことです」

宵「で、今回はまあファンタジーチョコレートだよね」

イ「刃物で傷一つはいらないチョコレートって⋯⋯」

宵「存在したら大変なことに?」

イ「溶けて終わりでしょ」

宵「あいつ溶けるの?」

イ「溶けなかったらチョコレートではないね」

宵「それもそうか」

イ「というかさ、チョコレートを固めるのって冷蔵庫に二時間入れとくくらいでいいんじゃない?」

宵「⋯⋯」

イ「⋯⋯」

宵「それでは、また次回!」

イ「⋯⋯逃げた」

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