第69話 『斬る』能力
更新遅くなってすいません。
〈sideミナ〉
「っ!」
また、突然体に痛みが走る。
「そろそろ倒れてもらえませんかね」
男は息をつく間を確保できたことで先ほどよりも疲れた様子はない。それに対して私は確実にダメージが蓄積されていく。危険になれば魔法で治療はしているが、魔力は有限だ。このままだと治療ができなくなるのも時間の問題。
「というか、もう倒れてもおかしくないくらいには攻撃しているのですが⋯⋯」
流石に魔法で治療し続けると違和感を持たれるようだ。
「こちらで能力を得たのでしょうか?」
魔法は私の世界の力で能力ではない。こいつは能力には注目したけど、魔法には目を向けてなかったのだろう。
「しかし、そうだとしても攻撃し続けるしかありませんからね。能力である以上消耗はあるはずですし」
男はそう呟いてから、攻撃を再開する。能力ではないが消耗はあるので、このまま攻撃を続けられるといつかは回復もできなくなる。そうなってしまうと負けることになる。
反撃しようとしても、体が痛みを感じる頃にはもうすでに離れてしまっているためできない。質の悪いヒットアンドアウェイ戦法と言えるだろう。
一応、身体能力では私のほうが上なのでもう一度捕まえることができればいいのだけど、そううまくはいかない。刹那のように『加速』できるのならば、あいつの姿を見た瞬間そこに高速移動してしまえばいい。相手は五秒間で移動できる距離にしか移動できないので視認できる距離にはいる。でもこれは、たらればの話。実際にできるわけではない。
幸いと言えるのは、あいつは能力に頼りきりかつ、殺すことを目的にしていないため致死性の高い武器を持っていないという点だろう。流石の魔法でも即死してしまえば回復することはできない。周りで倒れている人たちからナイフや銃を奪う可能性もあるので、それには注意しなければならない。注意したところで意味はないかもしれないが。
「本当にしつこいですね」
私がいつまでたっても倒れないことにイライラしているようで男はそんな悪態をつく。ここまでずっと、私は攻撃を受け続けることになっていた。もはやサンドバッグ状態だ。
でも、これまでずっと回復を続けてきたせいで魔力は底をつきかけている。このままいけば数分も持たないだろう。
突然先ほどよりも強い衝撃が体を襲う。それによって私は横に吹き飛ばされる。むしゃくしゃして力加減が変わったのだろう。私は、床を転がってから止まる。
相手がいくら雑になろうが『時』と『止める』能力ならほとんど関係なく、私が有利になるというわけではない。
「⋯⋯おい。まだやれるのか?」
突然、横からそんな声がかけられた。男は私を吹き飛ばすことで体力を使ったようで遠くで息を乱している。
声をかけてきた相手に目を向けると、そこにはボスがいた。ボスはすでに息も絶え絶えで、ひどくダメージを受けているようだ。ボスのところに飛ばされるって偶然だな。
「お前の能力は『刃』だったな?」
ボスは、なぜかそんな確認をしてくる。私はそれに首肯で返す。
「分かった。俺の能力は『斬る』だ」
突然自分の能力を告白するボス。何が言いたいのか分からない私は特に反応を返すことができなかった。
「俺の能力をお前に託す。可能性くらいならあるだろ」
そう言って、私に向かって手をかざす。すると、私に何かが流れ込んでくる感覚があった。この感覚は以前にも味わったことがある。私が父親の能力を受け継いだ時だ。だからこそ、私には今、能力が流れ込んできているのだと理解できた。そうして、私の中で能力が形作られていく。
「後は、頼んだぞ」
ボスの手は重力に従って落下していく。それと同時に目も閉じていった。
感傷に浸りそうになるが、今はそんな場合ではない。だから、私はボスから目を放し男に目線を向ける。
『刃』の能力と『斬る』能力。『斬る』能力は能力を使うことで相手を切ることのできる能力のようだ。つまり、剣やナイフを使わずに相手を切れるということ。相手からすれば突然傷つけられたようなものだ。しかし、私の間合い以外では切ることはできない。確かに相性の良く思える二つだけど、あの男に通用するようには思えない。確かに『刃』の能力で間合いを広げるようなことはできるが、動かせる『刃』の間合いだけだ。止められて落下している『刃』は間合いとして認識されない。
それに、二つの能力を使うとなると体力も同時に消費することになるので使いどころは限られる。確かに、強くはなったが、今活かせる能力とは言えない。
こうなったら、無理やりにはなるが、相手に接近して切りかかってみるか。
そう考えた私は地を蹴り、相手に接近する。それと同時にナイフをいくつか飛ばしてみるがそれらはすべて落下していく。仕方なしに『斬る』能力と、私の持っているナイフで同時に切りつける。レイピアは戦闘の最中にどこかへ飛ばされてしまった。
男はもちろん、時を止めて回避を試みようとする。しかし、私が止まることはなかった。
ああ、そういうことか。こうなってから理解した。『斬る』能力と『刃』の能力が合わさると『刃』の斬る能力が強化される。時空を切り裂くほどに。
だから、私は時が止まった世界でも動くことができている。そのまま、ナイフを振り切ると男は切り裂かれる。かなり深く切りつけることができたため致命傷だろう。
そうして、時の止まった世界は解除される。それと同時に男は倒れこんでいく。
そうして、私は勝った。しかし、それと同時に今までの疲労がやってくる。そのまま私の意識は闇に飲まれるのだった。
これにて、ミナ編は終了です。もう一度、刹那の視点に戻ります。その次が小雪です。おそらく⋯⋯。