第64話 復讐
〈side刹那〉
そのまま、少年を探すこと数十分。とうとう少年を見つけることができた。周りにはほかの男たちがいる。合流したのか⋯⋯。ここまで逃げられるとは思ってなかった。実は能力者なんかじゃなくてこの才能が見込まれて、とかのほうが可能性は高いかもしれない。
「な、く、来るな!」
いまだにおびえた様子で少年が僕に言ってきた。周りの男は特に動揺した様子はない。あの男と同様に戦闘には慣れているのだろう。
僕は、そんな男たちに能力を発動させ接近する。そうして、一撃で吹き飛ばす。
「な、能力者か。囲め!」
流石に、僕が能力者だということには驚いた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、指示を出す。瞬間、僕を囲むように広がって、銃を構える。こういう訓練も積んでるのか⋯⋯。本当に過去にあった闇の組織かもしれない。
そんなことを考えている間に、男たちは僕に向かって一斉に発砲する。僕は、自分の認識に能力を発動させる。あたりはスローになり、迫りくる弾丸も視認できる。その合間を縫って僕は移動する。男たちからしてみれば、異常な光景だろう。全員が口をあんぐりと開け、驚いた表情へと変わっていく。
僕は、うち一人を攻撃し気絶させる。それによって空いた隙間から包囲網を脱出する。そして、流石に認識を加速させたままだと気持ち悪いので能力を解除する。あたりのスローモーションは終わり、元の景色に戻る。
能力を解除しても、足を止めるというわけではなくほかの人間を気絶させて回る。もちろん、視認できない速度で動く僕に対応できるはずもなく、相手はすぐさま数を減らしていく。
「おい!さっさと能力使え!」
うち一人が、少年に向かって命令する。やっぱり少年は能力者だったか⋯⋯。
命令された少年は僕に向かって手をかざす。しかし、一向に能力を使わない。様子を見るに人を殺すことに忌避感を抱いているのだろう。僕は高速で動き続けているので、そんな迷いがあったら狙いを定めることもできない。
数十秒ほどして、とうとう僕に向かって能力を発動させた。向かってくるのは火球だった。
あいつが『燃やす』能力者か⋯⋯。僕の待ちわびた復讐の対象⋯⋯。確実に殺さないとな。
そう結論付けた僕は、それを回避して、少年に接近する。そのまま、ナイフを突き立てようとしたのだが、能力者を失うことが惜しいのか、横から僕に向かってタックルしてくる男がいた。意識を少年に向けていた僕はそれを回避することができずに、地面を転がる。そのまま、男は僕に向かって発砲。僕は横に転がって回避を試みるが、躱しきれずに銃弾は足を貫通する。
「てこずらせやがって」
僕が足を負傷したのをいいことにそんなことをつぶやく男。そのまま、もう一発銃弾を放とうとするが、僕はすぐさま起き上がり相手の懐に潜り込む。そのまま殴りつけ気絶させる。足の負傷は回復速度を速めて完全に治っている。貫通してなかったら面倒だったな⋯⋯。銃弾がある状態での治療は小雪くらいにしかできない。
僕が何事もなかったかのように起き上がった様子を見て周りの男も驚いた顔をする。
よくよく考えたら、復讐をするのに回りの奴らは邪魔だな⋯⋯。
そう思った僕は能力を発動させ、男たちに接近する。腕を振りぬく。空気抵抗でバラバラになるはずの腕も能力で壊れたそばから回復させた。それによって生じた風圧で男たちは全員吹き飛ばされる。そのまま壁に激突し意識を手放す。
これで邪魔者はいないな。さて、どう殺そうか⋯⋯。先程は怒りで目がくらんで一気に殺してしまいそうになったからな。それだと、復讐心が晴れることはないと聞いたことがある。
「なんなんだよ!お前は」
少年が僕に向かってそんなことを言ってきた。
「復讐者だよ」
僕はそう答える。そうだな。まずは自分がなぜ殺されるのかからだよな。自分が何をしたのか、それを言ってからじゃないと罪が分からないか⋯⋯。
「は、はぁ?意味が分からねぇよ」
身に覚えがあるのか、詰まりながらとぼける少年。
「そうか。僕の家を燃やしたのも覚えてないんだな」
「っ!だからって殺すのかよ!」
ちゃんと覚えていたようで何よりだ。
「殺さない理由があるか?」
「あ、あるだろ。なあ、殺すのだけはやめてくれよ」
命乞いを始める少年。こいつは馬鹿なのか?僕が殺さないわけがないだろうに。
「頼むから⋯⋯。見逃してくれ」
少年は命乞いを続けている。僕はこんな奴に人生を狂わされたのか?こんな僕の前で、無様な姿をさらすような奴に。
むしゃくしゃして、近くに落ちていた銃で少年の足を打ち抜く。
「っ!」
かなりの痛みがあったはずだが少年は歯を食いしばって声を上げることはなかった。なんでこんなとこで意地を張るんだか。それなら最後まで悪を貫いてくれよ。こんな奴のために今まで費やしてきたことが無駄に思えるじゃないか。
僕が、そんな少年の様子に注目していたからだろう。後ろから銃弾が放たれるのが見えなかったのか。
後ろで銃声が鳴り響く。そうして、銃弾は僕の横腹に命中する。後ろには、倒れたまま銃口を僕に向けている男がいた。幸いにも、立ち上がることはできなかったようで僕の心臓や脳には届かなかったようだ。しかし、後ろを向いたため、僕は少年に背中を見せてしまった。
「今だ!そいつを殺せ!妹がどうなってもいいのか?」
少年に向かって倒れていた男は叫んだ。
もうすぐ2021年も最後ですね⋯⋯。よいお年を。