第63話 復讐心
〈side刹那〉
翌日、僕はまた任務を受けた後に組織への侵入をしていた。普通は休むものなのだろうが、そこまで疲れてはいないし、時間がもったいない。ちなみに言うと、昨日集めた資料の中には僕の探している情報はなかった。
足音を抑えつつ通路内を移動していく。今回の組織は人が少ないようで気配は少なかった。警備員くらいはいそうなものだがその気配もない。数人程度の気配しか残っていなかった。
そのまま、進み続け、様々な部屋に寄って情報を集めていく。
とある部屋にある書類を眺めていたとき、それを見つけた。僕の家を燃やす計画書を。この組織は『燃やす』能力者を保有しているようでそいつを使って放火したらしい。厳密にはこの組織が『燃やす』能力者を持っていたというわけではなく、依頼者からの提供らしい。まあ、そこはどうだっていい。言えることは、この組織は僕の復讐の対象だということだ。
後ろから視線を感じ振り向く。そこには一人の少年がいた。僕は振り向きざまにナイフを投擲していた。しかし、それは簡単に躱される。期待はしていなかったが躱されるよな⋯⋯。
「い、いきなりそんなもんを投げてくるなよ」
若干おびえた口調で少年は言った。いや、こんな組織に居て侵入者に攻撃されないと思わないほうがおかしいだろう。
僕は、そんな少年の様子は気にせずに地を蹴り接近し、攻撃を繰り出す。いきなり殺すような攻撃をするわけにもいかないので素手で。ナイフを投げてたやつが言うな、という話だが。
「っ!」
少年は素早く手をクロスさせ僕の攻撃を防ぐが、少し後ろにのけぞる。そんな隙を僕は逃さずに追撃を繰り出そうとするが、後ろからもう一つの気配を感じ飛びのく。
先ほどまで僕のいた場所を銃弾が通り抜ける。銃弾の発射地点に目を向けると、そこには先ほどの少年よりも年上の男がいた。
「何をしている?」
男は僕に向かってそう言った。銃を構えているだけだが、その構えに隙はほとんどない。なるほど⋯⋯。こいつがいるからこの組織は警備員が少なかったのか。戦闘慣れした人間がいるならほかの奴らは邪魔になるだけだろうからな。物量で押し切るほどの人員がいないならば少数の精鋭がいたほうがいい。
「お前も、こちらに戻ってこい」
男は少年にそう声をかけた。
「はい」
少年は不服そうな様子でそれに従う。少年のほうに注意を向けても、僕を警戒したまま。やはり、かなり強い相手ではあるのだろう。下手をすると、能力者が生まれる前からこういう仕事をしてきたのかもしれないな。
だからと言って、勝てない相手というわけではない。能力の強さ、それだけで勝敗は分けられる。見た感じ、あの男は能力者ではないように思われる。つまり、僕には能力によるアドバンテージがある。
鎖の能力は回避される可能性が高いため、『速める』能力を発動させ、地を蹴る。一瞬に距離を詰め、男を無力化しようとする。
「なっ!」
男は驚いた様子だったが、それはぎりぎりで受け流される。直感だけで動きダメージを抑えたのだが、殺しきれなかった衝撃を受け、男は後ろに吹き飛ぶ。
「くっ」
流石に、認識できない速度で動く相手には男だけでは対応は不可能だと分かったようで、悔しげな声を上げる。
「や、やめろ!」
何を思ったのか、少年が僕のほうへ向かってくる。こちらは戦闘慣れしてはいないようで直線的な動きだ。僕が少し動くだけで、行き場を失った少年は地面へと転がる。本当になんでこいつはここにいるんだ?実力的に僕に声をかけるべきではないだろう。
つまり、こいつは能力者の可能性が高いか⋯⋯。僕と戦っている男も強いが、無能力者だろう。いや、待てよ。だとすると、能力者が現れる以前に戦闘関連の組織に所属していた人間である可能性があるか⋯⋯。僕の家が発火されたときには能力者は存在していなかった。表に出てなかったというだけだろうが⋯⋯。そんな時期に、放火の依頼をされるような組織だ。そう言った、闇の仕事をしていてもおかしくはない。
いろいろと考えたが、それによって変わることもない。
そう考えた僕は、再度能力を発動させ、男に再度接近し気絶させる。こいつが、実行犯ではない可能性もあるためだ。もちろん、トップの人間や『燃やす』能力者は殺させてもらうが⋯⋯。
「な、こ、殺したのか?」
おびえた様子で、少年はそう声を漏らした。いや、気絶させただけなんだが⋯⋯。
気絶しているだけということには気づかずに、おびえ切った少年は僕に背中を向けて走り去っていく。敵に背中を見せたらだめだろう。そんなことを思いつつ、僕は少年を追いかける。
しかし、思いのほか逃げ足が速いようで、すぐに見失ってしまった。こっちは能力使ってるんだがな、それなのにもかかわらず逃げ切れるのかよ⋯⋯。
そう言うわけで、僕はまた探索を再開することになった。時折、襲い掛かってくる人間を気絶させつつ、先ほどの少年を探して歩く。あの少年が能力者だとすると、『燃やす』能力者である可能性も捨てきれない。あんな少年に、と思うかもしれないが、これは理性では抑えがたい復讐心だ。たとえ、殺すことに慣れていない少年だったとしても、僕にはとても許すことはできない。
割と速いペースで物語が進んでいるので、小雪の再登場も近いかも?