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閑話 クリスマス2

 結局、小雪は自分の服を買うことなく服屋を後にすることになった。着せ替え人形にされた僕はというと、精神がかなり弱ってしまっていた。

 小雪はというと、機嫌のよさそうに僕の前を歩いている。精神が弱ってしまったとは言っても小雪に荷物を持たせるわけにもいかないので、ずっしりとした荷物を僕は持っている。これ全部僕の服か⋯⋯。こんなに着るかなぁ。そんなことを思いながら歩いていく。ちなみに、僕らの組織は仕事が仕事なのでかなり給料が高い。少なくとも一学生が持てるような額ではない。そのため、この程度の散財でピンチになるようなことはないのだが、かなり高い買い物をしたような気分になる。


「⋯⋯大丈夫?」


 しばらく歩いて、自分の選んだ量を思い返したのか小雪が振り返ってそう尋ねてくる。


「まあ問題はないぞ」


 僕も鍛えてはいるのでこんな程度の荷物で音を上げることはない。ただ、量が量なので歩きにくさはある。


「⋯⋯いったん戻ろっか」


 小雪は僕の荷物の量を見てそう言った。まあ両手にかばんをぶら下げた状態で街を歩き続けるのも変なので同意しておく。



 その後は、一旦家に戻った後にまた街に戻ってきていた。広場でイルミネーションをするらしいから一緒に見ようとのことだ。ここからは小雪の先導になった。こういうのは男性がエスコートするもんだとかいう意見は聞かない。

 とは言っても、夜まではまだ時間があるので先に夕食を済ませてしまおうということになった。流石に、また買い物をしようとはならなかったようだ。

 そう言うわけで、何かいい店はないかと僕らは街の中を歩いていた。僕らは二人とも外食をするようなタイプではないのでそういう店に関しては疎かった。だから、街の中を歩いていたのだが、


「ねえ、君。かわいいね」


 何やら小雪に話しかけてくる人間が現れた。まあ、僕から見ても小雪は可愛い少女だ。ナンパされるのもうなずける。小雪はというと、あまりこういった人の対応には慣れていないのか、少し困った様子だった。


「そんな男とじゃなくてさ、俺と一緒に遊ばない?きっと楽しめるよ」


 そんな様子の小雪を見てか、一気に畳みかけてこようとする男。おそらく、小雪は押しに弱そうだと思ったのだろう。しかし、その言葉を聞いた途端小雪の目は冷めきってしまった。何か変なことを言ったか?僕のことをこんな男呼ばわりされたことが気に入らなかったのだが、僕はそれに気づくことはなかった。


「君なんて名前なの?その真っ白な髪は色を抜いたのかな?とても似合ってるよ」


 男は、小雪の変化に気づくことはなく、さらに声をかけてくる。ここまでぺらぺらと誉め言葉が出てくるのはすごいなと、僕は思いつつこの男にどう対応するか考えていた。ちなみに、小雪の髪が真っ白なのは生まれつきだ。アルビノでもないのに不思議だと思ったのを覚えている。


「⋯⋯そう。早くどっか行って」


 僕が行動を起こす前に小雪がそう言った。表情は完全に無表情だが、僕にまで伝わってくるほどの威圧感がある。もちろん、そんな威圧を正面から浴びた男はカタカタと震えていた。


「そ、そんな脅していいのか?俺は」


 すごいな。この威圧感を受けても言い返そうとできるのか。僕はなぜか、そんなところに感心していた。


「能力者の知り合いがいるんだぞ!」


 お前じゃないのかよ⋯⋯。きっとみんなそう思ったことだろう。


「⋯⋯それが?」


 小雪は変わらずの無表情でそう返す。イラついているのか先ほどよりもさらに威圧感が増している。


「お、覚えてろよ」


 そう言って、男は走り去っていく。いや、逃げていったと言ったほうがいいか。


「行こ」


 小雪はそんな男に目もくれずに歩き始める。先ほどの威圧感はなくなり、怖い無表情から、普通の無表情に戻っていた。一見違いは分からない。

 そんな小雪を見て、僕は逆らわないようにしようと、そんなことを思うのだった。最後まで僕の出番はなかったな。男としてどうなんだ、と今更ながら思った。



 その後は、いい感じの店を見つけ僕らはその店の席についていた。見た目は高校生くらいの僕らが、まあまあの値段のする店に入ってきたからか、店員からは変な目で見られてしまった。

 そうして、僕は適当にメニューを広げてどれにしようかと考える。メニューの中には今がクリスマスということでそれっぽい鶏肉などクリスマスらしいメニューも入っていた。店内もクリスマス仕様に装飾がされており今がクリスマスなんだと実感させられる。イブだけど。


「⋯⋯これ」


 小雪は、クリスマスメニューと七面鳥風の鶏肉を焼いたものにするようだ。僕も特にこれが食べたいというものはないため、小雪のものと同じものにする。カップルなら分け合ったりするのかもしれないが、カップルではないのでそういうことはしない。小雪が少しがっかりとしているように見えるが気のせいだろう。落ち込む理由はないはずだ。


「お待たせしました」


 しばらくすると、店員が料理をもってやってくる。持ってこられた鶏肉は大きく、女性は厳しいんじゃないかというくらいの大きさがある。小雪も若干困ったような表情を浮かべている。

 その鳥を箸でほぐしつつ僕は食べていく。男ならかぶりつけと思う人もいるかもしれないが、気にしないでほしい。小雪もまねて食べようとしているが、箸を使い慣れていないようでうまくほぐせないでいる。小雪は組織にとらわれていた過去があるからか箸の扱いには慣れていなかった。僕はそんな様子を見て、箸の入っていたかごからフォークとナイフを取り出して小雪に差し出す。箸の扱いに慣れていないならこっちのほうが使いやすいだろう。

 小雪は若干恥ずかしそうにしつつそれを受け取ってナイフで切ってから口に運ぶ。だが、切ってもまだ大きかったようで食べにくそうにしつつ口に入れた。

 そんな感じで、僕らの夕食は進んでいった。しばらくすると、僕、小雪の順で食べ終わった。あの鶏肉はボリュームがあったので僕も小雪も満腹になっていた。小雪は最後までデザートを頼むか迷っていたが、結局頼むことはなく店を出ることになった。



 そうして、僕らは今、広場まで来ていた。ここでイルミネーションがあるらしい。今まで、この街で暮らしてきたがイルミネーションをしているというのは知らなかったな、とそんなことを思いつつ、イルミネーションが点灯するのを待つ。


「⋯⋯楽しみ」


 小雪もわくわくとした様子でイルミネーションが始まるのを待っていた。僕も内心少し楽しみにしていた。


「⋯⋯そうだな」


 だから、僕も小雪の意見に同意する。そうして、数分が経った頃、辺りが光に包まれた。赤、青、白、緑と言った複数の色の光が広場の中を照らす。


「⋯⋯きれい」


 小雪も思わず、そんな言葉をこぼした。僕も、こういった風景はほとんど見たことがなかったので同じようにきれいだと、月並な感想を持っていた。僕でもそう感じているのだから、今まで監禁状態だった小雪にとってはとても幻想的で感動するような光景なのだろう。

 そのまま、一、二分呆然とその景色を眺めていた。


「そろそろ回らないか?」


 僕がそう声をかけたことで小雪もようやく我に返った。


「⋯⋯ん」


 まだ少し余韻に浸っているようだが、そんな返事が返ってきた。そうして、僕らは歩き始める。


「⋯⋯すごい」


「確かにな。なんで知らなかったんだろうな」


 あたりの雰囲気にのまれつつそんな会話を交わす。なんだか、別世界に行ったような感覚を抱く。


「⋯⋯ねえ、ありがと」


 突然、小雪が僕に向かってそんなことを言ってくる。


「なんだ?急に改まって」


「今日一緒に行ってくれたこともだし⋯⋯。私を助けてくれたことも」


 ああ、確かに小雪たちを組織から救い出したのは僕だったな。あの頃は、小雪とパートナーを組むことになるとは思ってなかったな。


「だから、ありがとって言いたくて」


 なるほど、それを言いたいから僕と出かけようとしたのか。


「⋯⋯」


「⋯⋯」


 その後は、僕らは無言になってしまう。でも、不思議と居心地が悪いものではなかった。

 それから、数分が経っただろう。ぽつりと空から何かが降ってくる。


「⋯⋯雪」


 そう、振ってきたのは雪だった。小雪は手で皿を作って雪を受け止める。そんな姿が似合っていて、小雪と名前を付けたのは正解だったなと思う。


「そうだな。ホワイトクリスマスか⋯⋯」


 気が付けば時間は二十四時を回ろうとしている。もうすぐ、クリスマス当日になってホワイトクリスマスとなる。小雪と過ごすクリスマスに雪が降るっていうのはなんだかよいことのように感じる。


「⋯⋯また見ようね」


 来年、僕と小雪が一緒に居るのかは分からないが、そうだといいな、と柄にもなくそんなことを思った。


「座ろうか」


 ちょうどよく、僕らの目の前にベンチがあった。僕は小雪にそう声をかける。そうして僕らはそのベンチに腰を下ろす。


「⋯⋯きれいだね」


 小雪は今日何度目かのそんなことをつぶやく。


「ああ、そうだな」


 僕も、今日何度目かも分からない相槌を打つ。

 突然、小雪が僕にもたれかかってくる。僕に、暖かな体温が伝わってくる。僕も小雪に軽く体を預ける。不思議と恥ずかしさはなかった。

 そうして、ついに時間は二十四時を回り、クリスマスになる。まだ、雪は降り続けていてホワイトクリスマスになった。


「メリークリスマス」


 僕はせっかくなので小雪にそう声をかけた。


「ん。メリークリスマス」


 小雪もそう返してくれた。

 そのまま、僕らは数十分イルミネーションと雪を眺め続けたのだった。


メリークリスマス!

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