第62話 刹那の能力
〈side刹那〉
ミナが僕らの世界に来ているとは知らずに、僕は任務を受け、それをこなし続けていた。異世界に行った目的である能力は手に入れた。そして今は、任務でいつも通り組織に侵入していた。こういう組織は大きいものもあるが、たいがいは小規模なもので、それらは数多く存在し、把握しきれていないのが現状だ。能力を得て社会が崩壊したことでそういった組織を作ることに問題がなくなったことが一番の要因だと思われる。そのため、僕らは特に危険なことをしている疑いのある組織を調べ調査をしている。
話を戻すと、僕は能力を手に入れた。僕は自分の能力を発動させる。すると、地面から鎖のようなものが出現する。
能力をいつ手に入れたのかというと、あの村での依頼で見た祠だ。異世界には能力を得る方法が二通りある。まず、能力者から引き継ぐ方法。もう一つが祠に出会うこと、らしい。らしいというのは、例の組織の潜入時に見つけた資料からの情報だからだ。
僕は祠を一度見つけたので能力が二つあるという状態となっている。予想になるが、小雪は初めの森で獣から逃げ回っていたときに横切ったのだろう。ミナは、もう一つの引き継いだというタイプだ。
ではこちらの世界の能力はというと、こちらも二通りの方法がある。一つ目は、異世界の能力と同じだがほかの能力者から引き継ぐ方法。ただ、違いもあって能力者の中の能力のもとみたいなものは存在しない。どうやって引き継ぐのかというと、意志を引き継ぐという言葉が近いと思う。他の能力者がこいつに引き継がせたいと願うことで能力が継承される。もう一つはというと、突然授かるケースだ。初めに能力を得た人間はこれに当たる。僕はこのケースだ。小雪はよく分からない。
それは置いておいて、僕が得た能力についてだ。先程は能力を発動させると鎖が現れた。これだと鎖の能力と思われるかもしれないが、そうではない、と思う。
ちょうどよく、僕の潜入していた組織の見回りの人間が僕の視界に入った。僕は能力を発動させ、そいつを拘束する。相手は何か抵抗をしようとしていたがそれは不発に終わった。そのまま、自分の体を加速させ相手を気絶させる。
今回手に入れた能力は拘束した相手の能力を封じることのできる鎖、ということだ。
ただ、気になることと言えば、これは鎖の能力と思われるのだが、能力を封じることの説明ができない。『もの』の能力にしては違和感があるのだ。とはいえ、僕の能力である以上問題はない。
その後も、僕は能力を駆使して組織の内部を探し回っていく。僕の能力に隠密性はないため、しばらくすると組織内部が騒がしくなってくる。侵入者に気づいたということだろう。所々で、武装した人間を見かけるようになった。その都度、鎖で拘束して気絶させ、を繰り返していく。昔は、ナイフで腱を切ったり、場合によっては殺したりもしていたのだが、僕も、戦闘に慣れてきたのか気絶で済ますことができるようになってきた。いや、でも、殺すことがなくなったのは小雪と組んでからだったか。小雪に血を見せるのはあまりよくないだろうと思っていた記憶がある。
そんなことを考えているうちに、何やら重要そうな部屋を見つける。おそらく、記録などを収めておく部屋だと思われる。中から、物音もするため、警備員もいるのだろう。だからと言って、入らないというわけにはいかないので、その扉を開ける。
「侵入者だ、撃て!」
すでに警戒態勢を敷いていたようで、すぐさまそいつらは銃を構え、発砲する。この組織にはここまで訓練されている人間がいるのか、と何の躊躇もなく銃を撃ってくる人間を見ながら思う。
僕はというと、能力を自分の知覚に対して発動させ、情報の処理速度を速める。すると、僕の周りはスローモーションのように変わる。何度やってもなれないな、と思いつつ、自分の移動速度も速めて銃弾の雨を潜り抜ける。スローとはいえ、当たると怪我を負うのですべて当たらないように回避する。そのまま、銃を発砲している人間のそばまで行くと、流石に仲間を打つことには抵抗があるのか銃弾がやむ。その隙に素早く全員の意識を刈り取る。
そいつらを近くにあった布で拘束し、銃は破壊しておく。こうしておけば、目が覚めたとしてもすぐに動くことは難しいだろう。
それを終えた僕はさらにその奥に入っていき、書類やUSBを回収していく。軽く内容にも目を通すが、特にあの組織とかかわっているような情報はなく、銃の仕入れ先や不正の証拠ばかりだった。十分、任務は成功と言えるのだが、僕個人としては残念としか言えない。よくよく見れば情報があるのかもしれない、とそう考えることにして、そのまま回収作業を終えた僕は、その組織を後にする。これだけの不正の証拠が見つかればこの組織は壊滅するだろう。
僕が探しているものはというと、僕の家を焼いた組織につながる手がかりだ。いつか、その組織に復讐をする。それが今の僕の目的だ。もし、理由がひどいものだとしたら、相手を殺すことも厭わない。
会話が恐ろしいくらいに少ないな。