第61話 訓練
〈sideミナ〉
その後は新しく別の男がやってきて、私に戦闘技術を教えていった。その内容はよくよく考えれば分かりそうなことも多々含まれていて、もしかすると、私たちの世界の人間はこういった戦闘技術の改善点に気付きにくいようにできているのかもしれない。
本当に、そもそもそういう風にできているのではないか、というくらいに考えてみたら当然のことばかりなのだ。明らかに異常なことだ。
とは言っても、考えたところで仕方がない。そう考えた私は思考を切った。
そうして、今はもう日も暮れて夜になっていた。今日だけで大分強くなれたと思う。
「食事の準備ができましたが⋯⋯どうされます?」
私がふかふかのベッドに沈んでいると以前の女性がそう声をかけてきた。私は急ぎ姿勢を整える。今日の訓練は初めて感じるくらいの疲労を感じさせるものだった。それに身を任せて倒れこんでいたのだが、まあこうなった。
「あ、えっと、いただきます」
少ししどろもどろになりながらそう返す。
「は、はい。分かりました。ここに置いておきますね。し、失礼しました」
すると、女性は手に持っていたお盆を置いて、部屋を後にしていった。なんだか、気を遣わせたみたいで悪いな。
そんなことを思いつつ、私はその食事に口をつける。やはり、自分の世界で食べていた食事よりもはるかにおいしいものだった。こういうところで文明の差を感じる。あのこんぴゅーた、と言うものは意味が分からな過ぎて実感がわかない。
のんびりとそんなことを考えていると、食事もなくなった。やっぱりおいしかった。
食べ終わったお盆をもって廊下の外に置いておく。ちなみに、こんな対応されるのは、私を表に出すとなると騒ぎになる恐れがあるからとのこと。訓練場も貸し切って対応してもらっていたらしい。調整工事という体でしばらく貸し切りにしてもらえるらしい。正直、今の私の戦闘技術を妥協ラインに持っていくには一日では全く足りないらしい。
そうして今、私はナイフを宙に浮かべてくるくると回していた。効果があるのかは分からないけど、コントロールの練習のつもりだ。回転を速めると位置がずれていくので割と難しい。これを安定させて動かすとなるとかなりしんどい。さらに数が増えてくると、私の頭が処理しきれないような気がする。
その後も、数を増やしたり回転速度を上げたり円軌道に動かしてみたりと、いろいろな動きをさせていってみた。もちろん、どれも難易度は高く、部屋を傷つけないようにするのも大変だった。次からは、もう少し安全な場所でやら応と思う。もしくは刃をつぶしたナイフとか、『刃』の能力で作れるのかは分からないけれど。
しばらく、私は能力の訓練を続けた。結果、魔力が尽きるぎりぎりまで訓練をしてみてから私はな無理につくのだった。
そうして、私は訓練を続ける日々を過ごしていった。この間には能力の制御力も上がったし、戦闘技術もかなり得ることができたと思う。
私の訓練をしてくれた男性曰く、才能はあるとのこと。戦闘経験を積めば勝手に技術は上がっただろうと言っていた。僅かなプライドから今まで、戦闘はずっとしてきたとは言わなかった。
「とりあえず、俺に教えられることは全部教えたからな。免許皆伝ってやつか」
そう言って、私に戦闘を教えていた男性はどこか行った。今まで訓練をしてもらって分かったが、あの男性は割と自由人だ。できる限り仕事はしたくないといったイメージを抱いた。それでいいのか、とは思わなくないが、その性格のおかげで私の髪色とかには何も言われなかったので良かったとしておく。髪を染めたのかなくらいにしか思われなかったのかもしれないけど。
そうして、私は訓練を終えた。特に卒業試験とかがあるわけではない。
今まで考えてはみたが、扉を守っていた男の能力は思い浮かばなかった。そもそも『もの』の能力なのか『動作』の能力なのかも分からなかった。『もの』だとしたら、『磁石』とかだろうか。無理やりに磁力で止めたのかもしれない。『動作』だとすると『止める』になる可能性が高いのだけど、それにどう対処すればいいのか分からない。私の動きを止められるとかとなると何もできない。思いつく方法としては、気づかれる前に不意打ちだが、それが成功するとは思えない。確かに私の技術は上昇したが、何年もその道を進んでいるような人間を上回るほどではない。
結局のところ、まともに能力を使わせられてない以上、能力の推測は難しい。それに、推測してみたとしてもそれはたらればの話でその通りに行くとは限らない。どうなるのかは運次第と言ってもいいくらいだ。
とりあえず、この話はここまでにして、これからどうするべきか。訓練は終わった。だからと言って、すぐに元の世界に戻ろうというわけにもいかない。今私ができることは何だろう。さらに能力の精度を上昇させるか?ぱっと思いつくのはそれくらいだった。もちろん、基礎体力をつけることは必要だろうけど⋯⋯。こちらでの訓練の結果、効率のいい体の使い方を覚えたのか消耗が減ったため、相対的には体力は飛躍的に増えたといえる。そもそも、特に体力不足で困った記憶は訓練でしかないため、これ以上上げても使いどころは少ないだろう。
結局、そんなことを考えているうちにその日を終えることになるのだった。
少し物語のペースが遅いような気がする。