第60話 戦闘技術
記念すべき60話目です。
〈sideミナ〉
「おはようございます」
私は入ってきたボスに対して、挨拶をしていた。敬語になってしまうのは許してほしい。
「そんなにかしこまらんでも大丈夫だぞ。恐らく、あいつが余計なことを言ったんだろうが」
あいつはあの女性であってるだろうか。こちらに来てからはあの女性とボス以外にあってはいないからあってはいると思うのだけど。
「ちょっとそれは心外ですよ」
横の女性がボスに対して頬を膨らませている。
「まあ、それは置いておこうか。君が異世界に戻るという話だが、正直かなり難しいかもしれない」
私のサポートをしてくれる人間が見つからなかったのだろうか。
「刹那からもらった報告書を見たんだがな、一度通った人間以外は世界の移動を行うと気絶する恐れがあるらしい。まあ、一度移動した人間っていうのは刹那しかいねぇから確証はないがな」
確かに、私は気絶していたし、刹那も倒れていたって言っていた。小雪ちゃんも刹那より早く気が付いたと言っていたので気を失っていたのだろう。
そうなると、安全に行き来できるのは私、刹那、小雪ちゃんだけとなる。刹那はこちらに来てくれる可能性は皆無に等しい。小雪ちゃんはあちらの世界に残ったままなので、連絡することはできないだろう。というか、小雪ちゃんの話を聞きたいのに連絡が取れるならそうすればいいだけだ。
つまり、あの男は私が一人で倒す必要があるということ。とはいっても、戦闘技術ははるかに格上。こちらが勝っている力でも戦闘技術のなさを補えるほどではない。完全に詰んでいる。
「そういうことでだ。お前にはしばらくこっちにいてもらおうと思ってな」
それだと、結局小雪ちゃんと連絡取れなくない?とそう思っていると、それを察したのか
「ああ、何もずっとこっちに居ろっていうんじゃない。しばらく、俺たちが戦闘技術を教えるからそれまで居ろ、という話だ」
との補足説明があった。私しか行けないならそれがベストではあるのか。そこまで私が強くなれるかというのは疑問だけど⋯⋯。
それに、私のナイフが止められたからくりは分からないままだ。何らかの能力ではあると思うのだけど、全く見当がつかない。
「どうかしたのか?」
私が考え込んでいると男がそう声をかけてきた。とりあえず、今考えたことを話す。
「なるほどな。そいつに勝てる確証が得られるのがどれくらいになった時なのかわからないってことか」
その問いに私は首肯で返す。私はあいつがどんなことができるのか分からない、というのが現状だ。それに対して、私の能力は相手にばれている。そうなると、私は間違いなく不利だ。あの不意打ちも二度目が成功するとは思えない。
「とはいえ、俺もそいつがどれくらい強いのかは分からないからな」
男がそう言うので、私は分かる範囲であいつの戦闘能力を説明した。
「ん?聞いてる限りだと、たいして強いようには思えねぇぞ。小雪より上の戦闘技術も持っている奴らは多いぞ」
小雪ちゃんよりも戦闘能力の高い人たちが多いって、この世界では私は生きていける気がしないんだけど⋯⋯。
「ああ、まだそういう研究が進んでねぇのか。コンピュータとかがないと戦闘技術の発展は厳しいか」
こんぴゅーたが何かは分からないがこちらの戦闘技術は私たちの世界を凌駕しているという認識でいいと思う。
「とりあえず、これから訓練をしてもらうことにしよう。お前の戦闘能力を見てから考える」
まあ、実際に確認してみるのがベストか⋯⋯。
「今から、ということで大丈夫か?まだ完全に治っていないなら今日は休みにするが⋯⋯」
「大丈夫です」
多少体はなまっているかもしれないけど、動くことにそこまで問題はないと思う。
「分かった。だったら、一時間後、さっきの女に案内してもらえ」
そう言って男は部屋を後にした。一時間間をあけるのは、男の仕事の都合があることからと私の準備の時間という面があるだろう。
それから一時間。私は準備を済ませ、訓練場らしき場所まで案内されていた。私たちの世界と比べると、整備が行き届いているのが分かる。周りにも、自分の知らない道具類が転がっている。
「おお、もう来ていたのか」
そんなことを言いながら男が姿を現す。
「こんな早く来る必要もねぇのに」
そうぼやきつつ、男は武器を取り出す。小雪ちゃんが以前使っていた刀の金属バージョンだと思う。氷の武器を使う小雪ちゃんが少数派だろうけど。
「ああ、まずルール説明し解かねぇとな。殺しは駄目、武器は自由。魔法というやつを使うのもありだ。もちろん能力もな。あと、遠慮なく来てもらってもいい」
私が魔法について話した記憶はないのだけど、刹那が話したのだろう。そして割とルールが緩いな。遠慮なくって、一応ボスなのだから命を大事にしたほうがいいんじゃないかな。
「さあ、お前も武器を構えろ。そのレイピアだろ」
私がそんなことを考えていると、男が私が腰に掛けているレイピアを指さしながら言った。
そう言われ、私はレイピアを向け、構える。そうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
そうして、私は地面に転がっていた。もちろん、ボスは小雪ちゃん以上の戦闘技術を持っていた。小雪ちゃんが強い方じゃないって冗談じゃなかったんだと思わされた。
「⋯⋯これが異世界の標準か?」
私に向かって男はそう言った。暗に私が弱いのだと示している。とはいえ、私が異世界の基準では強かったのは事実だろう。少し自信がなくなってきたけど⋯⋯。そうなると、この世界が進みすぎているということだろうか。
「正直な評価をするとな、確かに一般的な人間と比べると力は強い。ただ、戦闘技術がそれに伴っていない」
それは、私があの扉の前の男と戦った時の自己評価とほとんど同じだった。
「今まで、戦闘の中に身を置いてきたわけだろ」
その問いに私は首肯を返す。実際、冒険者として長くやってきたつもりなのだ。
「それにしては、戦闘技術が明らかに低すぎる。文明の差とかじゃなくてな⋯⋯。傍から見れば戦闘に関しては素人同然だ。もう、いくら戦闘しても成長してこなかった、そんな印象を受ける」
その言葉を聞いた時、あの男の言っていた『停滞者』という言葉を思い出した。私たちの戦闘技術が進歩しないことを示していたのだろうか。
「とはいっても、この戦闘の中では戦闘技術は確実に上がって行っていたが⋯⋯。いや待てよ⋯⋯」
男はそう言って考え込む。そうして、数十秒くらいが経った。
「悪い、少し用事ができた。この後は誰かに訓練をつけてもらえ」
そう言って、男はどこかへ行った。結局私は何も分からないまま取り残されるのだった。
若干、うまく書けなかった感はする⋯⋯。