第58話 インタビュー
お久しぶりです。更新しました。
〈sideミナ〉
「んん⋯⋯」
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。ふかふかのベッドの上に乗せられてもいる。
確か、刹那を追いかけた後、扉の周りにいた男と戦って⋯⋯。つまり、私は誘拐されたということだろうか。私を売るつもりだろうか。でも、あの男が金に困っているようには見えない。というか、なんで異世界の扉の守護をしている人間が盗賊をしているんだ、となる。そもそも、誘拐した相手をこんな上等なベッドに寝かせるというのもおかしな話だ。
だとすると、何が目的だろうか。ぱっと思いつくのは何かの儀式の生贄とかだけど、流石に思考が飛躍しすぎか⋯⋯。
「おっ、目を覚ましたか」
私が思考にふけっていると突然声をかけられた。私はそちらのほうに目を向ける。
そこには、刹那と同じような黒い髪に瞳をした男がいた。おそらく、私より少し年上くらいだろう。
「さて、あんたはどこから来たのかは分かるか?」
?誘拐した相手がそんなことを言うだろうか。私は少し考えて、何かの拍子にどこかに飛ばされたのかもしれないという結論に至った。おそらく、戦闘で吹き飛ばされた先に例の扉があったのだろう。そんなことがあり得るのか、というくらいの奇跡だけど⋯⋯。それに、森で戦った男が追ってきていないというのも不思議だ。
「⋯⋯あなたは分かるの?」
まだ信用するわけにはいかないため、逆に聞き返す。さすがに、正直に異世界から来ましたなんてことは言えない。
「なんとなく推測はついている」
なるほど。つまりあの扉の前に私は倒れていたと考えるのが妥当か。なら、正直に話してしまっても問題はないか。
「多分、推測通り私は異世界から来た」
「やはりか⋯⋯。にしても、異世界の言語がラテン語っていうのもほんとだったんだな」
相手も分かっていたようで、そう呟いた。後半も何かをつぶやいていたがあまり聞こえなかった。
「なるほど。いくつか質問をしても大丈夫か?」
男は私にそう聞いてきた。流れから察するに、あの扉の守護をしていたという男とは別の組織か何かの人間なのだろう。それで、異世界人である私にインタビューをしたいと。
「いいけど、こちらからもいくつか聞かせてもらってもいい?」
この場合なら多少の情報を得ておいたほうがいいだろう。刹那の情報があればなおよい。
「分かった。ではどちらから聞く?」
「じゃあ、私が先に聞かせてもらいたい。まず、貴方は私をどうするつもり?」
まずは、私の扱いがどうなるのかは聞いておきたい。それによって、これからの行動方針が決まる。
「いや、別にどうこうするつもりはない。元の世界に帰りたいなら帰ればいいし、この世界に居たいならそうすればいい。まあ、この世界を自由に歩き回りたいなら監視をつけさせてもらうが」
まあ、妥当なところか。むしろ、甘いともいえる判断だ。問答無用で拘束されてもおかしくない状況なのだから。
「では、こちらからの質問だ。そちらの世界の言語の由来はわかるか」
言語?いや、そもそも異世界と言語が一致していることが異常なのか。ただ、私は言語の由来とかは知らない。共通言語と呼ばれているだけで、それ以上の情報は学者くらいしか知らないだろう。
それを伝えると、相手は少し考えこんで、
「では、そちらに異世界人が来たという記録はないか?それっぽい人物でもいい」
と聞いてきた。つまり、あちらの言語を伝えた存在がいると思っているわけだ。とはいえ、それも学者の専門分野になる。つまり詳しいところは知らない。歴史で考えると、一般に伝わる神話では初めから言語を話していたような描写があったような気がする。そもそも、神話がどこまで真実なのかもわからないし、何ならすべて教会のでっち上げという可能性だってある。
結局、一般に広まっている歴史というのは私たちの世界では神話だけになる。後は口伝くらいだが、これはほとんど信ぴょう性のあるものではない。
私はそれも伝える。あと、何気に二つ目の質問をしている。
「⋯⋯なるほど、真実を知るにはこちらから調べに行ったほうがいいか」
「じゃあ、こちらからの質問。私と同じくらいにこちらに来た人はいない?」
刹那が来ていないか聞いてみる。名前は出さないが、いたとしたらそれは刹那である可能性が高いだろう。
「⋯⋯居たにはいた。お前の知り合いか?」
「えぇ」
「なるほど、刹那の知り合いということでいいか?」
それにも私は首肯する。やはり、刹那はこちらに戻ってきているようだ。
「分かった、刹那に会わせてやる。と言いたいところだが、今は調査に出かけてしまってな⋯⋯。あいつの身勝手には困ったもんだよ」
男はそう言いつつ苦笑する。こちらにいたときは、そこまで身勝手には見えなかったけど、やっぱり記憶が戻る前は別人のようだったということか。
「だったら、こちらからの質問だが⋯⋯小雪はどうしてる?」
少し心配そうな目でそんな質問を投げかけてきた。
「⋯⋯正直わからない」
私は軽くこれまであったことを端折りつつ話した。刹那が記憶喪失に陥っていたこと。そして、記憶を取り戻した刹那を私は見かけて追いかけてきただけで、小雪ちゃんとは話していないことを。
「⋯⋯なるほどな。そりゃ、小雪の苦労も多かったろうな」
男は私の話を聞いてそんなことを呟く。それには私も同意する。正直あの決断はかなり難しかったと思うし、何よりもつらかったと思う。
「で、小雪の現状は分からずじまいか。刹那は、あちらの世界の調査を頼んだと言っていたが、真実かどうかも怪しいな」
調査なら、現地人の私とかを頼るべきだし、小雪ちゃんの性格的に会話での情報収集は難しいように思う。
刹那は、何かしら小雪ちゃんに言ったのだろう。それこそ、黙っていたことに切れて絶縁でもしようとしたか。仮にそうなら、あんまりだと思う。
しばらくは、小雪の視点はないと思います。小雪好きの方はすいません。